17:赤い警備員 妄想編 

「これをこうして……」

「ユウキ、これも出来たよ」


 俺とカコはリュックから出したタコ糸にあれこれと括り付ける作業をしていた。

 すぐに逃げ出せるようにリュックの口を開けたままにして、カコのお尻を犠牲ぎせいにして開けた他の教室内でだ。


「ありがと……これくらいで良いかな。バケツもあれば確実かくじつだったけど」

「教室のバケツも回収されてるもんね」


 そう、本当はバケツが欲しい。

 でもこの学校は掃除用品を業者さんからレンタルしているので……夏休みとか長期で学校が無い時に回収して手入れをすることになっている。

 だから教室のロッカーは空っぽなのだ。


「ふぁ……」

「大丈夫ユウキ? さっきから欠伸あくびばっかり……」


 さすがに昼寝をしてきていても、夜の12時近くは睡魔すいまおそわれる。気をっているつもりでもなかなかその状態の維持は難しい。

 

「大丈夫、これを終わらせた後……少し寝れるだろうし。頑張る」

「ユウキ……夜はすぐ寝ちゃうもんね、罠作りやっておくよ?」


 ……確かに、こんな状態じゃなかなか進みが遅い。

 腕時計を見ると夜の12時……しまった、時計を見たらとんでもなく眠くなってきた。

 

「ごめんカコ。30分だけ……寝るわ俺」

「いーよー。見張りと起こすのはちゃんとやるからそっちで寝ておいで」


 即席仮眠所かみんじょとして机を数個並べて壁にして、寝袋シュラフを一ついた場所を作ってある。

 全部調べ終わったら使う予定だったけど……カコに言われて先に作っておいてよかった。


「じゃあ……よろしく」

「うん、ゆっくり休んでね」


 ころん、と寝袋の上に寝転がり……カコの鼻歌が聞こえてくるころ……俺の意識は夢の世界に飛び込んでいった。



 ―― カコ ――



「……相変わらずすごい寝つきの良さ」


 私が鼻歌を歌いだした瞬間にいびきが聞こえてきた……少しくらいまともに耳を傾けても良いんじゃないかな? 


「ま、いいか。あと半年は一緒に居れるしね」


 いっぱい遊んで、いっぱい勉強して、いっぱい食べて……最後の夏休みはとうとう学校に忍び込んで……。

 

「さて、トラップ作り頑張りますか」


 夜音さんの貸してくれたスマホはすごかった。

 ディスプレイがそのままランタンの代わりになる位明るくて、そのまま床において使わせてもらっている。

 それにしても……さっきは焦ったなぁ……あの赤い警備員。


 私が言うのも何なんだけど、そんなのが本当にいたらやだなぁ……くらいに思ってたら実物が現れちゃった。

 正直驚いちゃう……本当に捕まったら死んじゃうのかな? 目を合わせたら7日後に死ぬのかな? だとしたら……私がユウキを守らないと。


 そんな事を考えながら、タコ糸に鈴をつけて……いや、なんかこのままだと寂しいし。

 糸を編んでみようかな? その分強くなるでしょ。


 ユウキのリュックサックからセロハンテープを取り出してハサミで5本タコ糸を切る。

 それの端を床に止めて……あみあみ……。

 ミサンガなんて今の子知らないだろうなぁ……ユウキが去年サッカーにはまっていたから作ってあげたのに3日後には失くしやがって……。


 あんまりにも腹が立ったので、数日間無視したら土下座してきたこともあったなぁ。


「ふふ……」


 いろんなことがあった5年、ユウキのおかげで十分楽しめている。

 しかも夏休みが終われば卒業旅行だ。

 まだまだ思い出はたくさん作れる……でも、多分この自由研究が終わったらすっごくおじさんとおばさんに叱られそう……まあ、そっちはユウキにすべて罪をかぶってもらおう。


「それにしても……さすがユウキだよね。こういうパターンだったのか」


私のお尻のそばにあるのは黒く光る銃、さすが警察官の息子だけあって本格的だった。


「うふふ……腕がなるわ」


 深夜は私の時間、勇樹と違って私は夜の方が調子がいい。

 寝ようと思えばすぐに寝れるけど……起きようと思えば特に何かする必要もなく起きていられる。


「……いけない、ユウキが起きている時にこんな顔してたらまたドン引きされちゃう」


 思わずにやにやとしてしまう自分の頬を、両手でもみほぐした。

 こんな機会はまたとない。存分に楽しませてもらおう。

 手鏡を出して口を開け、髪を整え……はい、いつもの私完成。ミサンガつくりに戻ろう。


 のんびりと言っても作り慣れてる私にとってはミサンガ一つ作るのにそんなに時間はかからない。せいぜい5分もあれば作れる。

 綺麗きれいに出来たミサンガを無心むしんで私は量産りょうさんしていった。


 それから5本ほど作った所でふと気づく……


「はにゃっ!? し、しまった……」


 白一色のミサンガ5本を並べて私は言葉を失った……何してんの私!!

 トラップ作りしてたはずなのに!? うわぁぁぁん! 物思いにふけってたら全然違う事してるじゃん!! ユウキならすぐに突っ込んでくれるのにぃぃぃ!?


 頭を抱えていやいやをする私、はううぅ!? スマホの時計を見たらもう30分になるんですけど!? 


「んお……」


 ――ピリリリリ……ピリリリリリ……


 ユウキ君!? もうちょっと寝てても良いかな!? 何なら私イイコイイコして子守歌のサービスもするけど!? 鳴りやんでくれないかなその腕時計君!!


 大パニック!! 大パニックですぅ!!


 そんなことそしている間にユウキは目を覚ましてんーっと背伸びをする。


「……何してんだお前」

「ね、ねこねこ体操第一……にゃーん!」

「……それを言うならラジオ体操第一な? ふぁ、良く寝た。カコ……お茶くれよ」

「は、はいごひゅ人様!!」

「文化祭の時のみメイド??? え? お前今度は何失敗したの?」


 さっすが幼馴染! 良く分かってらっしゃいますねぇ!?

 

「トラップ作るつもりがミサンガ量産しちゃったぁぁ……」

「……トラップも出来てんじゃん。何言ってんだお前……え、俺そんなに寝てた?」

「ふえ!?」


 ユウキが私の後ろを見てそういうけど、私……ユウキが寝てからほとんど作ってないよ?

 と思ったらタコ糸に鈴をつけた鳴子が5本、綺麗に出来上がっていた。


「あれぇ?」


 ちりん、と軽やかな音を立てて私の手にそのタコ糸が引っかかる。

 いつの間に作ったんだっけと首を傾げていたら……夜音さんのスマホがぴろりん、とメッセージを1個受診した。

 

 スマホを覗き込むと……。


妄想もうそうはほどほどに』


 思わず画面をたたき割る勢いで私は手刀を振り下ろす!!

 

 ――がつん! 


「あいたぁ!?」

「本当にお前何やってるんだよ」


 ごめん、ユウキ……何でもないの。本当よ……。

 痛みのせいで涙が出ているだけなの……見られてたのね。

 はずかしいぃぃぃぃぃぃ!!

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