7:職員室の黒電話 調査編
「校長先生ってまだ体調が悪いんだっけ?」
「みたいだよ。保健の先生と教頭先生が心配して見に行ったけど……会えなかったみたい」
俺の
算数のドリルを半分ほど進めた頃、一息入れるタイミングの雑談は夏休み前から休んでいる校長先生の話題だった。
普段は先生方が行きかう
ずらりと並んだ先生たちの個性的なデスクは誰が誰の机か……わかりやすいし面白い。
ちなみにユリちゃん先生はアニメグッズだらけで散らかりがちなので……良く教頭先生に怒られている。
「感染症じゃないって言ってたんですよね?」
カコが終業式で教頭先生が説明したことを思い出しながら、ユリちゃん先生に確認する。
確かにそんな事を言ってた気がしたけど……俺、眠くなってあんまり聞いてなかったんだよな。
クラスごとにテレビモニター越しの終業式って……なんかこう
「それは確かだよ~、保健の先生が県に報告しなきゃいけないからって検査キットを使ってもらったみたいだから」
「早く治ると良いですね」
「本当本当、校長先生が校門に立ってないのはなんか調子狂うもん」
「さすがに夏休みの間に治るわよ。それより、ちゃんと宿題やってて二人とも偉い! 先生は勇樹君が今年こそは宿題忘れないかと冷や冷やしてたんだよ」
手のひらを顔に当てて泣く真似をするユリちゃん先生、実際に去年半泣きにさせてしまった張本人でもある俺は……ぐうの音も出ない。
「委員長と私、
「……教員生活初めてだったよ。宿題を何一つやらないで登校してきた生徒は」
「大反省しています。コトシハゼッタイワスレマセン……」
去年は……その、テレビでワールドカップをしていたから。
毎日泥だらけになってサッカーしていたんだよな……雨の日はフットサルって言って建物の中でもできるサッカーがあったし。
「私、おばさんがユウキを吊るす所……初めて見たかも」
「後にも先にも
カコが心配して放課後に俺の家に来て宿題を手伝おうとしてくれたんだよな。
俺を見つけたカコは凄く……引いていた。
「今年は大丈夫だよね? ユウキ、実はそれ去年の宿題とかじゃないよね?」
「だとしたらカコ、お前も去年の宿題だからなそれ……」
そんな軽口を言い合いながら、何事もなく昼は過ぎ……ユリちゃん先生のお仕事が一息ついた頃、三人で持ち込んだスナック菓子を食べつつ今回の学校の不思議について調査の打ち合わせを始める。
自慢じゃないが絵は得意だからスケッチブックにそれぞれ不思議毎に描いて来た。
職員室の一角に作られている応接スペースのテーブルに一枚一枚外して並べていく。
カコは見慣れているから気にしてないけど……ユリちゃん先生はちょっと驚いてた。
「勇樹君、絵……上手いね」
「父さんに教えてもらったんだ……水彩は苦手だけどコピックとポスカラあればこれくらいは掛けるよ」
「こぴっく? ぽすから?」
「コピックは透明油性インクのペン、ポスカラはポスターカラーだよ先生」
カコが補足してくれてユリちゃん先生がほへぇ……と声にならない声を上げる。
なんだかんだと父さんは部屋に画材をいっぱい置いてるから不自由しなかった、小さい頃から一緒に書いていたから今ではそれなりに描けるようになった。
「学校では勇樹君あんまり描いているイメージなかったから先生びっくりしちゃった」
「美術の時もユウキは手を抜いて描いてるから」
うん、学校ではなんか本気で描くこと無いかな……なんか恥ずかしいんだよな。
そんな俺のことをよく知ってるカコは微笑むだけで特に言及しない。
「それは置いといて……まずはすすり泣きのプール。これはユリちゃん先生が噂の
「そうだよ。昨日話した通り」
「ちなみに……更衣室のドアを開けないとどうなるの?」
「赤い女がプールのそこに引きずり込むんだってさ……なるほど、ユリちゃん先生はいつも赤いジャージだからか」
そんなことしないからね!? と抗議の声を上げるユリちゃん先生だけどこういうのは尾ひれがつくものだと俺もカコも承知の上で話している。
「まあこれは解決でいいのかな」
「白と黒の髪の女の子だっけ、結局見つからなかったし話とは関係なさそうだもんね」
「先生的には二階の窓の犯人さんじゃないかと思ってるから、見つけたら捕まえちゃうよ!」
それはそうだ、なんとなく俺はすすり泣くプールの絵の端にその女のデフォルメした絵を描き加える。それを横からカコが手を伸ばして油性ペンで『
「じゃあ次だな……これは今日の本題、職員室の黒電話」
そう言って俺は職員室の一番奥、火災の非常用スイッチの横に
「ユリちゃん先生は知ってる?」
「ううん、これは知らないと言うより……そもそもダイヤル式の電話なんて先生も触ったことないよ」
だよなぁ……とはいえ俺もスマホで調べたから使い方は知っているだけだ。今日はこれの調査である。
「ねえユウキ……電話って線が
「え、そうなのか?」
「うん、電話線が繋がっててそれが電源も
そう言ってカコは黒電話を持ち上げる。
確かに、電話線らしきものは繋がっていないや。
「華子ちゃん詳しいのね……先生知らなかったわ」
感心したかのようにユリちゃん先生が声を上げる。
俺も電話線のことは知らなかったし、カコは
「お母さんが
「それを言うならレトロ好きな」
前にカコのお母さんと会った時、古い
その時にカコのお母さん自身がそう言っていた。
「そうだったね。とにかくこれ……ただの置物だよ?」
「一応、噂では放課後に一人で職員室にいると日が傾いた頃に鳴り始めるんだってさ、その電話を取ると『お前は誰かな』みたいな質問をされて……名前を言うと黒い影に異次元へ連れて行かれる。何も答えないで電話を切ると白装束のばあさんに追いかけられて喰われる。唯一の逃げ道は……」
俺が説明の終わりに近づいた時だった。
――ぃん
「え?」
黒電話に手を置いていたカコの目が点になる。
――リィィィン! ジリリリリィィィィン!!
どこにも繋がってないはずの黒電話がけたたましく呼び鈴を鳴らし始めた。
時刻は午後4時、ちょうど下校時刻になった瞬間だった。
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