第20話 キミの隣
俺は何度も銃を向けるが、ハートさんを捉えることはできなかった。
ダークさんは真っ向から戦っていたが、俺に対しては圧倒的な力を見せつけて勝つつもりなのだろう。俺が一撃も加えることができずに捕まえてしまえば、俺だって心を折られて怪盗をやめざる得ない。
……そう思っているのだろうが、俺だって格の違いは分かっている上でここに来ているんだ。
動きを止め、背後からの攻撃を警戒する。
そして、背中に杖が触れた瞬間、振り返ってその杖を掴んだ。
「……! おぬし、そんな芸当ができたとはな。ワシの攻撃を受け流せる奴など、化け物を含めてもそうおらんぞ」
「でも、一人できそうな人居るでしょ?」
「……怪盗ダークか」
「ダークさんにみっちり鍛えてもらったからね。付け焼刃だけど、こうしてハートさんを捕まえることができた」
「ほざきおるわ」
ハートさんは杖を手放し、俺へと蹴りを入れてくる。
それをなんとか避けて杖を持ち直した。
「できればスピードと技術で圧倒したかったのじゃが、こうなるとやはり真っ向から戦うしかないの」
「でも、ハートさんこっちの方が得意でしょ?」
「よく分かっておるな。怪盗ダークですらワシを倒すことはできん。ワシ相手に、おぬしにどこまで戦えるかの?」
普通にやれば瞬殺だろうな。
だが、俺はハートさんとまともにやりあうつもりはさらさらない。今回の目標は話をすることだけだ。
ハイスピードで迫ってくる攻撃。それをただ避けたり防いだり、とにかく俺は時間を稼ぐことだけを意識して対応する。
「おぬし、そんな防戦一方で大丈夫なのか? それではお宝を持ち帰ることなぞ到底叶わんぞ?」
「それはダークさんが持ってるから大丈夫だよ。俺一人ならどうとでもなるしね」
「おぬしを捕まえてすぐ、あやつも屠ってやるわ」
「そう上手くいくと良いけどね。……ダークさん! 今の内に一人で帰っててください!」
「今いろいろ試してるからむりー!」
「……」
試してる? まさかあの刀なんかを片っ端から試してどれを持ち帰るか決めてるのか?
「……あーどうじゃ? おぬしの思惑通りか?」
「聞かないで……! とにかく、俺はやりたいことだけやって帰るから良いの!」
「やりたいことか……それがこれとな?」
瞬間、ハートさんが俺の懐に入り、アッパーを決めてきた。
それをなんとか防ぐものの、圧倒的なパワーに身体は撃ちあがり、天井に足をつく。
「俺はただ、ハートさんに言っておきたいことがあるからここに居るんだよ!」
天井を思い切り蹴り、杖をハートさんへと振り下ろす。
「言いたいことじゃと……?」
当然ハートさんは容易に避けるが、その動きはとてもぎこちなかった。それはおそらく、怒りに震えているから。
「そんなもの、おぬしよりもワシの方が大量にあるわ!」
「だからだよ」
「……なに?」
「それに答える。俺の今の考えを伝えておきたかった」
「なぜじゃ。そんなもの必要無かろう。おぬしはただ、ワシを無視して活動しておれば良い。そのはずじゃ。怪盗ダークだってそう言ったのではないのか?」
「そうだね。でも、俺は伝えておくべきだと思った。無視するべきでないと思った。……だって、友達だから」
「……そうか……なら遠慮なく言わせてもらおう! おぬしはなぜこんなことをする⁉ おぬしはあくまで一般人であり、ワシが巻き込むこともあるかもしれんが、おぬしが自ら首を突っ込む必要はないじゃろう!」
「それでも俺は首突っ込むよ」
「なぜ⁉」
「心ちゃんの力になりたいんだ」
「あっ」
その言葉に、ハートさんは動きを止めた。
この隙は大きい。今ならハートさんを攻撃できる。でも、俺も動くことはない。
しばらくの沈黙の末、ハートさんは呟いた。
「おぬしは、もう充分、ワシの力になってくれておる……だから、そんなに他人の為に頑張らなくても良いのだ……」
「俺はキミだから力になりたいんだ。一昨日、俺はまったく動けなかった。多分それで良いんだと思う。だけど、俺はああいう時に動けるようにしたい。キミの事情を知って、キミ達の領域に足を踏み込んで、キミと関わりたい。だから、俺は最も深く関われる方法を取ったんだ」
「それなら、ワシと一緒でも良かったのではないか……?」
「ハートさんと一緒だったら、ルルイエに連れて行ってくれないでしょ」
「それは……」
「俺はハートさんとは別のやり方で化け物に関わっていくよ。そうした方が、ハートさんの横に並べそうだからね」
「ライト!」
その声と共に、ダークさんがこっちに飛び込んで刀を振り上げていた。
そんなダークさんの刀へと銃を向ける。
「キミに釣り合うような人間である為には、俺が主人公にならなきゃ」
「……!」
発砲し、銃弾が刀を掠める。そして、散った火花で周囲に引火し、燃え上がる。
「それじゃあ、言いたいことも言えたし、俺は行くよ」
「……! 待て! やはりワシの隣で……!」
そんな悲痛な叫びを聞きながら、俺達は煙の中に消え去った。
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