第15話 デート回(仕事中)
ショッピングモールに入り、俺達がまず向かったのは……
「どうじゃ、こんなものも似合うとは思わんか?」
服屋さんだった。
えっ、なんで? 俺達は化け物を探しに来ていたはずだよな? なのになぜこんなところでショッピングなんてしているんだ?
そう思い、ハートさんの方を向くと……白いワンピースを体に合わせ、満面の笑みでこちらを見ている。
「……まあ、似合うと思うよ。ハートさん、小柄で童顔で可愛いし」
「なんじゃ、ワシが子供っぽいと?」
「見た目はちょっと幼いかもね。でも中身は大人だからドキドキする」
「……ククっ、おぬしはワシを喜ばせるのが得意じゃの」
ハートさんは顔を赤くしながらもとても楽しそうに笑い、他の服もいろいろ見始めた。
こうしていると、なんだかデートみたいだな。俺はデートというものをしたこともなければ、恋人だってできたことなかった。だからだろうか。友達相手にこうやって思うのは良くないのかもしれないが、恋人のようで楽しい。
それに、ハートさんは可愛いから。これも役得というもの……
「って、違う違う、そうじゃないよ」
「なんじゃ? この服はダメか?」
「それも似合うと思うけど服じゃなくて……俺達、仕事でここに来てるんでしょ? 遊んでたらダメじゃない? それに……」
周囲を見回すと、どうやら俺達は注目の的になっているようだった。この店には他にも客が居るが、その誰しもが俺達の方を見て話をしている。
「な、なぁ、あれって探偵ハートじゃないか?」
「ホントだ。あっちは昨日居た助手? かな。どうしてこんなところに居るんだろう」
「やっぱりデートか?」
「でも、二人とも探偵の服着てるよ。デートであんな格好はしないだろうし、きっと仕事中だよ」
幸いなのが、俺達の素性がバレていないことだろうか。
このまま注目されたままではやはり調べものもやりにくいというものだろう。特に、俺達が仕事中だとバレるのが痛い。俺達が仕事に来ているということは、周囲はダークさん関連だと思うはず。事件が起こるかもと市民の不安を煽るのは良くない。
「ハートさん、ここは一回店を離れた方が……」
「案ずるな」
その声は、店の中に響き渡った。
とても通る声だ。周囲の人達を、一気にハートさんへと引き込んでいる。
「ワシらはただデートをしておるだけ。仕事などとっくに終えておる」
そう言ったことで、周囲が僅かに覚えていた不安を取り除いてしまった。
ハートさんは凄い。正義の味方として覚えられているのも納得のカリスマだ。
だけど……これによって周囲がさらに沸き立ったのは誤算だったな。恥ずかしい。
「というわけで、おぬしも気にせんで良い」
「これはこれで気にするよ……それに、問題は周囲からの目だけじゃないでしょ」
「化け物についてか。そっちも気にするな。どのみち普通に探しては見つけられん」
「え?」
「今回の相手は多少なりとも知能があるからの。ワシらに限らず、人に見つからんよう徹底しておるはず。こうして店を見て回りながら探そうが、仕事に集中して急いで探そうが、どっちも変わらん。ならば、市民が安心できる方法を取った方が良いというわけじゃ」
「なるほど……やっぱりプロなんだね」
「当然じゃ。というわけで、こっちとこっち、どっちが良い?」
「黒と白……俺的には白の方がハートさんの魅力を引き出せると思うな。黒を着たらそれはそれで新鮮で可愛いとおもうけどね」
「なるほど。ではこっちを選ぶとしよう」
「服買うの?」
「もちろん買わん」
「か、買わないのに選んでたの……?」
「今日は仕事中だからの。紙袋片手に戦闘はできん。またここに来る機会があれば買うさ」
「……じゃあ、その時も一緒に行きたい……かな」
そう呟くと、ハートさんは少しの間硬直していた。
「……そうか……そうかそうか。ならば明日なんてどうじゃ? 休日だということに加えて、仕事がないから今日のように化け物のことを気にしながらではない。きっと楽しくなるぞ」
「あっ、明日はダークさんと約束があるからごめん」
「また貴様か怪盗ダーク!」
頭を抱えるハートさんの代わりに服を戻しておく。
明日遊ぶにしても、どのみち今日中に化け物をなんとかしなければ話にならない。とにかく今は情報を集めなければ。
「ハートさん、次はどこに行く?」
「ん? そうじゃの……ちょうど隣にゲーセンがある。そこで良いじゃろ」
それからハートさんは、俺の耳元に顔を近づけてきた。
「……こういった場所で一番犯人が潜みやすいのはゲーセンじゃ。ゲーセンの裏によく犯人が隠れる」
……一応話は聞いていたが、こうして耳元で囁かれるとドキドキして話どころではなくなってしまった。
「まずはゲーセンの表を調べるぞ。なにか手掛かりがあった瞬間、権力を振りかざして強引に突入する」
「た、探偵ってすげぇ……」
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