第9話 嫉妬ほど怖いものはない

 ダークさんは倒れ、地面へと転がり落ちる。


「……なぜだ……なぜ助けた、ひかりよ」


 ただ、倒れたのは銃で撃たれたからではなく避けたから。ダークさんが不意打ちを喰らいながらも避けられたのは、俺がハートさんへと杖を投げて、ハートさんがそれを避けながら銃を撃ったからである。


 つまり、今この瞬間、俺がダークさん側であることがバレたということ。


「いってぇ……って! ひかり!」


 ダークさんは屋根から落ちたのにも関わらず、すぐに立ち上がって俺へと跳んでくる。


「うわっ! ダークさん⁉」


 それからダークさんは宙を舞っていた俺を抱きかかえて近くの家の屋根に着地した。


「なにぼさっとしてんだバカ!」


「そうは言っても杖投げるだけで精一杯だったんですよ!」


「だったらテメェのこと優先しろや!」


「銃で撃たれそうな人無視するとかできるわけないでしょ!」



「そやつに触るな無礼者が!」



「……⁉ な、なんだあいつ……とりあえず降ろすぞ」


「あっはい」


 この一瞬にいろいろありすぎてちょっとフラつきそうになるものの、なんとか屋根に立ってハートさんへと目を向けた。


 ハートさんは……めっちゃ血走った眼をして怒ってた。俺、こんな心ちゃん初めて見たかもしれない。


 普段の彼女は人に対して怒ることはなく、事件前はイライラしていたが、それも探偵として結果を出せていない焦りからだろう。少なくとも、俺の前ではこれまでずっと、笑顔を見せ続けていた。まあ、そもそも彼女が俺以外の人間とあまり会話をしないから怒りようがないということはあるかもしれないが。


「なんだ……なんでおぬしのようなコソ泥がひかりと一緒におるのだ……」


「なんでって言われても、なぁ?」


「たまたま怪我していたのを手当てしただけですし、成り行きですね」


「また人助けか……そうやって、ひかりは無駄に人と関わる。それで後悔することだってあるのだぞ……」


「確かにそうかもしれないけど、それでも困っている人を見過ごせないよ」


「ならば、そやつはどうなのだ? そやつは始めこそ怪我をしていたかもしれん。だが、今はこうして怪盗なんてことができておるのだ。困っているとは到底思えん」


「それは……」


 否定できない。本来、俺はダークさんと関わるべきでないし、こうして協力するなど言語道断。今すぐにでも警察に行くのが正しい行いというものだろう。


「探偵テメェ、勘違いすんな。こいつを突き合わせてんのは俺の我儘だ。てか、どっかで聞いたが犯罪者と一緒に居たら、その時点でそいつも犯罪者なんだろ? だったら、こいつは俺を助けた時点でゲームオーバー。後は黙っておくか刑務所行くしかねぇ。誰だって刑務所は行きたくないもんだ」


「……そもそも、そもそもおぬしがひかりと関わらなければ良かった話だ。それでも関わりたいのなら、それ相応の配慮はするべきだろう。こっちはできる限りひかりに迷惑かけぬよう、普通の女子として関わってきた。本性も隠してきた。本職も隠してきた。じゃが、おぬしはなんだ? 怪盗ダークとしてひかりに関わり、犯罪の片棒すら背負わせるじゃと? ふざけるな。ひかりはおぬしの道具ではない。誰かに利用されて良い人間ではない……」


 ……心ちゃん……そんなにも、俺のことを気遣ってくれていたのか……


「なんだテメェ、結構重いな。いや、意外でもねぇか。テメェ、こいつ意外に誰も話しかけてくれなさそうだもんな」


「ちょっとダークさん、その罵倒いらないでしょ。今は逃げることだけを……」


「ひかり以外の人間などいらんわ」


「そうはならなくない?」


「あーあ、残念だったな。テメェ、これからボッチ生活だぜ?」


「ッッ! なにを言うか貴様! ワシにはひかりがおる! 逆に貴様は、ひかりのなんなのだ!」


 その時、俺はダークさんに肩を抱き寄せられた。


 ダークさんは背が高いので、俺の体がすっぽりとハマった感じがする。


「き、貴様! なにをしておる!」


「こいつのなんなのか、教えてやるよ」


 え、なんだっけ……?


「俺はこいつの、相棒だ」


「き、きき、貴様……ふざけるのも大概にせんか……ひかりは……ひかりは、ワシの相棒じゃああ‼」


「えっ……え?」


 こちらへと跳んでくるハートさん。


「逃げるぞひかり!」


「え?」


 めっちゃ笑顔で走り去るダークさん。


「ちょっとこれどういう状況なんですかぁ⁉」


 俺はただ、理解できない状況に戸惑いながらダークさんを追い駆けることしかできなかった。

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