18:赤い警備員 再戦編 

「これでよし、と」


 階段に繋がる通路に鳴子なるこを取り付けて準備は万端ばんたん

 なんかさっきからカコが顔を真っ赤にしてプルプルと震えているけど……俺は触れない事にした。きっと取り返しがつかないダメージを負うかもしれなかったから。


「カコ、銃をくれ」

「はい」


 スマホのライトに照らされて黒光りする銃をカコから一丁いっちょう受け取る。

 腰に差して準備万端、カコももう一丁を左手に持っていつでも撃てるようにしていた。


「これで警備員が上ってきたらすぐわかるな……」


 暗い学校内で細いタコ糸に2個鈴をつけたこのトラップは流石にわかりづらいだろう……俺たちだって知らないでここを通れば引っかかってしまうだろう。

 時計を見るともうすぐ午前1時、また赤い警備員が戻ってきてもおかしくない……。


「ユウキ……最初は私にヤらせて」


 ……そこにどんな字が入るかは考えたくない俺はただただ首を縦に振るしかなかった。

 

「き、気をつけてな?」

「あの赤い野郎を染め上げてやる」

「最初から赤いが?」


 ――ちゃきっ!


「なんでもありません!」


 失言1個で即アウト! 人に銃口を向けてはいけません!! でも苦情くじょうも言えない位には幼馴染がやみに落ちているんです! 両手を上げて降参いしの意思を示すとカコがくるくると指で銃を回して下げる。


「早く来ないかしら」


 逃げて赤い警備員!! 貴方あなたにうらみ自体は何にもありません!!

 そんな俺の心からの願いに反して……1階からがちゃがちゃと鍵を開ける音が夜の校舎に響き渡る。


「うふふ……良い子ね。苦しませない様に狙ってあげる」


 ……どうしよう、幼馴染の方が妖怪とかより怖い場合は学校の不思議になりえますか?

 もう下級生に見せたら泣くかもしれないような顔している。


「赤い警備員に逃げた方がいいって叫んだ方が良いのかな?」


 ぼそっと半分本気交じりにつぶやかざるを得ない俺だった。

 そんな俺たちの……と言うかカコの気合いに導かれるように足音は徐々に近づいてきている。

 でも、そんなカコのおかげで恐怖心とかが薄らいでるのは事実なので何とも言えないんだよな!


 とりあえず、不意を突ければ今回は狙って撃つだけの簡単な調査(お仕事)です。少し寝たおかげでかなり頭もはっきりしているからか、いろいろと考えもまとまりやすくなったし……身体も軽い。

 

「ダメよユウキ、学校に危ない不思議を野放のばなしにしたらどうするのよ。犠牲者ぎせいしゃが出てからでは遅いのよ?」

「お前それ、先週俺の家に泊まった時に見た警察ドラマのセリフをパクッてるだけだからな?」


 もっともらしい事を言ってるが、多分カコはちょっとテンパってる。

 何があったのか分かんないけど……まあまあポンコツなミスをやらかしそうな雰囲気だ。


「まあ、ここで退治するのはいいと思う。ユリちゃん先生や目黒先生もまだ夏祭りの踊りの練習に来るだろうし……俺たち以外に同じ自由研究を考える奴もいるだろうしな」

「それはそう。ついでに私の八つ当たりは仕方ない仕方ない……」

「それは仕方なくない」


 とりあえず突っ込んでおいて、二人で耳を澄ませながら二階で職員用出口に近い階段の影で俺とカコは陣取る。

 運が良ければこの階段を上ってきた瞬間しゅんかんに両側から俺とカコで一斉射撃いっせいしゃげきだ。

 

 ――まず一階から見るか……


 階段の下から先ほどの濁声だみごえが反響して聞こえてくる。

 向こうの声が聞こえるという事はこちらの声も聞こえるという事、ここから先は俺とカコはだんまりだ。カコの方を向くと向こうも同じように考えていてくれるらしく、真剣なまなざしで俺を見つめている。


 カツンカツンと規則正しい足音が階段を通り過ぎて遠ざかっていく……一旦、赤い警備員は2階に上がってこないみたいで俺は少しだけ胸をなでおろした。

 じっとそのまま足音が聞こえなくなるまで俺とカコは大人しくしている。


 それから数分、音が聞こえなくなってきた頃合いで俺はカコに声をかけた。


「カコ、向こうに行ったよな?」

「うん、音楽室の方に行ったみたい」


 なら向こうに行って迎え撃つか……懐中電灯を持ってるから距離があると見つかりやすいし。

 

「じゃあ移動するか、ライトつけるなよ?」

「うん」


 しかし、俺たちの思い通りにはならなかった。

 今までが上手く行き過ぎていただけで……大人の方が一枚上手だと、すぐに思い知ることになる。

 二人で立ち上がり、階段を背にして歩き始めた……その時。


 ――ちりん! りりん!


 鳴子トラップとして設置したタコ糸に……誰かが触れたのだ。


「え?」

「誰?」


 慌てて振り向くと、音楽室に向かったはずの赤い警備員がすぐ後ろまで迫っている。

 俺達もびっくりして固まってるけど、その赤い警備員自体もトラップの存在は予想してなかったのか身をすくめて俺達を見ていた。

 不意打ちならともかく……この距離で背後を取られたのはまずい!!


「カコ!! 出直し!! 逃げろ!!」


 俺は廊下を北に、カコは西に二人でばらばらの方向に逃げ始める。

 これなら少しは迷うだろう!! そう思ってたのに……現実は甘くなかった。


「こらああああぁ!! 逃げるな悪ガキ!!」


 気を取り直した赤い警備員はカコの事など一瞥もせず、俺の方目掛けて突進してくる。

 ……少しくらい迷ってくれよ!?


「カコ!! 発砲はっぽう許可許可!!」


 こうなったら徹底抗戦てっていこうせんあるのみ!! 俺はこの日のために用意した秘密兵器、電動水鉄砲を解禁した。赤い警備員の弱点である墨汁がたっぷりと詰まっているし飛距離も十分、正直な所……使いたくなかったが……まだ死にたくもない!!


 電源を入れて自分が駆け抜けた足元に銃口を向け、引き金を引く。


 ――パシャシャシャシャシャ!!


 秒間8連射で廊下が墨汁ぼくじゅうまみれになった。

 これで足を滑らせてくれれば……あ? そうか!! なんか変だと思ったら向こうの足音がしないんだ!!


「まてぇぇ!! うおぉっ!?」

 

 ずしゃああ! と見事に赤い警備員は足を滑らせて廊下の壁に激突げきとつして手に持っていた懐中電灯を取り落とす。

 その足はやっぱり靴下をいていた。

 

 ――カラン!


 それを確認した俺の足元に、さっきカコが囮として投げた懐中電灯が転がってくる。


「ラッキィ!」


 それを拾い上げ俺はさらに転倒した赤い警備員目掛けて銃を乱射した。

 ここで仕留めておける絶好のチャンス。かなりの勢いで壁に激突した警備員はまだうめき声をあげてうずくまっている。

 軽快な発射音と共に墨汁が赤い警備員を染め上げる! やった!!


「ぶあっ! こ、こらぁぁ! やめんか!! この匂い……墨汁!? なんてことするんだ!!」


 ……あれ?


「……消えない?」


 確か墨汁をかけられると影みたいになって消えちゃうって話だった気がするんだけど……。


「校内でこんなものまき散らしてただで済むと思うなよ!! いたずら小僧!!」


 ……かちゃりと懐中電灯の電気をつけて、赤い警備員を照らす。

 頭からつま先まで、血しぶきの様に墨汁まみれになっているのに……ピンピンしてるじゃん!

 しかもゆっくりと立ち上がり……顔が真っ黒で怖えよ!?


「ひゃああ!!」


 くるりと俺は身をひるがえして走り始めた。

 もちろんライトを消して全速力で!!

 そんな俺を赤いライトで照らし、赤い警備員(?)は猛然もうぜん追跡ついせきを再開する。


「またんかぁぁ!」

「弱点効かねぇじゃねぇかよぉぉ!?」


 深夜の逃走劇とうそうげきは始まったばかりだった。

 カコ、逃げきれたかなぁ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る