第7話 さて、逃げながら謝るとするか

 十八時五十分。


 怪盗ダークがルルイエのカギを盗むまで、残り十分。


 ルルイエのカギの周りは警察に囲まれ、俺達はその近くで待機。


「私達の仕事は怪盗ダークを捕まえることだ。ルルイエのカギを守ることではない」


「守ろうとしても無理なんだっけ」


「そうだ。この場の者は皆、ルルイエのカギを盗られる前提で動いておる。宝の所有者である、藤堂家を含めてな」


「だから俺達はダークさんに集中する」


「極端な話、ルルイエのカギについては見ておらんでも良い。どこに怪盗ダークが現れるかだけに神経を注げ」


 そして、ダークさんが現れたら遠慮なく攻撃……こんなやり方、現代日本でもあるものなんだな。まあ、ダークさんによる被害総額は三千万円。ダークさんを捕まえられるなら、多少強引でも目を瞑るというものか。


 ただ、俺がそういうことできる立場なのかと聞かれたら返答に困る……


「とはいえ、おぬしは初仕事だ。おぬしに成果を期待するのも酷と言うもの。おぬしはただ突っ込めば良い。きっと、怪盗ダークもおぬしの驚異的な身体能力に驚くことだろう。その隙に私があやつを捕まえる」


 俺はダークさんやハートさんほど運動が得意と言うわけではないが……驚くべきことに、ハートさんは特殊な服を用意してきた。


 現在着ているのはハートさんと同じ探偵衣装なのだが、この衣装、人の身体能力を倍以上にするという効果があるらしい。こんなものどうやって作ったのか……ハートさんはいつか教えると言っていたが、ちょっと怖い。


 と言っても、この衣装を着ていても尚、ダークさんを捕まえられていないのが現状だが。


「ひかり、その衣装には慣れたか?」


「うん、一応ね。でも、これだけじゃやっぱり不安だな。ダークさんってこの衣装来てないのに化け物じみた身体能力してるんでしょ?」


「そうだな。私もあやつの秘密について調べてはいるが、あやつの本名すら分からん。はっきり言って人間とは別の何かだと思っておいた方が良いだろう。毎回あやつに怪我を負わせても文句を言われないのは、世間すら人間ではないと認識しているからだろうな」


「ダークさんってなんなんだろう……」


 まあ、そういうことなら思ったよりも気にする必要はなさそうだ。もしかして捕まるんじゃないかと思っていたが、今日は俺みたいな初心者が参戦している。ハートさんの足を引っ張るだろうし、ダークさんなら余裕で逃げられるはず。


「それと、これを持っておけ」


「なにこれ?」


 手渡されたのは杖。ハートさんはこの杖は使わないのだろうか。


「それは多分絶対に折れない杖だ。それを剣代わりに怪盗ダークと戦うと良い。なに、あやつは人間をやめておるでな、それで殴打しようが怪我なんぞせん。安心して殴れ」


「めちゃ物騒じゃん。」


 だが、俺が前衛に立って戦うことになるのは好都合だ。ダークさんには俺という隙を突いて逃げてもらおう。そして、ダークさんが逃げるのを手助けすることで、俺が探偵側についたのは許してもらおう。


「そういえば、ハートさんはどうやって戦うの?」


 そう問いかけると、ハートさんはとてもニヤニヤとしながら懐からなにかを取り出した。


「……それって……」


 それは黒い銃だった。造形はダークさんのものと瓜二つで、対になっているのかと思わせる。


「詳しいことは戦ってみれば分かる。安心せい。怪盗ダークは私が必ず捕まえる。おぬしはどーんと構えておれば良い」


 そう言うハートさんはとても頼もしかった。頼もしいからこそ、不安になった。


 しかし、その不安を拭っている暇はない。ダークさんが来るまでもうすぐだ。


「そろそろ時間だな……皆、ここで終わらせるぞ!」


 ハートさんが鼓舞すると同時に照明が全て割れる。


「ルルイエのカギを守れ!」


 警察の叫び。


 ハートさんはすぐさまなにかを地面に叩きつけると、一気に明かりが広がった。


「あやつはどこだ!」


「なんだ、俺のことか?」


 ルルイエのカギへと体は向いていたが、俺達は勢いよく振り返る。


 そこには、ルルイエのカギを持ったダークさんが扉を開けていた。


「ひかり!」


 ダークさんへと駆け出し、思い切り杖を振り下ろす。


 ダークさんは余裕そうにそれを避け、廊下を駆ける。


 俺もそんなダークさんを追うべく駆け出した。

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