第19話 戦闘開始

 俺達が博物館内に降りた時、警察は皆こちらに注目していた。


 一人が俺達の着地点へと手を伸ばし、俺はすぐさま足元やケースに発砲した。


「二人だって⁉」


 そんな声が聞こえる頃には迫っていた警察官も俺達から反射的に身を引いており、その隙にダークさんがクトゥルフについてを盗む。


「よっしゃ!」


「……⁉ いやまだだ! 動くなお前達! お前達は既に包囲されている! 発砲許可も降りている!」


 俺達は背中合わせになって、警察へとそれぞれ銃を向けた。


「……どうします? 一応、このまま逃げることも可能ですよ」


「それも良いが、どうせなら派手に暴れたくねぇか? ここには魅力的な物が山ほどあるしな」


「まったく……まあ、俺もハートさんと喧嘩したいので良いですけど」


「テメェもやる気だな」


「不本意ですがね」


「お前達! 作戦会議しようが無駄だぞ!」


 そんな怒号に、ダークさんはとても愉快そうに笑った。


 この展開、さっきの作戦会議でも言っていたやつをやるつもりか。正直、恥ずかしいからやりたくないんだけどなぁ……


「さあさあ皆の衆初めまして! 怪盗ダークと……!」


「……怪盗ライト」


「ここに参上!」


 ……そんな名乗りを聞いて、警察は呆気に取られているようだった。それもそうだ。こんな名乗り、これまで怪盗ダークは一度もしてこなかったのだから。しかも怪盗ライトというおまけつき。この名乗りで湧き上がってくるのは感嘆でも期待でもなく恐怖。


 ダークさん、今凄い笑顔してるんだろうな。昼休みになると毎回俺に名乗ってるし、多分こういうの好きなんだろう。


 そんな様々な感情が渦巻く空間に、コツコツと杖の音が鳴り始めた。そして、その音は段々と大きくなる。


 今の名乗りを聞いて、彼女はどんなことを考えただろうか。警察のように恐怖したか、ライトという名前を聞いて腸が煮えくり返っているか。


 それとも……


「初めましてとは呆れたの。おぬしはつい先日の記憶すら保持できんのか?」


「ちゃんと挨拶するのは初めてだったからな。実質今日が初めましてで良いだろ。細かいこと気にしてっと禿げんぞ?」


「安心せい。おぬしというストレスをもってしてもワシを禿げさせることはできんかったのじゃ。その程度ではどうにもならん」


 探偵ハート。彼女が来たことで警察は道を開け、視界が開ける。


 そうだ。どのみち警察がどれだけ居ようが俺達の計画に支障はでない。俺達を相手取れるのはハートさんだけ。


「おぬし、怪盗ライトとか言っておったな」


「……うん、そうだね。俺が怪盗ダークの相棒、怪盗ライトだよ」


「まさかこんなことになるとはの。こうなるくらいならいっそのこと監禁でもしておけば良かった」


「俺は知っているよ。キミが俺にそんなことできないこと」


「そうか? ワシはおぬしの為ならなんでもするオンナじゃぞ?」


「俺のことを一番に考えているから、だよ」


「……そこまで分かっておるなら、ワシについても良いのではないかの……まあ、こうなった以上仕方あるまい。おぬしら覚悟せい。もう容赦はせんからな。特に怪盗ダークおぬしは今日ここで殺す」


「やってみな」


「ふんっ、怖気ついて逃げるなよ!」


 ハートさんが猛スピードで俺達へと迫ってくる。


「ライト」


「了解」


 そんなハートさんの前に立ちはだかったのは俺だった。


「……! 馬鹿め!」


 はっきり言って、俺はハートさんよりも格下だ。だから今日はハートさんに勝つつもりはない。


 ハートさんへと発砲すると俺へと迫るのを中断して避ける。その隙にダークさんはその場を離れて別のお宝を物色しに向かった。


「こやつはワシが捕まえる! おぬしら警察で、ワシが駆け付けるまであやつの動きを妨害するのじゃ!」


 一斉に動き出す警察。


「流石だね。すぐに指示を通すなんて普通高校生ができることじゃないよ」


「普通ではないからの。互いに」


「俺は普通だよ。普通のまま普通じゃない人についていっているだけで」


「まったく……そうやって行動できる時点で普通ではないのだがな……なあ、今なら穏便に済ませられる。ワシに捕まり、ワシのモノになるのじゃ」


「……ハートさんはいつも俺のことを考えているから、これも俺の為を想っての提案だってこと分かるよ。でもね……俺にも譲れないものがあるんだ」


「このお人好しが……ならば、力ずくでおぬしを手に入れるとしよう!」


 気づくとそこに居たハートさんが居なくなっていた。


 ……この衣装のおかげだろう。周囲の気配には敏感になっている。これならダークさんやハートさんみたいに……! 


 俺は脇を通して銃口を背後に向けた。


「やるではないかおぬし!」


 発砲してすぐその場にしゃがむと、俺の頭上では杖が通り過ぎる。


「思ったよりも楽しめそうじゃの!」


 そんな怒号の混じった声を聞きながら、俺は振り返って銃口をハートさんへと向けた。

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