9-2.女心と遊園地のお誘いと




 突然叫んだ優馬のえりを掴んで左右に振ってみるが、どこ吹く風といった感じでいつもの爽やかスマイルを崩さない。



「ははっ。ほら九重さんこっち見てるよ?」



 窓辺に視線を向ければ、目を見開いた心奈と目が合うが、すぐに視線を逸らされてしまう。



「話しといでよ。こういうのは時間が経てば経つほど気まずくなるよ?」



「.........お前が、そこまで言うなら、仕方ないな」



「ははっ。本当に素直じゃないねぇ」



「うっせぇ」



 優馬から離れて窓の外を見つめる心奈の席の前に移動する。



「......おい」



「なに?」



 相変わらず視線は窓の外。窓に写る心奈の表情は寂しげだ。



「なんつうか......よくわからんが、すまん。これやるから機嫌直せよ」



「これ......なんで?」



 いちごクリームコッペパン。


 心奈の席に来る前にカバンから取り出したそれを机に置く。



「今日の合同体育の準備でろくに昼飯食べれなかったろ? 後で腹減った時に食べようと思って、昼休みに入った瞬間、購買にダッシュして買っといたんだ」



 いちごクリームコッペパンを見つめる心奈が目を丸くしている。



「それやる。だからその、機嫌直せよ」



 照れくさくなって心奈から視線を外すと、心奈の明るい笑い声が耳に届いた。



「別に機嫌悪くなってないし! まあでも貰えるもんは貰っておこう!」



「は? おいこらっ! 全部じゃないからな? 半分だ半分!」



「やだよーだ! さっき京ちゃんこれくれるって言ったもーん」



 んだよこいつ。さっきの仏頂面はどこいったんだ。心配したこっちが損した。


 でも、なんか、こうやって笑ってる心奈を見ると胸につっかえてたモヤついていた気持ちがスッと引いてしまうから不思議だ。



「どうやら仲直り出来たみたいだね」



 真っ赤な舌を突き出す心奈といがみ合っていると、笑顔の優馬がやってきた。



「そんな二人にこれをプレゼント」



 ブレザーの内ポケットから取り出したのは、近くの有名遊園地のチケットだ。



「しかも4枚」



「これどうしたんだよ?」



「親がくれたんだよ。みんなで遊んでおいでって。週末みんなで遊園地行かない?」



「別にいいけど......後1人誰誘うんだ?」



「そりゃあもちろん、あの子に決まってるだろ?」



 ニコニコ笑顔で肩を叩く優馬に、嫌な予感しかしなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る