6-3.幼馴染との進展




「こらっ!」



 頭からなったポカっという小粋な音と心奈の声。


 顔を上げれば先程机から引っ張り出した京介の教科書を丸めて腕を組んだ心奈が眉毛を八の字に曲げていた。



「まだ何にも挑戦してないのに諦めちゃダメだよ!」



「......知ったような口聞くな。お前にオレの気持ちはわからないよ」



「うん。わかんない。でも今、京ちゃんは満足してないよね?」



 心奈の言葉に何も言い返せない。


 言う通りだ。


 せっかく飛鳥と二人っきりになれたのに、何も話せなかった。


 悔しいと言うより、それがどうしようもなく悲しかった。


 京介をとらえる力強いブラウンの双眸そうぼうに、まるで吸い寄せられているみたいで視線を逸らさない。



「満足は、してない。でも」



 やっぱり飛鳥と話すのは怖い。


 話せば、この開いてしまった差みたいなものが浮き彫りになりそうだから。



「大丈夫だよ」



「え?」



「大丈夫。京ちゃんにはあたしがついてる。止まりそうになったら、あたしが背中を押してあげる」



 じわりと胸の辺りが熱くなる。



「.........んだよそれ」



 昨日出会ったばかりで、得体の知れないやつなのに。


 彼女と話していると胸が温かくなって、不思議と口角が上がってしまう。



「......二人には悪いけど、やっぱり僕は君たちの方がお似合いだと思うけどな」



 慌てて顔を上げてニコニコ笑う優馬を睨む。



「は、はあっ!?」



「熟年カップルも真っ青。とってもお似合いだと思うよ」



(オレが、こいつと?)



 確かに出会って二日でこんなに距離がないんだ、気が合うことは認める。話してて、居心地も悪くない。


 ふと心奈のブラウンの瞳と交錯する。


 心臓が跳ねる。


 なんでこんなにドキドキしてるんだ?



「それはダメだから」



 温度の感じない表情とはっきりとした心奈の声。


 まるで冷水を頭からかぶったみたいに、さっきまで跳ねていた心臓の鼓動が嘘みたいになりをおさめる。


 心奈は未来から京介が死なないように誰かとくっつけるためにこの時代に来たのだ。



 心奈を好きになっちゃいけない。



 似合わない真剣な眼差しを向ける心奈に鼻で笑ってみせる。



「ふざけんな。そんなの、こっちから願い下げだ」



 それと同時に始業開始のチャイムが鳴って、教室に先生が入って来て京介達の方に視線を向ける。



「九重。先生の前で教科書丸めるとはいい度胸だな」



「へ? あ、これは京ちゃんの......」



「京ちゃん? ああ、各務原かがみはらか。ならお前も同罪だ。授業後職員室に来い」



「え?」

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