幕間③




「京介と夢咲さんの恋を応援するんじゃなかったの?」



「......うるさい。あなたこそあたしと京ちゃんの恋を応援するって言ってたのに二人っきりにしてるじゃない」



「ははっ。それもそうだね」



 こいつと話しているのさえ正直苦しい。


 頭がぐわんぐわんして、今にも吐きそうだ。


 京介と二人っきりのアトラクション。


 喜びがリミッターを振り切ってしまって調子に乗ってコーヒーカップを回し過ぎた結果がこれだ。



「これどうぞ」



 うつむく視界の先に現れたのはミネラルウォーターのペットボトルだ。それを素直に受け取って口に含むと、少しだけ気持ち悪さがマシになった気がした。



「......ありがと」



「どういたしまして」



「で、なんだって京ちゃんと夢咲さんを二人っきりにしたわけ? これで2人の距離が縮まっても知らないからね?」



「大丈夫だよ」



 妙に自信を感じる声で答える今市いまいちに眉がヒクリと動いてしまう。



「運命はね、そんな簡単にはじ曲げられないものなんだよ」



「......なによ、それ」



「余程の行動を起こさない限りね。映画や小説みたいなフィクションとは違う。過去改ざんは、そう簡単には出来ないんだよ」



 今市優馬。こいつも心奈と同じタイムリーパーだと言っていた。



「あんた、一体何者なのよ?」



「僕は過去でも未来でも君と京介の親友だよ」



 心奈以上にタイムリープについて知っているような口振りがいやに不気味だ。



「そんな顔しないでよ。僕はね、君と京介が付き合わなかった未来から来たんだ」



「え?」



「君が死んだ後、京介は医者になって多くの心臓病患者を救った。そして年をとって天命を全うして亡くなった」



「......あなたの来た未来では......京ちゃんはあたしじゃない他の誰かと幸せになったの?」



「うん。夢咲さんと一緒になって、子どもも授かったよ」



「.........そっか。それこそあたしの望んだ未来じゃん」



「そういう割には浮かない顔だね」



「......別に」



 薄っぺらい笑みを向ける優馬から地面に視線を移す。


 大好きな人が他の誰かと結ばれて幸せになる。


 それを望んでここにいるが、それを素直に喜ぶことはやっぱり出来ない。


 自分と結ばれて幸せになって欲しい。


 気持ちの根っ子にはやはりそんな甘い気持ちが眠っている。



「九重さんはさ、どうして自分が死ぬ未来を変えようと行動しないの?」



「え?」



「やっぱり運命っていうか、京介は君に惹かれ始めてる。夢咲さんよりも君に」



 京介の言葉に顔を上げられない。



「それに本当は京介と夢咲さんがくっつくの、嫌なんでしょ? 苦しいんでしょ? だったら......」



「だったら何よっ!」



 びっくりするくらい出た声に心奈自身驚く。


 周りから視線が集まっているが、そんな事気にならないくらい頭がチカチカするし、目頭が熱い。


 人の気持ちも知らないで、整理をつけた人の気持ちを土足で踏み荒らす優馬が許せない。



「あたし死んじゃうのっ! 10年後に心臓の病気でっ! 治んないのっ!」



 改めて言葉にしてダムが決壊したみたいに涙がこぼれてしまう。


 好きでこんな事やってるわけじゃない。


 全部全部優馬の言う通りだ。


 本当は自分だけを見て欲しい。それが叶わないのが本当に、悔しい。



「君の病気が治るって言ったらどうする?」



「え......」



「君が死んだ後、京介は心臓疾患の名医になった。それこそ死に物狂いで勉強してね。そして君の病を不治の病ではなく治療可能にした」



 声が出ない。心臓が苦しいくらい脈打って苦しい。



「未来の京介は君の病気を直せた。つまり、方法がないわけじゃない」



「で、でもそれは未来の技術だから可能なんじゃ......」



「かもね。だけど不可能じゃない。君が生きる方法はあるんだ。それだけは知っておいて欲しい」



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