離してと言われても無理な話

たい焼き。

魅惑のしっとりぷにぷに

「ミーコぉ〜、ちゃんとケアしたからもうガサガサの手じゃないよぉ〜」

「んなー」


 ミーコを撫でるために伸ばされた手は拒絶されること無く、頭から背中、お腹と思う存分撫でさせてくれる。


 ケア用品を買った時にイケメン店員さんが「匂いつきは嫌がられるかもしれない」というアドバイスを元に、無臭のものを選んだ。

 他にも仮にミーコが舐めたりしても害がないように、自然由来の成分を使っている製品を勧められた。


 普段なら接しないようなイケメン店員さんだったけど、ミーコの事を話したらすごく食いつかれて猫トークで盛り上がってしまった。

 普段ならイケメンと会話なんて緊張してマトモに話せないけど、猫トークだったからか、ミーコを褒められたからか、自分でもびっくりするくらいスムーズな会話が出来た。


 ミーコのおかげで女子力もあがり、滅多にないイケメンとの会話で心も潤った。


 あの店員さん、推せるなぁ……。

 あんなに顧客どころか猫に寄り添った提案できるなんて、なかなかいない気がする。


 今度写真見せてって言ってたけど、見せに行った方がいいのかなぁ……。

 店員さんだし社交辞令だとは思うけど……猫好きな感じは伝わってきたし、見せに行ったら喜んでくれるかもしれない。


 それとも、ただの社交辞令を真に受けて……なんて少し困らせてしまうかもしれない。


 上の空でミーコを撫でていたのが伝わったのか、ミーコがぐいぐいと頭を手のひらに押し付けてきた。


「にゃあん」

「ごめん、ごめん。ミーコはどこをご希望ですかぁ〜?」


 ミーコの抗議っぽい声に謝りながら、頭から背中にかけてめいっぱい撫でる。

 ミーコもかまってもらえた嬉しさからか自分の気持ちのいいところに私の手に体を押し付けてくる。


「んにゃぁん」


 ミーコが一言鳴いたと思ったら、ゴロンと横になって私にお腹を見せてきた。


「ここも撫でて欲しいのかい? ん?」


 シチュエーションが違えば通報されてもおかしくないようなセリフを吐きながら、ミーコの無防備に晒されたお腹を撫でる。


「ほれほれ、ここか? ここがええんか?」

「んにゃっ!」


 ミーコのお腹を存分にもふもふしていたら、気に入らないところまで触っていたようで嫌がるような鋭い声と共に私の手が動かないように前足が掴んできた。

 私の手をホールドするように両前足でガシッと挟まれる。手に感じられるぷにぷにとした感触……。


「……っ! これが……肉球……」

「……」


 ミーコのぷっくりとしたピンクの肉球が私の手の動きを制限しようと必死に挟み込んでホールドしている。


 あ、ちょっと手を開いてグーパーしているみたいだけど、それがマッサージのようで心地いい。


「ミ、ミーコ! ちょっとだけ、肉球を触らせて」

「っ!」


 ミーコのホールドを振り切り、私の両手でミーコの両前足を優しく持って親指で優しく撫で、少し圧をかけて弾き返してくる感触を楽しむ。

 それでいて、こちらを離したくないとばかりにしっとりとした肉球が吸い付いてくる。


 すごい! こんなぷっくりぷにぷにな肉球を持っていたのか!


 世の中には猫の形をした商品がたくさんあるが、肉球デザインまであることが不思議だった。

 アレは可愛さだけでデザインされていると思っていたけど、こういうことだったのか。

 きっと、最初に肉球をデザインに持っていこうとした人間はこのしっとりぷにぷにに魅了されてしまったんだ。


「そういえば、肉球からはポップコーンの匂いがすると聞いたっけ……あっ!」


 私がデレデレしながら肉球を触っていても許してくれていたミーコが、私の言葉を聞いてサッと前足を引っ込めた。


「ミーコさん、一度でいいから匂いを……」

「……んぉぉん」

「あぁっ……」


 私の言葉に不穏なものを感じたのか、ミーコは嫌そうな低い鳴き声をひとつあげて部屋のキャットタワーの一番上に逃げてしまった。




 それから、ミーコの機嫌がなおって下に降りてくるまでには半日を要した。

 もちろん、機嫌をなおしてもらうために謝り続け、さまざまなおもちゃやオヤツを献上したのは言うまでもない。

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離してと言われても無理な話 たい焼き。 @natsu8u

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