第14話 探偵としても動けるんですねこれが

 学校からの帰り道、せっかくなので俺は街を見て回っていた。


 一昨日、昨日といろいろ大変なことがありすぎて疲れている。特に精神的に。こんな時は街を見て好きになれそうなものを見つけ、一人でゆっくりどうでも良い思考に勤しむに限る。


 それにどうせすぐに帰ってもダークさんの相手をするだけなのだ。少しくらい一人の時間を満喫してもバチは当たるまい。


 まあ、昨日はバチが当たりそうなことしかしていないので、その影響が今日出てくるかもしれないが……来るかも分からない不幸に怯えていてはなにもできないというもの。


 というわけで、早速ショッピングモールにでも入ってみよう。


 ……そう思っていたのだが、どうやら神様は許してくれないらしい。


「む? なんじゃ、ひかりではないか。おぬし、どうしてこんなところにおるのじゃ?」


「こ、心ちゃん……」


 これが事件前なら喜んで遊びに誘っただろうが……今日はちょっとキツい。せめて俺の精神状態が元に戻ってから遊びたいところだ。ちょっと気まずいし。


 だが、俺の考えていることとは裏腹に、心ちゃんはこちらへと歩み寄って来た。


「って、あれ? 心ちゃん、どうして探偵衣装なの?」


「今日は休みのはずじゃったが、急遽仕事が入った。それだけじゃ」


「じゃあハートさんって呼んだ方が良いか」


「そうしてくれ」


 それにしても、心ちゃん改めハートさんは意外と冷静だな。てっきり、問答無用で俺を連れて行ってしまうかと思った。今は仕事中みたいだし、仕事に私情は挟まない主義なのかな。


 ……いや、そしたら昨日のアレはどうなるんだ? 衝撃が強すぎて壊れた?


「ちなみにその仕事ってなんなのかは聞いて良いやつ?」


「別におぬしになら構わんが、どうした? ようやくワシに興味を持ってくれたのか?」


「そりゃハートさんには興味あるよ」


「ほう、そうだったのか。気づかなかったな」


 ……なんで後ろ向いたの?


 ハートさんが見ている方を見ても、特におかしなものはない。ではどうして俺に背を向けるんだ?


 気になってハートさんの顔を後ろから覗いてみる。だが、ハートさんは俺に顔を見られないようにしているのかそっぽ向いてしまった。


「ねえハートさん、なんでこっち見てくれないの?」


「知らん。おぬしはワシ相手になるとデリカシーがなくなるのぉ」


「……嫌いになった?」


「なるわけなかろう。ワシだけ特別なのが非常に心地良い」


 ……この人末期だ。


「それはそうと仕事についてだよ。ハートさんの仕事って、ダークさんを捕まえることじゃないの?」


「正確には殺すことじゃが、おおむねそれで間違いない。ただ、ターゲットは怪盗ダークだけではないぞ」


「そうなの? いつも探偵ハートVS怪盗ダークの話題しか聞かないけど」


「そりゃ、人には話せん相手じゃからの」


 俺は思わず首を傾げる。


「知らんのも無理はない。むしろそれで良かったのじゃ。おぬしが怪盗ダークと関わる前までは」


 ハートさんは一つ咳払いをしてから、重々しく答えた。


「ワシが相手にしておるのは、怪盗ダークのような化け物じゃよ」


「それって、怪盗ダークが化け物じみた人間だからってこと?」


「違う。本当にあやつが化け物という人間とは異なる生命体ということじゃ」


「……なにを言ってるの?」


「理解はせんで良い。あやつと関わっておる以上、いつかは理解せんとならん時が来るじゃろうが、ひとまずあやつのことは人間だと思っておれ。じゃが、世の中に化け物という存在がおることも事実」


「……それってなんなの?」


「分からん」


「え?」


「ルルイエのカギと同じじゃ。なにもかも分からん。ただ人間でないから殺しておる。まあ、大抵は怪盗ダークのように知能もないザコじゃがの。じゃから、怪盗ダークはあやつら化け物と同等に扱って良いとも限らん。……本当に、あやつらは一体何者なのじゃろうか」


 ……ちょっと、理解が追い付かない。ハートさんは一体何を言っているのだろうか。


 世の中に俺の知らないものばかりなのは分かっている。ダークさんも一つ。ハートさんだってそうだ。だが、化け物と言われてもやはりピンとこない。アレかな、未確認生命体みたいなものかな。宇宙人みたいな。


「おぬしら、頼むから盗みだけに留めておいてくれよ? 怪盗ダークのような知能があって見た目も人間そっくりな者が殺人まで手を伸ばせば、どれだけの被害が出るか分かったものではない」


「それは俺も、多分ダークさんも大丈夫だよ」


「なら良いが……っと、そうそう。一つおぬしに聞きたいことがあったのじゃ」


「どうしたの?」


「ルルイエのカギはどうした? もう既に売りさばいたなんてことは……」


「ああそれなら、家で適当に置いてあるよ」


「おぬしらはバカなのか?」


「だって、俺からすればあんなのあっても邪魔になるだけだもん。お宝とかあっても壊しそうで逆に怖い。ダークさんも、ルルイエのカギを狙ったというより、とにかくお宝を盗みたかっただけみたいだし」


「これだからコソ泥は……まあ良い。どのみち怪盗ダークの元に置いておくのが一番安全だしな。おぬし、ルルイエのカギにはなにもしないで、ずっと放置しておくことだ。良いな? 怪盗ダークにも伝えておけ」


「……もしかして、アレってなにかマズいやつ?」


「ルルイエのカギが危ないのではない。ルルイエが危ないのだ」


「ルルイエが?」


「情報によると、ルルイエから化け物が出現、街に入り込んでおるとのこと」


「それって……」


「多少の知能を持った化け物がおるということ。ルルイエの中に化け物が大量に存在する可能性が高いということ。一般市民とも遭遇する、遭遇している可能性が高いということ。ヤバい要素を挙げたらキリが無いの」


「そうなると、やっぱりなんとかしないとだよね」


「そうじゃ。ときにおぬし、探偵衣装は持ってきておるか?」


「え? うん。今日返そうと思ってたから」


「返さんで良い。その代わり、ちょっと付き合ってくれんかの」


 それから俺達が向かったのは、当初の目的であるショッピングモールだった。

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