第27話 知らなくても良いこと
「やっぱ、一番必要な物って言ったら飯だよな」
薬局で必要な物を買い、俺達はショッピングモール内のスーパーへと向かった。
ここで買うものは主に食料。特に今回はほぼ野宿のような形で過ごすことになるだろう。ホテルでも良いのだが、俺達は一応未成年。ダークさんに至っては身分証すら存在しない。その為、テントでも買って無理矢理寝泊まりするしかないのだ。
「なあなあ、前に作ったジャガイモのやつってなんだっけか?」
「じゃがいも? 肉じゃがですか?」
「そうそれだ! 俺アレが食いたいんだが!」
「無理ですよ。俺達が行くところキッチンないんですから。あったとしても、多分料理してる暇も気力も無いですよ?」
「それに関しては大丈夫だ」
「え? なんでです?」
「料理はテメェがするからな!」
「俺の体力的に無理だって言ってるんです。なにナチュラルに俺を酷使しようとしてるんですか。それに、調理器具を持って行ったらその分荷物が多くなります。荷物は最小限、リュックに収まる程度にしますからね」
「なんでだよ。テメェの家にでけぇカバンあったろ? 転がすやつ」
「キャリーケースですか。あのですね、俺達はハスター教団に会いに行くだけとはいえ、十中八九カチコミに入ることになります。そんな時、キャリーケース片手に侵入できないでしょう」
「テントに置いてけば良いじゃねぇか」
「そもそもテントを立てられるかすら分からないんです。あそこら辺キャンプ場無いですし、適当な場所にテント立てたら警察が来て面倒です。テントは大きいですし、最悪捨てることになります。そんなときに、捨てる物は少ない方が良いでしょう?」
「俺達には金がある」
「お金の問題じゃないです。良いから、レトルトでも缶詰でもカップラーメンでも良いので、保存食的なやつを探して来てください」
「へいへい」
あちこち見上げながらスーパー内を散策し始めるダークさんの背中を見て俺はため息を吐く。
ああいうところは俺とは似ないな。そもそも学校だってまともに行ってないのだから、価値観が合わないのは仕方ないが。
「おぬし、あやつに料理を作っておるのか?」
「うん。まあ朝ご飯とか昼ご飯はね。夜はお母さんに作ってもらってるよ」
「なるほど。それでお母さまがおらんときはおぬしが……まったく、羨ましい……」
「羨ましいの?」
「訂正する。まったくダメな奴じゃの。居候しておるのなら家事くらいすれば良いのに。その点、ワシは一人暮らしをしておるからの。家事は一通りこなせる」
「おおー凄いね」
「そうじゃろ? やはり、居候させるならワシの方が良い」
「いや居候させないから。まあ、なにかあった時はダークさんにお任せすることになるしね。ギブアンドテイクみたいなものだよ」
「ワシはおぬしに無償の愛を捧げる所存じゃ」
「俺は支え合って生きていきたいタイプなんだよ。それよりハートさん。ハートさんはなにか準備しなくても良いの?」
「ワシか?」
「ハートさんも海行くでしょ?」
「それならおぬしらから話を聞いてすぐに、博士に頼んでおいた」
「博士?」
「ああ。化け物退治をする上で、ワシを支援しておる人物じゃの。この衣装を作った人物も博士じゃ」
「それは気になるな」
「おっと、ダークさん。いつの間に帰って来てたんだ」
「とりあえず一通り持ってきた」
どっさりとレトルト食品をカゴに入れてくるダークさん。随分持ってきたな。二人で過ごすにはちょっと多い。一週間は三食食べられそうだぞ。
とりあえず三日分にしておこう。三日以上かかるならそもそも異常事態だろうし、現地で買い出しに行くか、一度帰る必要がある。
あとパックご飯も買っておこう。火起こしはダークさんができるだろうから楽だな。
「そんで、その博士ってのは何者なんだ?」
「おぬしに話す必要があるのか?」
「別にちょっとくらい良いじゃねぇか。その衣装、俺とは違って特別製。お前は本来弱いってのは知ってる。ずっと気になってたんだ。俺とやりあえるようになるくらい身体能力を挙げられる装備ってのが」
「ふんっ! おぬしに話すことなぞないわ。おぬしこし、装備すら特別製でないのに、よくもまあそんな身体能力を手に入れたものだな。なにか隠しておるのではないか?」
「隠してねぇよ。てか、俺がテメェらよりも身体能力が高いこと、それが分かったのは最近だ。逆にどうやったらそんなに弱くなれるのか知りたいぜ」
「……単刀直入に聞くぞ。おぬしは何者だ?」
「んなもん決まってんだろ。おいひかり」
「どうしました?」
「……テメェ話聞いてなかったな? んな真剣にレトルト食品選んでねぇでこっち来いや」
「なんですかいきなり……」
「テンション上げろ。名乗り上げっから」
「名乗りって、参上ってやつですか? なんでここで」
「こいつがお前は何者だーとかほざきやがるからよ」
「それで名乗りをあげるなバカ。ワシはただ、おぬしが人間かどうか聞いておるだけじゃ。おぬしが怪盗ダークであることなんぞ分かっておる」
「分かんねぇぞ? 俺は偽物かもよ?」
「それでも良い。ワシにはおぬしが偽物かどうかなんて今は関係ない。それより、結局おぬしは人間なのか答えんか」
「……ったくよ」
それからダークさんは頭を掻いて、気まずそうにそっぽ向く。
「俺は人間じゃねぇよ」
「ほう」
「だ、ダークさん?」
なにを言っているんだ。ダークさんが人間じゃないわけが……
「俺を捨てた母親曰く、俺は悪魔の子で、人間みたいに振舞うのは気持ちが悪いってな」
「……ん?」
「だから俺は悪魔になる。そんで俺を否定して苦しめてきた人間を不幸に陥れる」
……これはつまり、母親の言葉が呪いとして残っているから、言われた通り悪魔のような振舞いしているということか……
重い話だ。こんな重要な話をしてくれた以上、俺達はそれ相応の対応をすべき。だが……
「ああそう。もう良いわ」
ハートさんは面倒だと言わんばかりに手をひらひらさせた。
「なんだよ。テメェの聞きたかったことは話したぞ」
「この話で分かったことは、おぬしの相手は面倒だと言うことだけじゃ」
「テメェホントクソだな。もうこいつ放っておいて食料調達しに行くぞ」
「あっ、待ってくださいよ!」
……なにはともわれ、ダークさんが自分で気づいていない場合を除いて、ダークさんは化け物と関わっていないことが分かった。そもそも化け物のことをよく知らないという反応をされたし、現状はこれがベストだな。
そう思いながら、俺はダークさんの背中を追った。
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