第13話 正直、強引な人は苦手

 結局、今日の昼休みも校舎裏となってしまった……


 なにせ、朝から休み時間になる度に人が寄ってくるのだ。そりゃみんな友達だ。拒みはしない。だが、それでも限度というものがあるだろう。


 特に心ちゃんは酷い。授業が終わって、気づいたら横に居る。俺達そこそこ席離れているはずなのに、探偵ハートとして鍛え上げられただろう身体能力をこんなところで発揮しないでほしい。……衣装着ていないのに、なんであんなに速く動けるか知らない。


 普段昼休みは山田だったり心ちゃんだったりと昼食を取っていたが、しばらくは一人かな。みんなには悪いが、少しくらい一人でゆっくりする時間をもらうとしよう。


「フハハハハ!」


 ……そう思っていたのになぁ。


 どうやら、神様は俺に一人の時間を与えてくれないようだ。


 ため息を吐いて顔を上げると、そこには案の定ダークさんが飛んできていた。


「怪盗ダーク参上! スタっ!」


 自分で効果音つけて、俺の目の前に着地する。


「今日も来たんですか?」


「まあな。テメェがお勉強に勤しんでいる間に、俺は情報を手に入れてきてやったぞ。これは貸し一つじゃすまねぇな?」


「そもそもルルイエについて気になってるのはダークさんじゃないですか。俺は分かっても分からなくてもどっちでも良いです」


「つまんねぇなテメェ。にしてもテメェ、昨日もそうだが、なんでこんなところで飯食ってんだ?」


「教室だと一人になれないので」


「テメェ、学校でも人気者なのかよ。んで、ここで一人になろうとしたところで俺が来たってか」


「そういうことです」


「ふーん……ご愁傷様www」


「ダークさん、その顔今までで一番腹立ちますね」


「ギャハハ! てか、よく見たらまだ飯すら食ってねぇじゃねぇか」


「そうですよ。食べようとしたらダークさんが来て食べるタイミング逃したんです」


「俺は話するだけだし、テメェは食いながらで良いぞ」


「優しそうに聞こえますけど、いきなり来たのそっちですからね? いきなり来て食べながら話するのは失礼とか言ったら心ちゃんの方に寝返ってます」


「いいからさっさと弁当開けろ」


「そんなせかさないでくださいよ」


 俺は弁当箱を膝の上に置いて、蓋を開ける。そして……


『怪盗ダーク参上!』


 中にはそんなカードが入っていた。


「……」


 俺は弁当箱を投げ捨てたい気持ちを必死に抑え、蓋を閉めた。


「ギャハハハハ!」


「ホントにもう、この人は……ダークさん、中身は?」


「ほれ」


 また弁当箱を投げてきたのでキャッチし、俺は弁当を食べ始めた。


 ダークさんはそんな俺の姿に満足したのか、俺の横で壁にもたれる。


「そういえば、心ちゃんは俺達の関係、黙っててくれるそうです」


「ん? ああ、お前が俺とつるんでることか? そりゃ良かったな。これでテメェの家に居候し続けられる」


「それですけど、心ちゃんめっちゃ怒ってたんで、一緒に住むのはどうにかなりません?」


「ならん」


「えー……」


「逆にどうやって家とか買うんだよ」


「そんなの、俺名義で良いじゃないですか」


「うわっ、めんどくせぇ……」


「言うほど面倒じゃないですよね? むしろ面倒なの俺だけですよね?」


「とにかく無理だ。これからもテメェの家、なんならテメェの部屋に住む」


「貸してる部屋にしてくださいよ」


「んで、テメェと一緒に寝る」


「確かに昨日も一昨日も一緒の部屋で寝ましたけど」


「それを探偵に自慢する」


「それ目的ですよね⁉ 今の心ちゃんに言ったら洒落にならないのでホントにやめてくださいよ⁉」


 このまま話していたらダークさんが調子に乗って面倒なことになりかねない。ここは、話題を変えてしまうべきか……


 一つ咳払いしてから口を開く。


「それで、本題は?」


「本題? 家の話だろ?」


「違いますよ。ルルイエについて、情報が手に入ったんでしょ?」


「ああ、それな。すっかり忘れてた」


 この人ホントはルルイエ興味ないんじゃないか?


「それな、正確には手に入りそうって話だ」


「手に入りそう?」


「この近くに博物館あるだろ?」


「そうですね。確か、ダークさんが襲撃した美術館のすぐ近くでしたっけ」


「なんか、ルルイエまでの地図があるらしくてな」


「大当たりじゃないですか。俺達が欲しかった情報そのものですよ」


「だがまあ、そういうのって多分ケースに入ってるだろ?」


「あー確かに」


「そんなわけで、盗んじまおうぜ」


「わー直球。もう少し日をあけません? それに、ガラスのケースに入っているだけなら盗む必要も無いです。写真撮れば良いわけですし」


 そう言うと、ダークさんは少しだけなにか考える素振りを見せてから言った。


「それじゃつまんなくね?」


「じゃあ一人で行ってください。俺は家でゴロゴロしてます」


「そりゃダメだ。テメェもついてこい」


「なんでですか……それじゃあ、まずは写真を撮れるかを確認しますよ。盗むかどうかはその後です」


「にしても確認ねぇ……いつだ? 今日行くか?」


「今日は休ませてください」


「んじゃ今日はゲームしような」


「好きですねぇ。昨晩もずっとやってましたよね。それはそうと、明日ちょうど休みなので、昼に行ってみましょう」


「そして計画立てて夜に入ると」


「あーもうそれで良いです」


 この人、盗むという行為が好きなのか? 予告状なんてものも出しているし、ゲームも好きだし。怪盗として物を盗むのも、この人にとっては娯楽なのかもしれないな。


「そういえば、どうやってルルイエまでの地図のこと調べたんですか? ダークさんって、多分博物館とか行かないでしょ」


「あーそれか? 家に変な手紙入っててな」


 なにそれ怖い。


 それからダークさんに手紙を渡されたので読んでみる。


『博物館に『ルルイエまでの地図』がある。ルルイエに興味があるなら盗め』


「やべぇな」


「ヤバすぎる! これ、俺達の関係もルルイエのことも知ってるヤバい奴が書いたものでしょ⁉ 俺達明らかに狙われてますよ! いつ襲ってくるかも、いつ俺達の居場所を世間にバラされるかも分かりません!」


「そん時はそん時だろ。襲ってきたら俺がぶっとばすし、バレたらどっかに逃げようぜ」


「ダークさんは楽観的過ぎます……!」


「それよりも、とにかく明日博物館に行くってことで良いな?」


「……そうですね。俺もついていきますんで」


「よし決まり! 忘れんなよ!」


 まさか、敵が増えるなんてこと……ないよな?


 俺は不安になりながら、ウインナーにパクついた。

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