8:職員室の黒電話 実践編
「カコ……電話線が無いと電源って入ってないんだよな。その黒電話」
「うん、絶対に鳴らないよ」
あれから数回、呼び出し音を鳴らした後……電話はうんともすんとも言わなくなった。
受話器を取るのも考えたけど、一旦そのまま放置してみようとユリちゃん先生が言うので……おやつや俺の描いた絵をどかして応接用テーブルのど真ん中に置かれたのだった。
「この電話の音ってどこから出てるのかしら?」
一人だけ的はずれなことを言い出すユリちゃん先生、しかし今はそれどころではない……そもそも電源がないのに勝手に鳴り始めたことのほうがよっぽど不思議だよな。
ユリちゃん先生には申し訳ないけど、じろじろと電話機を観察しているのを放置して……俺とカコは電話の電源について考え始めた。
「もしかして太陽電池なのかな? この黒い
「その割にはこう、
「電池を
「上下左右全部から写真取ったけど……入れる場所、ありそうに見えないぞ?」
「……本当だ」
四方八方から写真を取ってそれを元にカコと俺は首をひねりながら原因を突き止めようとしている。しかし、どれもこれもそれっぽいものは見つかんない。
本当に幽霊とかの仕業なんだろうか?
それにしては、背筋に来るような
「「ううーん」」
俺とカコが腕を組んで口をへの字に曲げる。
すると、再び黒電話が鳴り響き始めた……時刻は午後5時。
「ちょうど1時間か」
前回も午後4時ぴったりだった。
今度こそ覚悟を決めて受話器を取ろうと思ったら、ユリちゃん先生が何を思ったのかあっさりと受話器を持ち上げてしまう。俺もカコも止める間なんてなかった。
「ユリちゃん先生!?」
カコが思わず声を上げるが、ユリちゃん先生は受話器を耳に当て……。
「どなたですか?」
聞いちゃったよおい……。
さようならユリちゃん先生、異世界に行ってもユリちゃん先生はきっと元気に暮らせると思う。
猫耳やキツネの耳が付いたキャラクター大好きだもん。
「ユウキ、ユリちゃん先生連れて逃げよう!!」
開口一番カコが思いっきり……黒電話を蹴っ飛ばした。
おい、こんなアクティブな幼馴染知らないんだが!?
「カコ!? ああもう、ユリちゃん先生逃げるよ!!」
「ふにゃ!? もしかして電話出ちゃダメだった?」
「説明したよね!? 聞いてないの!?」
「忘れちゃった、てへ」
ぴろんと舌を出すユリちゃん先生に、俺とカコの怒りのボルテージが上がるが……ユリちゃん先生はやっぱりユリちゃん先生だった。
ひょい、と俺とカコを両脇に抱えていきなりものすごい
「逃げるのは得意なんだよね! 舌を
ダン! ダン! ダダン!!
ソファーの背を蹴り、職員室の出口までの最短ルート……他の先生のデスクを乗り越えてユリちゃん先生が
「お困りのようぐぺっ!?」
しっかりと確認する間もなく百合ちゃん先生の
「うあ」
「痛そう……」
「……誰かいたかな?」
すぱぁん! これ以上ない位に気持ちのいい音を立ててユリちゃん先生は廊下に着地、そのまま一階へと続く階段に勢いを落とさず走り続ける。
俺とカコ? 顔を見合わせて……アレ良いんだろうかと顔をしかめて見つめ合ってますが?
――アンタら後で覚えておきなさいよぉぉ!?
背後からはっきりとした女性の恨みのこもった声が飛んでくる。
ユリちゃん先生ガン無視だけどな!?
と言うのも良く見たらユリちゃん先生の顔色が悪い……おや?
「ユリちゃん先生……もしかして今更怖くなった?」
俺が声をかけると、少し涙目になってユリちゃんが俺を見てこう言った。
「だってぇ!? はっきりとあの電話から『あなたは誰?』って聞こえたんだもん!!」
……当たり前のように聞こえてきたからいつも通り対応できちゃって……恐怖が後追いしてきたって訳ね。
おかげで俺はすごく冷静になれた。
今蹴った人が無事かどうかの心配ができる位にはね!!
「ユリちゃん先生、もうすぐ曲がり角だよ!!」
カコがしっかりと前を確認してくれているので案内できているが……こんなにこの廊下は暗かったっけ?
確かに電気が無いと周りがちょっとわかりにくい、窓の外に目を向けると急に暗雲が立ち込めてきていて土砂降りが今まさに迫ってきている。
ここ数年、天気予報を見事に裏切る急な雷雨だ。
それがこんな時に!!
「カコ! ゲリラ豪雨だ!」
「ユリちゃん先生! 電気つけよう!」
「華子ちゃん! そこの角のスイッチよろしくっ!」
見事な
俺の顔が引きつるのが良く分かった。
「黒い、影」
まっすぐ突き当りの廊下の角から黒い何かが……のそりと
もちろん俺だけが見えているわけじゃない。
「ユウキ! ユリちゃん先生名前言ってないのに!」
「でも、だれですかぁ? ってのんきに返事しちゃってたなぁ……」
「
どちらにせよ
「ユリちゃん先生! 俺たち降ろして!」
「へ? でも……」
再び走り出そうとしているユリちゃん先生が戸惑った声を上げる。
でもね?
「電話に出たのユリちゃん先生だけだし」
真顔で俺はきっぱりと宣言する。
ちょうどタイミング良く、外では雷鳴がとどろいていた。
「……ユウキ、いくら何でもそれは」
雷に合わせてちらつく灯りの中、ユリちゃん先生が『ひとりで』泣きながら階段を駆け下りていくのを俺はのんびりと見送り、カコは……。
「最低……」
と、さげすむような眼で普段より離れてこちらを見ていた。
ちゃんと考えがあるんだよ!!
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