5:小森家のかつ丼 悪ふざけ編
昨日は散々だった……ものすげぇ怒られたし。
ユリちゃん先生が悪い訳では無い、カコが悪い訳でも無い、俺が忍び込んだのは自分の意志なのでそれ自体は良い……でもさぁ!? 息子に対する両親の扱いはどうなんだよ!? 良心ってものがないのかうちの親は!!
よりによって雰囲気づくりなのか薄暗くしたリビングで俺の机のスタンドライトを持ってきて……『早く白状した方が身のためだぞ』とか『ご両親が泣いてるぞ』とか!! 両親は貴方たち二人ですが!?
息子を使って取り調べごっこをするんじゃねぇよ!?
しかもちゃんと警察の服を着て!!
「大丈夫だった? ユウキ」
ぷすぷすと頭から煙を立ち昇らせている俺にカコが心配そうな声をかける。
「これが大丈夫そうに見えるか?」
「大丈夫? って聞いて大丈夫じゃないって答える人なかなかいないよね」
そんなあるあるもいらないんだが!?
「くっそう……有罪拳骨一発が年々強くなってる気がする」
母さんから結局、黙って学校に忍び込んだのとこっそりデジカメを持ち出した罪で拳骨一発の刑に処された俺は自分の部屋でカコに手当てされていた。
「あ、動くとアイス枕落ちちゃうよ」
「……俺がばかになったら母さんのせいだって
「大丈夫、元々……あっ」
……なんか幼馴染って、
「……俺、引きこもる」
「無理じゃないかなぁ……
「それ、信頼されてるととって良いんだよな!? みんなユウ
「うーん、からかい
なんでほっこり笑顔になってるんだよ……まあいい、いつもの事だ。
そんな事より、壁の時計を見ると午後6時半……そろそろ晩御飯の時間だ。
「カコ、晩御飯は家で食っていけよ。母さんが……取り調べにはかつ丼だとかなんとか言ってたから……多分かつ丼」
「うん、おばさんにも食べて行ってねって言われたし。いただいてく」
「そう言えば久しぶりだよなお前が家でご飯食べるの」
「そう……だね、
「お母さんまだ忙しいの?」
「たまーに、お休みでごろごろしてるけど……帰ってくるのはいつも12時位。すっかりお母さんより料理上手になっちゃった」
カコのお母さんはものすごく忙しいキャリアウーマンで、カコが小さい時……小学1年生の時にはもう家に居る事はほとんどなかった。
でもそれはカコを大事にしていなかったわけじゃなく、カコを養うために一生懸命だったんだ。
当時カコと出会ったばかりの小さかった俺はカコの事を……ついうっかり父さんと母さんに話してしまい、上手く伝えられなくて児童
まあ、すぐにカコのお母さんと父さん、母さんが話をして誤解は解け……なんかものすごく仲良くなったのでカコもしょっちゅう俺の家で放課後を過ごすようになった。
「そっか、母さん仕込みだから美味そうだ。母さんと父さん居ない時作ってくれよ」
何気なくその上達したという腕前が気になっただけで、特に意味は無いお願いだったんだけど……急にカコが顔を真っ赤にして目を見開いた。
あうあう、と口をパクパクさせて何か言いたそうなんだけど……言葉になってない。
そんなに暑いのかと俺の頭に乗せたままのアイス枕をポン、とカコの頭のてっぺんに乗せたら……。
「にゃ!? 何すんのよっ!」
ぎゅん、とカコの右こぶしが俺の右頬に吸い込まれるように
「晩御飯よー」
運悪く母さんが俺の部屋に入ってくるタイミングと重なる。
「……何してるの? 二人とも」
「ユウキが!!」
「……カコが」
「はいはい、晩御飯のかつ丼で来たから食べちゃって。あんたたち、本当に仲いいのね」
どこからどう見たらそう見えるんだよ!?
息子が暴力で右頬腫らしてますが!? 見えないんですかね!?
「もう、ユウキなんか知らない! ユウキの分もあたし食べちゃうんだから」
「……太るんじゃね?」
「勇樹、有罪拳骨……増やすわよ」
「はい! 黙ります
マジでこれ以上殴られたくないので
トントンとリズミカルに階段を下りるカコを見送り、母さんの顔色を
すんげー怖い顔で
「アンタは本当にお父さんそっくりになって来たわね……勇樹」
「そりゃ息子だから……」
「そういう意味じゃなくて……はあ、なんでこう我が家の男は……」
ぶつくさと
こういう時の母さんは敵である。父さんだけは味方だけど……頼りにならないので実質
「あん?」
近所の不良が怯えて道を
「な、何でしょうか!?」
まあ、俺も慣れてるので即座に敬礼に戻るけどね!!
「……気のせいか。ほら、あんたも食べなさい……華子ちゃんに本当に食べられるわよ」
「うん、今行く」
普段はとても優しい、優しい母さんだよ。
大事な事だから二度言っておく。
そんな母さんの脇をすり抜け、階段を下りていくと甘辛いかつ丼の香りとカコの匂いがふわりと感じられた。
リビングからは父さんとカコの楽しそうな声も聞こえてくるし、テレビではちょうどホラー番組をやっているみたいで女の人の叫び声が聞こえてくる。
「姉ちゃんか妹が居たら、こんな感じなのかな?」
「もっと
……耳元だった、本当に吐息がすぐ近くで感じられるくらいにすぐ
その誰かの声は俺にそう言った。
全身の鳥肌が立ち、首筋に気持ちの悪い冷たさがまとわりつく様な……変な感覚が俺を縛り上げる。
声が、出ない……耳がきーんとしてさっきまであれだけ近かった日常の音が遠ざかっていった。
心臓がバクバクして息が思うようにできなくて……視界がなんだか狭くなる。
「勇樹?」
背中から、母さんの声が飛んできた。
聞き間違いなんかじゃない、あの声はもっと……甲高い。
「大丈夫なの? ちょっと拳骨強かった???」
身動きが取れない俺の肩を首を傾げた母さんが掴む。
その手が
鳥肌が引っ込み、生暖かい夏の
「い、今……誰かいた?」
何とかひねり出した言葉を口に出し、振り返って母さんの顔を見ると……心配そうに俺を見ていた。ちょうど階段で俺は首を上に向ける形だったのだが……その母さんの背後に……
「誰も居ないわよ?」
白と黒の髪を持った女が、俺の部屋から首を出して……
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