4-1.心奈の手料理
「ねぇ京ちゃん」
体育館を後にして優馬と別れた京介と心奈は焼けるようなオレンジに照らされた校庭を歩いている。
「ん?」
「その、怒ってない?」
出会ってからずっと笑顔だった心奈の顔が少しだけ曇っている。
「そう見えるか?」
「や、そのぉ......今市くんにやり過ぎって言われちゃったし」
「あー。ま、気にすんな。言ったろ? 最初から飛鳥とオレとじゃ釣り合わないって」
コートの上で大観衆の注目とスポットライトを浴びる飛鳥を見て、改めて諦める決心がついた。
幼い頃に抱いた淡い恋心を諦めきれずに飛鳥を追いかけ、死ぬ気で勉強して自分の学力に見合わないこの学校に無理やり入学してみたものの、彼女は学年主席で京介は学年最下位クラス。
スクールカーストに押し潰されて、話すことすら出来なかった。
すれ違っても目すら合わない。その度に苦しんでいた。
幼馴染補正なんて本当に恋愛小説や少女漫画にだけある幻想だ。
いつか諦めなければならなかった事だった。それが今日になっただけ。
俯き気味に隣を歩く心奈の頭に手を置いて指通りのいい細い髪をグシャグシャにする。
「おわわわっ、京ちゃん!?」
「気にすんな。正直、ちょっとスッキリしたまである」
ボサボサになった髪を整える心奈から視線を外し、沈もうとする真っ赤な夕日を見つめて伸びをする。
「ありがと......なっ!?」
お礼を言った京介の背中に鋭い痛みが駆け抜ける。
「こらーっ! 何勝手に諦めてんだ! ......いてて」
振り向けば、痛みを生み出した張本人である心奈が痛そうに手を振っている。
「あたしはまだ京ちゃんが夢咲さんと一緒になる事、諦めてないから」
「つってもさ......」
「大丈夫だよ」
京介の前に躍り出た心奈が振り返る。
強烈なオレンジの光線が、
「京ちゃんにはあたしがついてるから」
跳ねる心臓。
視線が心奈の笑顔に張り付いてしまったみたいに動かせない。
出会ってからというもの、こいつには心を動かされっぱなしだ。
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