16:赤い警備員 騙し編
「ここに……誰かいるのか?」
しゃがれた声が教室の前側の扉の前で止まる。
かちゃかちゃと何か……そう、例えるなら鍵みたいな物を取り出す音に俺とカコが顔を見合わせた。
「ユウキ……入ってくる気だよ」
「……逃げるしかないだろ。カコ、
「わ、わかった」
「向こうがカギを開けるタイミングに合わせてこっちの扉の鍵を開ける、入ってきたと同時に開けて……1階に逃げる、職員用の出入り口に向かって走るぞ」
万が一、先生とかに見つかる可能性だって考えている。
そのためのルートをカコに伝えると大きく頷いた。実はカコの方が足が速かったりするので前はカコ、その後ろが俺になる。
――ガチャガチャ……
心の準備をする間もなく教室の黒板がある方の扉の鍵が開けられようとしていた。
俺は
数秒後、その時が来た。
――ガチャリ
――ガチャッ
ばっちりタイミングが重なって、教室の外の相手も気づいていなさそう。
心臓のどきどきする音が聞こえる……。
カコも息を整えて俺の肩に手を置いた……ほんの少し俺の緊張も解ける。
「誰か……居るのかい?」
しゃがれた声と共に、がらりと音を立てて教室の扉が開かれた。赤い懐中電灯の光が教室内を照らす。いまだ!!
「カコ! 走れ!!」
勢いよく扉を開けてカコが先に走り出す、俺もその後に続くと慌てた
「こらぁ! 何時だと思っている!」
思ったより大きい声に俺の足がすくみそうになるけど……。
「ユウキ! こっち!!」
ぐい、とカコの手が俺の腕を引く。
「おう!」
ビビってなんかいられない、全速力で俺とカコは階段を下りて1階にたどり着いたと同時にカコが懐中電灯をつける。
そしてそのままいきなり職員用通路に向かって廊下の床を転がした。
「何やってんだ!?」
「良いからこっち!」
ぐいぐいと俺をその反対方向へ誘導するカコに手を引かれるまま俺とカコは女子トイレに逃げ込む。
それから数秒もしない内にドタバタと
「どこに……これは懐中電灯? 校舎の外に逃げたのか」
そのまま息を殺して待っていると、足音が職員用通路の方へ向かう。
なるほど……カコはあの懐中電灯はおとりにしたのか。
その
その姿は真っ赤な服を着て、真っ赤な帽子をかぶり……腰に何か棒状の物や鍵の束をつけている。こっち側から顔は見えないけど口元もマスクをしているらしくそれ以上は分からない。
その人物はまるで噂の……赤い警備員そのものだった。
しばらくその
それから俺とカコはぴったり三分待って……戻ってこないのを確認してから口をひらく。
「ふぇぇ、なんだあれ……本当に真っ赤な警備員っているんだな」
「ゆ、ユウキ、この学校って警備員さん
「…………………………え、じゃあれは?」
「多分、本物の赤い警備員じゃないかなと」
……確かになんかこう、声を聴くとびくっとなるような変な圧迫感があるけど。
あんなにはっきりとしてるもんなのか?
「時間は……夜の11時半か……
「それよりユウキ、今のうちに教室の荷物回収して……三階に行こう。あの場所そのままにしたらバレちゃうよ」
「懐中電灯も……げ、持って行かれてる」
電気がついたままの懐中電灯も一目見て玄関にはない。
「赤い警備員の弱点、持ってきてるよねユウキ」
「もちろん……次戻ってきた時に目にもの見せてやろうぜ」
「さっきはびっくりして動けなかったもんね。今度は大丈夫」
「おう、じゃあ一回戻ろうぜ」
そうして教室に戻ると、そのまま放置していた俺とカコの荷物のほかに……一枚の紙きれの上にスマホが一台置いてあった。
「……これ、カコのスマホじゃないよな?」
「私持ってるよ」
じゃあこれなんだろう……おそるおそるそのスマホに手を伸ばすと急に画面が明るくなって振動し始めた。
「うおっ」
びっくりして手を引っ込めるけど、画面を見てすぐにその正体が分かる。
画面には家鳴夜音、そう表示されていた。
そこまで分かればもう怖くない……俺は再び手を伸ばして通話の所を指で押す。
『はいはいぼーや、危なかったわねぇ……そっちの女の子もナイス判断。見てて面白かったわ』
気楽そうな女性の声、それはさっき蜃気楼のように消えた夜音さんの声だった。
「最初からスピーカー設定……大きな声出さないでよ」
万が一にでも聞かれたらまた戻ってきちゃうじゃないか!?
『大丈夫大丈夫、今学校の周りをうろうろして君たちを探しているから普通にしゃべっても問題なし』
「……どこから見てるんです? それにさっきどうやって消えたんだよ」
『いったじゃん、座敷童だって……それにこれはありがたーいプレゼントなんだからもうちょっと
「プレゼント?」
『このスマホ、めちゃくちゃ重たいけど大容量バッテリーで防水、
本当にありがたいプレゼントだった……確かに家鳴さんが言うように、そのスマホはカコや父さん、母さんが持ってる物より一回り大きくて……見るからに頑丈そうだ。
でも、なんでこれを俺たちに? 疑問しか頭に浮かばない。
そんな俺の疑問をカコが
「家鳴さん、うれしいんですけど……なんで私たちに協力してくれるんですか?」
『そうね……そこのぼーやがうれしい事言ってたからかな?』
「俺が?」
『そう、あたしたち怪異はね? 人に
その言葉は不思議と……淡々と話しているけど、すとんと俺の心に入ってきた。
正直……言ってること全部が俺に理解できているわけじゃない。でも、なんか覚えていたい言葉だった。
「ありがとう、ございます」
『お、素直だねぇ。じゃあこのスマホは使い終わったら……落とし物として近くの交番にでも届けといてちょうだい』
「……はい」
『じゃ、おねーさんは遊んでる途中だからこれでサヨナラかな。そうそう、女の子の方に一言』
カコに? 俺はカコにスマホを渡すとカコはスピーカーの設定を戻した。
「……はい、わかりました。ありがとうございます」
本当に一言だったみたいで、すぐにカコはお礼を言って通話を切る。
「なんだって?」
「しっかりユウキに守って
そう言ってカコは笑顔を浮かべるが……なんかいつもと違う気がする俺だった。
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