第8話 変わり身
この衣装は想像の何倍も優秀だった。普通なら一瞬で距離を離されるだろうに、全力疾走しなくてもダークさんと並んで走れている。
そして、並んでいるからこそ、ダークさんが俺をすんごい怪訝そうな目で見ているのが分かってしまった。
「……なんでテメェ、探偵になってんだ?」
「は、ハートさんに捕まったんです……」
「捕まっただぁ?」
「あー待ってください。そんな怒らないでください」
「別にテメェにイラついてるわけじゃねぇよ。俺がイラついてんのは探偵に対してだ」
「探偵に? なんでです?」
「んなもん、俺の舎弟を勝手に使われたからに決まってんだろ」
「舎弟じゃないです」
「ったく……お前、変な奴に手出しすぎじゃねぇか? んなことしてたら、いつか痛い目見るぞ」
「変な奴って自覚してたんですね」
「おいコラしばくぞ」
そんなことを話していると、ダークさんの表情は怒っているようなものから、安心したようなものへと変わった。
「ダークさん、どうかしました?」
「あ? どうかしてんのはテメェだろ」
「ナチュラルに貶してきました? そうじゃなくて、なんか安心してません?」
「安心? ……まあ、そうだな。俺はてっきり、テメェが探偵側についたと思ったからな。テメェの行動次第で俺は刑務所行きだったろうよ。だが、今のテメェを見る限り、そんなつもりはなさそうだって思ってな」
「そうですね。少なくとも、自分から自首しに行こうとか、ダークさんを売ろうとか、そんなつもりは無いです」
「そんなんだから、探偵もお前を引き入れようとしたんだろうな」
「え?」
「なんでもねぇよ。それより、もう少しで外出るぞ」
「あっ、そうですね」
そういえば、これからダークさんはどうするんだろう。俺はてっきりあの部屋で全て終わると思っていたので、これだけの時間一緒に居ることになるとは思ってなかった。ましてや、外に出てからのことなんてなにも考えていない。
「とりあえず、俺が適当にダークさんを止めているフリするつもりだったんですよね。実際こうして追いかけているわけですし」
「んで、テメェがやられたことにして俺は見事に逃亡成功か。それなら心配すべきは探偵だけ……って、探偵はどこいった?」
「多分俺達を追い駆けているんじゃないですか? ハートさんも銃持ってましたし、後方からダークさんを追い詰めるみたいな……」
振り返ると、なぜかそこには誰も居なかった。
警察が居ないのは分かる。俺達に追いつけるはずがないのだから。しかし、ハートさんは別だ。そもそもハートさんが居なければ、対怪盗ダーク戦は話にならないだろう。
一体どこに行ったのか……
「これは、テメェを振り切ったとしても、どっかで探偵が狙ってるって感じだな。それなら、いっそのことテメェも俺が逃げ切るまでついてこい」
「え? それって大丈夫なんですか?」
「テメェ一人で状況が変わるなんて、俺も探偵も思っちゃいねぇ。このまま家帰って、テメェは探偵とも俺ともはぐれたってことにすれば良いだろ」
「ああ、なるほど」
「んじゃ、ちゃんとついてこいよ」
そう言った瞬間、ダークさんは玄関を蹴破って外に出た。
外は観客でいっぱい。報道陣もこちらにカメラを向けている。ここで下手なことをすれば、俺達が協力関係であることがすぐにバレてしまうことだろう。
それはダークさんも分かっているのか、外に出た瞬間、高く跳躍して向かいの家の屋根に着地する。
そして、こちらを向いてニヤリと口元を歪ませた。
おそらく、この笑みを『勝利を確信したもの』だと思うだろう。だが、実際にところは……
『ついてこれるか?』
まあ、こんな感じだろうな。ダークさん、俺のことバカにして楽しんでそうだし。
正直俺があんな高いところまで跳べるイメージはつかないが、衣装だって着ている。
ヤケクソで思い切りジャンプして……
「おおっ? おおおおおおおお!」
「ギャハハハハ!」
めっちゃ高いところまで跳んだ。
空中で崩れた体勢をなんとか直し、屋根に着地。ダークさんが走り去るので追いかけた。
屋根をつたい、俺の家の方向へと真っ直ぐ走る。
「ここまでこれば、報道陣も追いかけてこれねぇな!」
「ちょっ、ヤバっ、自分で走ってるのに速くて怖い!」
「地面も屋根も変わんねぇよ! ……なあ、どうだよ。俺の怪盗っぷり見てさ」
「あーそれですか? やっぱ本物なんだなぁって」
「なんだ、そんだけか?」
「だって、あんな一瞬でしたもん。お宝盗んでこうして逃げて……ただダークさんが凄いってことしか分かりません」
「なんだよ、つまんねぇな」
「ただまあ、こうして屋根の上走ってるのは楽しいです。ダークさんはやっぱり特別で、俺もそれに混ざれた感じして結構好きです。俺って、基本普通の高校生だったので」
「……テメェが普通なわけあるかよ」
「え?」
「なんでもねぇ! それより、そんなに楽しいならもう少し遊んでかねぇか?」
「遊ぶ?」
「ほら、テメェ杖持ってんじゃねぇか」
この杖がどうかしたのだろうか。これはあくまで堅いだけの杖なはずだが。
「武器があるってことは、戦う前提だったんだろ?」
「……あっ、まさか……」
「俺ももうちょっとテメェを驚かせたいしな。こんなのも一興ってやつじゃねぇ……か!」
瞬間、前に居たダークさんは立ち止って振り返り、俺へと銃を撃ってきた。
「ちょっ⁉」
屋根故に足場が狭い。避けたはずみで落ちかけて、なんとかジャンプして隣の家の屋根に飛び移る。
「やっぱさ、こういうことした方が俺の凄さってのが分かると思うんだわ」
「だからっていきなりすぎますよ!」
「安心しろ。終わったら俺が家まで運んでやる」
「それ俺動けなくなってますよね⁉」
今度はこちらへと飛んできて、空中で俺の頭目掛けて蹴る。
俺はそれをなんとか杖で防ぎ、ダークさんを弾いた。
「よく見とけよ。俺は普段、こうやって探偵と戦ってんだ」
俺へと迫り、連続して蹴りを入れてくる。
俺はただ、それを杖で防ぐことしかできなかった。
「ホント、意味分からん! こんな動き、人間がして良いやつじゃないでしょ!」
「だが実際できてるし、探偵だって同じことしてる。できねぇのはテメェだけだぜ」
「俺が普通ですから!」
「そもそもおぬしは人間ではない」
「……え?」
気づいた時には、俺は空中に居た。
おそらく投げられたのだろう。
俺が居た場所にはハートさんが居て、ダークさんへと銃を突き付けている。
ダークさんも俺が居たことでハートさんの存在に気が付かなかったらしい。
大きな発砲音が鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます