第26話 デートしてようが関係ねぇっていうスタイル

「それで、これからどこに行くのじゃ?」


 ゲームセンターを出てすぐ、ハートさんが歩く俺の服の袖を掴みながら聞いてきた。


 そんなハートさんの手をイライラしているダークさんがはたく。


「テメェに教えてやる義理はねぇ。ていうか、なんでついて来てんだよ」


「おぬしのことなどどうでも良い。ワシがついて行っているのはひかりじゃ。嫌ならおぬしが帰るが良い」


「ふざけんな。なんでテメェの為に俺が帰らなきゃならねぇんだ。おいひかり。テメェもなんか言ってやれ」


「まあまあ良いじゃないですか。今日は俺達になにかしてくるってわけじゃないんですし、居ても居なくても変わりませんよ」


「そういうわけじゃ。ワシはただひかりと店を回りたいだけ。なんもせん」


「んじゃ、せめてその服脱げよ」


「無理じゃ」


「なんでだよ。なんもしねぇんだろ?」


「普通に今日はこれしか着てきていないからじゃ。それより結局、どこに行くつもりなのじゃ?」


 ダークさんは舌打ちしてそっぽ向く。


 そんなダークさんを見て俺は苦笑いしながら、ハートさんへと向いた。


「これから薬局に行くんだよ」


「薬局じゃと? 薬でも買うのか?」


「薬局にあるのは薬だけじゃねぇんだよ。てかテメェ、今の俺達見て薬が必要そうに見えるか?」


「ああ。貴様にはバカを治す薬が必要そうじゃ」


「んだとコラ」


「事実を言ったまでじゃろう」


「なんで一言話すだけで喧嘩になるのかなぁ……それよりほら、着いたよ」


「まったく……ひとまず俺は別行動だ。こいつに買うもん見せたくねぇからな。ひかり、金寄越せ」


「はいはい」


 ある程度お金を渡すと、ダークさんは一人で中に入って行った。


「これで二人きりじゃの」


「そう言われても俺喜べないからね?」


「なんでじゃ? ワシと二人きりになることが、おぬしにとって一番の幸せじゃろう?」


「確かにハートさんと一緒なのは嬉しいけど、さっきのやり取り見てからじゃ素直に喜べないから……それに、ハートさんはもう俺に関わってこないかと思ってたからさ」


「……確かに、普通なら絶交じゃろうな」


「……」


「だがの。ワシは普通ではない。他の奴らがどれだけおぬしのことじゃろうと、ワシの愛に勝てる者はおらんのじゃ。そんなワシがおぬしにワシの隣に立つ為に戦うと言われて、嬉しくないわけがあるか?」


「あー……まあ、友達だからさ」


「友達か。まあ、おぬしは誰に対しても同じようなことをするのじゃろうな。じゃが、それでも今回見てもらえたのはワシ。であればもう、おぬしはワシのモノじゃよ」


「も、もうっ! 良いから行くよ!」


「照れてしまって可愛いのう。それで、おぬしもなにを買うのじゃ?」


「俺? 救急箱だよ」


「ほう。おぬし、プロでもないのに怪我したことの時まで考えておるのか」


「これが普通の旅行ならともかく、ハスター教団、ひいては未知の化け物と戦うことになるかもしれないんでしょ? だったらなにかあった時にリカバリーできるようにしておかないと。それに、ダークさんはそういうなにかあった時の為の準備はしないから」


「ん? 今あやつも必要な物を買っておるのよな?」


「今買ってるのはトリックなんかで使うものだよ。作戦が失敗する時のことなんてなにも考えてない」


「……まあ、あやつらしいと言えばそうか……」


「というわけで、ダークさんの分まで俺がいろいろ準備しないといけないんだねぇ」


「まったく、ひかりの手を煩わせよって……そういうの、ワシなら困らせることなんてないのだがの」


 ……なんか、上目遣いで言ってくるのはなんでだろう。


「まあ、どのみちどれだけ準備しても足りないだろうからね。俺がいろいろ用意してるだけで充分だよ。相手は未知の存在だし、未知の存在について分かることはなにもないから対策できない」


「未知の存在なら怪盗ダークがおるじゃろう」


「……それ言っちゃう?」


「言っちゃう。というかおぬし、あやつに化け物の話はしたのか?」


 俺は少しの沈黙の末、そこら辺を物珍しそうに見て回るダークさんを見ながら、小さく答えた。


「まだ言ってないよ。深きものとかは本に書いてあったけど、それについて深く聞いてくることもなかったし」


「それは、既に知っておるからかのぉ」


「そこら辺はまだ断定できないよ。ただ、ダークさんはプロだもん。相手が化け物だろうが変わらずに仕事をするはず。なら、細かいことは俺達が対処すれば良いんじゃない?」


「おぬしはあやつに……というか、他人に甘いな。怪盗ダーク。あやつは一応おぬしを信頼しておる。おぬしが化け物のことを知っておるか聞けば、おそらく答えるじゃろう」


「それでも、だよ。俺にとってダークさんは人間だ。例え本当に化け物でも心は人間。だったら俺も人間扱いする」


「そういうところがおぬしの弱点じゃな」


「こういう人間じゃなかったら、ハートさんも俺と関わってないでしょ?」


「……まあの」

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