7-2.合同体育_縮まる距離




 心奈は感心しているし、飛鳥もさっきからぽんぽんゴールも入れている。


 だけど、なんて言うか昨日の試合で見た凄さを感じない。


 所詮クラスのだし、手を抜いていてもおかしくないのだが......



(だけど、生真面目な飛鳥が手を抜くか?)



 どうにも気になってしまった京介は疲れ切った身体にムチを打って立ち上がる。



「ごめん心奈。ちょっと近くで見てくる」



「あ、うん」



 心奈に断って人だかりの出来るコート側に移動する。


 やはり様子がおかしい。


 昨日の練習試合で涼しい顔でシュートを決めまくっていた飛鳥が、今は汗をかいて息を切れている。


 体調が悪いのだろうか。


 昨日一緒に帰った時はそんな感じはしなかっのに。


 と思った瞬間、目の前でドリブルしていた飛鳥の身体が大きくかたむく。



「あっ......」



「危ないっ!」



 咄嗟とっさに出た声と同時に身体が動く。


 目の前で体勢を崩したこともあって、コートに身体を打ちつける前に上手く飛鳥を受け止めることに成功した。



「熱っ......」



 玉のような大粒の汗を浮かべる飛鳥の身体は焼けるように熱く、呼吸が浅くて苦しそうだ。



「......京、介?」



「すごい熱だぞ。どうせお前の事だから、体調悪いのわかってて無理したな?」



 とがめるつもりはなかったのだが、ムッとした表情を作った飛鳥に目をらされてしまった。


 急に幼馴染顔して説教垂れれば、そりゃこんな反応にもなる。


 それにこんな注目を集める中で抱き合うみたいな格好されれば尚更なおさらだろう。


 不機嫌そうな横顔から周りに視線を向ける。



「ま、あんま無理すんなってことだ。それとちょっと休め。おい誰かー、こいつを保健室に......」



 言いかけたところでシャツの胸の辺りを引っ張られて視線を戻すと、真っ赤な顔の飛鳥が上目遣い気味に見上げていた。



「な、なんだよ......」



「......その、京介が連れてって」



「は? なんでオレが......」



「お願い」



 潤んだすがるような弱々しい懐かしい視線。


 よく一緒に遊んでいた頃、拗ねた時によくこんな顔をされていた事を思い出す。


 こうなると頑として意見を曲げなくなるから、嫌でも飛鳥の言う通りにしてたっけ。



「.........な、なに笑ってんのよ」



「いや別に。ちょっと昔を思い出してな。ほら肩貸してやるから保健室行くぞ」



「うん。ありがと」



 頷いた飛鳥の腕を肩に回して立ち上がって体育館を後にした。


 去り際、目が合った心奈が笑顔で手を振っていた。

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