幕間②




「こんな所にいたんだね」



 立ち入り禁止の屋上で手すりにもたれかかって空を見上げていると、背後から声をかけられたが心奈は振り向かなかった。


 なまりみたいな重たい灰色の空に分厚い雲。


 たまに吹く強い風が髪をもてあそんで鬱陶うっとうしい。


 昨日京介と見た燃えるような美しい夕焼けとは打って変わって、今の心奈の心境を投影しているような空が気持ちを鬱屈うっくつとさせる。



「無視はやめてよ」



「今市くん、なんの用?」



 乾いた笑みと一緒に隣に移動してきた今市いまいちを睨むと、おどけるように肩をすくめられた。



「いいの?」



「.........何が?」



「はは。トゲトゲしいね。そりゃあもちろん京介きょうすけ夢咲ゆめさきさんの事だよ」



 嘘くさいまるで貼り付けたような笑顔を向ける今市に心奈は鼻で笑って再び視線を曇天どんてんの空に戻す。



「だから言ってるじゃん。あたしは京介をあたしじゃない誰かとくっつけるためにここに来たって。だから二人の距離が縮まるのは願ったり叶ったりーー」



「ならなんでそんな悲しそうな顔してるのさ?」



 再び視線を今市に戻すと、彼は全く笑っていなかった。



「10年後のクリスマス、亡くなったのは九重ここのえさんだよね?」



「そうだよ」



「なんでそんな嘘を?」



「なんでって、あたしが死ぬって言ったらきっと京ちゃん、あたしが死なない未来に変えようとしちゃうでしょ? そんな事望んでないし、絶対無理だもん」



 それこそ京介を本当に苦しめてしまう。


 右手でちょうど心臓がある辺りをシャツの上から握り締めて、真顔を向ける今市に今度は心奈が戯けるように笑ってみせる。



「京ちゃん、本当にあたしの事大好きだからさー」



「そうだね」



「ちょっとそこは肯定しないでよ。笑うとこでしょ?」



「事実だから。京介は君が好きだった。本当に。君が死ぬまで......いや、死んだ後もね」



「ねぇ今市くん」



「うん?」



「......あなたもタイムリーパーなのよね?」



「うん」



「つまりあなたも.........」



 言いかけて、言葉を飲み込んだ。


 タイムリープが出来た理由ははっきり断定できないが仮説はある。


 だがそれを言うのははばかられた。決して気分の良くなる話ではないからだ。



「九重さんがタイムリープした目的は聞いてるから、僕も言わなきゃフェアじゃないよね?」



 無表情だった優馬の顔に笑顔が張りつく。



「僕は君と京介をくっつけるために未来からやってきたんだ」



「え?」



 心臓が、大きく脈打つ。



「な、なんで......あなたが未来から来たんなら、あたしが死んじゃうことも、そのせいで京ちゃんが苦しむことも知ってるでしょ?」



「さあ。『君のいた未来』のことは僕は知らない。でも1つだけはっきり言える事がある」



「な、なによ......」



「君と京介は一緒になるべきだ」



 いつもの優しい口調とは打って変わって有無を言わさぬ、力を感じる声に思わず喉が鳴る。



「だから僕は君には協力できない。それだけは、はっきり伝えておきたくてね」



 じゃあね、と声だけ残して背を向けて出口に向かって歩く今市の背中を心奈はただただ見つめることしかできなかった。








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