8-1.秘めた想い




「お前ふざけんなよ」



 先生不在の保健室のベッドに横になって顔を逸らしつつ申し訳なさそうに体温計を渡してきた飛鳥に思わず眉がひくりと動く。



「39.1度って、普通に高熱じゃねぇか。いつから体調悪かった?」



 ちらりと京介の表情を盗み見た飛鳥は掛け布団を顔まで被って表情を隠してしまう。



「その、今朝から......」



「いや、なら学校休めよ。なんでそんな無茶したんだ?」



「.........があったから......」



「え?」



 顔のほとんどを覆ってしまっている掛け布団のせいで飛鳥の声が上手く聞き取れない。


 眉間にありったけシワを寄せてしばらく黙って盛り上がった布団を睨んでおくと、観念したのか掛け布団から飛鳥がひょっこり顔を出した。



「今日、京介のクラスと合同体育あったから......」



「は? それがなんで......」



「......京介と話せるかもって思ったから」



「オレと?」



「うん」



「まじ、か......」



「マジだよ」



 相変わらず熱のせいか顔が赤い飛鳥が目元まで掛け布団を被ってしまう。


 嬉しい、と言えばそうなのだが、正直戸惑い気持ちの方強い。


 最後にまともに話したのがいつだったかも覚えてないのに。


 昨日一緒に帰った時もまともに話してないし。


 なんでそんな事を言ってくれたのか理解できず、頭の中に大量の疑問符が浮かんでしまって、無意識に首を傾げてしまう。



「......ずっと謝りたかった」



「え?」



「京介と話さなくなったの、私のせいだよね?」



「えっと......そうなのか?」



「そうだよ」



 ベッドから上半身だけ起こした飛鳥の表情を察するにご立腹そうだ。


 突然そんな顔されても困ってしまって今度は京介が飛鳥から視線を逸らすハメになってしまう。



「小学校まで一緒に学校に通って一緒に遊んでたのに、中学校で私がバスケ部に入ってから疎遠になっちゃって......京介、家のこともあったから部活入らなかったでしょ? それからどんどん話す機会がなくなって......」



「あー......」



 言われてみれば飛鳥との関係が疎遠になったのは父親が家を出て行った頃からかもしれない。



「話しかけたかったんだけど、なんとなく話しかけにくくなっちゃったし、なぜか中学の時はずっと別のクラスだったから接点も生まれなくて......それでちょっとでも京介の気を引きたくて、勉強も部活もがんばってたんだけど、どんどん疎遠になっちゃって......」



 がんばれば、がんばるほど幼馴染って言いにくくなったんだけどな、とは言えるはずもなく、掛け布団をたくし上げて顔を半分くらい隠す飛鳥にとりあえず苦笑いを向けておく。



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