2-3.幼馴染より気になるあいつ




「そのコッペパン、メチャクチャ美味しそう! いちごと生クリームたっぷりだからカロリー高そうで選ぶのやめたけどちょっと食べたいっ」



 いちごクリームコッペパン。


 京介の通う高校の売店で、男女共に一番の支持を集めるこの名物コッペパンは、数量が少なく入手するのが難しい人気のパンだ。


 どうやら心奈はこれがご所望だったらしい。



「なんか残念そうだけど、どうしたの?」



「.........別に」



「? 変な京ちゃん。ねぇねぇ、それ一口食べてもいい?」



 クリクリした瞳を輝かせてコッペパンを見つめる心奈。


 別に上げてもいいんだが、さっきから手玉に取られてるみたいで面白くないので、少しだけ意地悪したくなる。



「ダメ。これは午後を乗り切るオレの貴重なエネルギー源だから」



「な、ならあたしのあんぱんあげるっ! すっごく美味しいよこのあんぱん!」



「ヤダね」



 差し出されたあんぱんに見向きもせずに、見せびらかすように一口かじると、「ああっ」と切なげな声を漏らし、ムッとした顔で睨みつけてきた。



「......京ちゃん、性格悪いよっ」



「悪くて結構。残念だったな。そんなに食べたきゃ、明日がんばって自分で取るんだな」



「むぅ......あっ」



 スッと伸びた心奈の手。


 コッペパンを奪おうとしてると思った京介はコッペパンを持つ手を挙げて、彼女の手が届かない位置に退避させることに成功したのだが、伸びた手は予想を反して京介の頬に触れる。


 優しく拭うように触れた柔らかな人差し指が頬を撫で、花が咲いたみたいに心奈が笑う。



「ほっぺに生クリーム付いてるよ?」



 心臓が、強く脈打つ。



「.........えいっ! 隙ありぃ〜!」



 心奈の不意打ちに固まって動けなくなった京介の手から立ち上がった心奈にあっさりコッペパンを奪われてしまう。



「やりぃ〜。油断大敵ってやつだよ! で、夢咲さん問題だよねぇ。うーん、どう攻略するかなぁ」



 正直、飛鳥どころじゃない。


 京介は項垂うなだれた顔を片手で覆う。


 信じられないくらい顔が熱い。


 それに心臓が痛いくらい強く脈打っている。



(なんでさっきからこんなに心臓がバクバクするんだ)



 ひょっとして、九重心奈のことを気になり始めてる?



 そんな考えが頭に浮かんだ京介は慌てて首を左右に振ってそんな考えを頭の外に放り出した。



「ん〜! 甘くて美味しいっ!」



「......そりゃよかったな」



「ふふっ。ねぇ京ちゃん」



「.........んだよ」



「顔、真っ赤だよ」



「っ!?」



 口の端を吊り上げて、意地悪そうな顔を近づける心奈から慌てて距離を取る。



「やっぱ高校生の京ちゃんもウブだったかー」



「か、からかうな!」



「ふふっ。京ちゃん、いくらあたしが可愛くても、もう好きになっちゃダメなんだからね?」



 とか言いつつ、頬を桜色に染めて嬉しそうに微笑む心奈に再び心を動かされてしまった京介ははっきり否定する事が出来ず、眩しい彼女から目を逸らすのだった。

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