第一章

1-1.自称、未来の妻が自分じゃない他の誰かとオレをくっくけたい訳




「なんと、京ちゃんの持ってるそのiPhoneは2024年には15まで出てるんだよっ」



 西暦2024年。そこから『九重ここのえ心奈ここなは来たらしい。



 2024年は平成ではなく令和という元号に変わり、世界を揺るがした未曾有みぞうのウイルス災害が明け、世界の至る所で戦争が起きているという。



「.........へー」



「あーその顔! 絶対信じてないなぁ!」



「信じられるかよ、そんな話」



 教室に戻った京介は、さっきから眉唾ものの話を吹き込む心奈にため息を返した。


 さっき空から降ってきた女の子、九重心奈は同じクラスメイトだった。


 人に興味がない故に交友関係が狭く、特に女子とは一年の内で数回話せば良い方な京介にとって、クラスメイトの女子でさえ正しく認識しているかどうか怪しいのだが、出会った当初、京介と同じ苗字の『各務原かがみはら』と名乗ったので、全くの赤の他人だと思っていた。



「ちょっと聞いてる?」



 若干頬をむくれさせた心奈に向ける視線を細め、顔の前で手を振る。



「れいわね、れいわ。はいはい。わかったわかった」



「なんか適当にあしらわれてる。これじゃあたし、ちょっと頭イタイ子みたいじゃん!」



「......そんなこと、ないよ?」



「視線が言葉以上に物語ってる!」



 むきぃーっと、猿みたいにうなった心奈が形のいい眉を八の字に歪め、整った容姿をずいっと京介に近づける。



「まあいいよ。別にあたしが未来から来た事を信じてもらおうとはこれっぽっちも思ってないから。......ちょっと寂しいけど」



「あそ。ごめんな、九重ここのえさん」



「.........そんなことより気になる事があるんだけど」



「え?」



 バンっと机を叩いた心奈が京介を睨む。



「九重! あたしの事、九重さんって呼ぶのだけは我慢ならないよっ!」



「ええ......」



「前は......二人っきりの時は、ここちゃんって呼んでくれたのにっ!」



「そんな恥ずかしい呼び名で呼べるかぁ!」



 言って、さっきまで騒がしかった教室が静まり返っていることに気がつく。



「じゃあせめて心奈って呼んでっ!」



 叫ぶ心奈。


 生温かいクラスの視線。


 両手でおおった顔がびっくりするくらい熱を持っている。



「おまえちょっと来いっ!」



「ふぇっ?」



 絶対みんなにあらぬ誤解をされている。


 そんな気がした京介は、呑気のんきに小首をかしげる心奈の手を引いてヒソヒソささやくクラスメイトたちの視線を振り切るように教室を飛び出した。



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