第22話 可愛くてカッコいいは反則だと思う

 一晩が経ち、俺達はショッピングモールへと来ていた。


 前回初めてダークさんと出かけた時は侵入する場所の下見だったが、今日はここに予告状を出すつもりは毛頭ない。


 それ故かダークさんのテンションはあまり高くなく、眠そうにしながら先導している俺について来ていた。


「なあ、わざわざ来る必要あったのか?」


「これから遠出するんですよ? まさかダークさんはそんな恰好で海まで行くつもりですか?」


「別に良いじゃねぇかよ」


「良くないですよ。それ俺の服ですよね?」


「ダメなのか?」


「ダメです。俺もそれほど服持ってるわけじゃないですし、向こうに何日滞在するか分かんないんですから。ダークさんに貸してたら俺が着れる服が無くなります」


「んじゃ怪盗衣装で良いだろ」


「あんなもの着て電車なんて乗れません。それに、できる限り強行突破は避けたいですから、ルルイエに入る時以外は普通の服で行きましょう」


「仕方ねぇな……んで、目的の服屋がここか?」


 ダークさんは看板を見上げるが、よく分からないというように首を傾げた。


「ダークさんはこういうところあまり来たことなさそうですね」


「俺は普段から怪盗衣装だからな」


 ここは女性用の服が集まっている店。ダークさんがここの服を好むかは分からないが、それでもダークさんの趣味的には男性用よりここちらの方が合っているだろう。


「それでダークさん、なにかこういうのを着てみたいっていうのはありますか?」


「あると思うか?」


「無いでしょうねぇ」


「家でも言ったが、俺は条件さえ満たせば見た目はどうだって良い」


「スカートが良い、ですよね。ここならスカート多いですし、きっと気に入るものがありますよ。それにしても、ダークさんがスカート好きとは思いませんでした。てっきりズボンとかの方が良いかと」


「別にズボンも悪かねぇが、ズボンは蹴る度にいちいち破けるんだわ」


「そういえば、心ちゃんの探偵衣装と違って、ダークさんのは普通の服にいろいろ手を加えて着てますもんね。流石にダークさんの動きには耐えきれませんでしたか」


「逆にあいつはどっからあんな服仕入れてきてんだ? 俺とか全部失った時に荒れながら盗んできたんだが」


「そういえば聞いたことなかったですね。また今度聞いてみる……は、できないか」


「あーあ、また変なこと思い出した。それより服だ。俺は服の良し悪しなんて分かんねぇからな。テメェが選べ」


「はいはい」


 どうせなら似合うものにしたいよな。幸い、お金に関してはどれだけ高くても気にする必要は無い。いろいろ気にせずに選べるのはかなり楽だな。


「あっ、こんなのはどうですか? 一応スカートですよ」


「……それ、ワンピースか」


「はい。ダークさん普段の性格のせいで忘れがちですけど可愛いですし、こういうのかなり似合うはずです」


「う、うるせぇ! 可愛かねぇ! ……テメェはそれが良いのか?」


「俺ですか?」


「そうだよ。テメェは俺にそれを着てほしいのかって聞いてんだ」


「着てほしいかと言われても……ただ似合うと思っただけで、僕の好みは気にしてませんでしたね」


「んじゃ、テメェの好みに合わせてやる。俺は似合うかどうかなんてどうでも良いしな」


「そうですか? 好みと言っても女性の服にそれほど詳しくないので……まあ、俺がどんなの選んでもダークさんなら全部似合うと思いますしね」


「かぁ~こいつはよぉ……」


「な、なんですいきなり変な声出して」


「なんでもねぇ。良いからさっさと服探せ」


 そうは言われても、俺は女性の服なんて選んだことないし……


 とりあえずあるものをひたすら見て回る。


 そして、一つの上着に目が留まった。


「……なんだそれ」


「ジャケットですね。レザージャケット」


 手に取って、ダークさんに着てみてもらう。


 ……これは、凄いなぁ……


「なんだよ。じろじろ見てきて」


「いえ、カッコいいなぁと」


「そうかぁ?」


「下は俺の服ですが、上着だけでここまで変わるものなんですね。これならシャツやスカートはシンプルなもので良さそうですね」


「……これがテメェの好みか?」


「そうですね。あっ、勝手に選んじゃいましたけど大丈夫ですか?」


「まっ、これがカッコいいってんなら構わねぇよ。ふんっ、やっぱ俺はこうでなくちゃな」


「ナルシストなんですか?」


「ちげぇよ。そもそも俺が本当にカッコいいだけだ」


「凄い自信ですね」


「煽ってるようにしか聞こえねぇのはなんでだろうな?」


「まあまあ、それよりスカート用意したんで着てみてくださいよ。俺が貸してるのズボンだし、そのままだとなにかあった時に不安でしょう?」


「だな。激しく動けんのは困る」


「スカートで激しく動くのもどうかと思いますけどねぇ」


「あ? なんでだよ」


「だって、ひらひらしてるし、ダークさんは足上げるじゃないですか」


「まさかテメェ、パンツのこととか気にしてんのか?」


「……そりゃ、多少は気になりますよ」


「テメェもそういうのあるんだな。俺はてっきり、テメェはそういうのまったく興味ないのか……と……ちょっと待て、んじゃなんだ、テメェは俺と居たこれまで、そういうの気にしてたってことか⁉」


「まあ、多少は」


「俺、テメェの前で割と跳んだり跳ねたり蹴ったりしてたよな⁉」


「……? そうですね」


「そんな時もテメェは」


「あー待ってください見てないです。なにも気にしてないです。それに、ダークさんも多分人に見られた時のこと気にしてなかったんでしょ?」


「他人のことはどうでも良いんだよ。でもテメェは……」


「……俺は?」


「……なんでもねぇ!」


 そう言って、怒りながら試着室に入って行ってしまった。


 なんだかとても顔が赤かったが……気にするのはやめておこう。俺が変になりそうで怖い。


 まあ、ダークさんもプロだから、これで蹴り技を使わなくなるとかはないだろうが……これからはいちいち気にして俺に文句言ってきそうだな。ダークさんが刀を盗んでいて良かった。


「おい、着替えたぞ」


 着替え自体はすぐに終わった。


 カーテンが開かれ、俺はそちらへと振り返る。


「……おお……」


「な、なんだよその反応」


「こ、これは凄いですね……」


「だからなんなんだよその反応!」


 ……ふと、視線が下がった。


「だぁーっ、足見んな!」


「あっ、すみません!」


「そうやって素直に謝られると尚恥ずかしいわ! んで、今日買うのはこんで良いのか?」


「は、はい」


「んじゃ買ってくる」


 それからダークさんはいくつか選んであった服を手にカウンターまで向かった。


「そういえばお金持ってるの俺じゃん」


 そんなダークさんの背中を俺も追いかけた。結果軽く蹴られた。なんでだ……

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