第6話 誰とも関わらないから、顔見ても誰も気づかない
藤堂家に着くと、周りは多くの人でいっぱいになっていた。
警察、マスコミ、そして見物人。
もはや、俺達が入る隙間なんて無い。
俺は一緒に来た友人、山田へと顔を向ける……が、残念ながら山田は既に諦めたような表情をしていた。
「こりゃダメだな。絶対入れん。もう諦めてファミレス行こうぜ」
「ここまで来たのに? 時間とお金かけて来た結果、行くのがファミレスとか流石に嫌だよ」
というか、ここで帰ったらダークさんに怒られそう。
それはそうと、ダークさんはどこでなにをしているのだろうか。もしかして、既に近くに隠れているのか?
ダークさんが誘ってきたんだし、どうにかしてくれないものかなぁ……
「おい、人が邪魔だ! さっさと通せ!」
ふと、どこからか聞き馴染みのある声が聞こえて来た。
そちらへと向くと、そこだけ人だかりが無くなっている。そして、できた道を一人歩いているのは……
「探偵ハート……?」
探偵のイメージぴったりな、いかにもな服装をした女性。見た感じ若そうだが、杖を持っているのは、なにか道具のカモフラージュだろうか。
「二日連続で予告状を出すとは、あやつはなにを考えておるのか。せっかくデートしたかったというのに……ああいや、断られたんだった」
デート? この姿からは予想もしていなかった言葉が出てきたな。
しかしなんだろう……どこか既視感を覚えている俺が居る。
「おお! 探偵ハートだ! 初めて見た!」
その既視感も、隣に居る山田がうるさいので消えてしまった。
「見たこと無かったの?」
「当たり前だ! 俺だって事件現場に来たのは初めてだからな!」
そうなんだ。てっきりダークさんかハートさんのオタクかと思ってた。
「探偵ハート! こっち見てくれ!」
山田が叫ぶと、その周りの観客も次々に騒ぎ出す。
「探偵ハート! 今日こそ捕まえてくれよ!」
「探偵ハート! まだ時間あるんだからファンサしてくれよ!」
ハートさんってアイドルかなにかなのか?
「うるさいわ! 事件前に騒ぐでない! ……って、おぬしは……」
事件前でイライラしていたのだろう。沸き立つ観客にブチ切れながらこちらを向くハートさん。
だが……
「そ、その顔は……」
ハートさんは……いや、ハートさんと俺は、同時に固まった。
「ん? どうしたんだ? なにか見つけたのか?」
なんで山田は気づかないのだろう。こんなもの、俺達にとっては大ニュース以外の何者でもないだろうに。
ハートさんはこちらへと歩み寄って来る。
「おっ‼ こっち来た!」
そうだ。だが沸いているところ悪いが、話しかけたい相手は山田でも他の観客でもない。
「探偵ハート、握手を……って、え?」
山田が驚いたこと。それは……
「なんでひかりの手を取ってるんだ……?」
俺の手を取って、連れ出したから。
藤堂家の中へと連れて行かれる中、俺は何を聞くべきか悩んでいた。
「えっと、心ちゃん……?」
「本名で言うな。今は探偵ハートだ」
「じゃあハートさん。なんで俺を家の中まで連れてきたの?」
「一つ、正体がバレた以上、言いふらされても面倒だし、放置する気にはなれんかった。二つ、正体がバレた以上、いっそのこと協力させて、疎遠にならないようにした」
「疎遠?」
「だってそうだろう? 私が特別な存在だと知ったら、人なんて簡単に離れていく。或いは弱みを握ったり権力を利用したり、なんてこともあるかもしれん。そしておぬしは、人を利用するという選択肢を思いつかないだろうから、必然的に離れていくことになるだろう」
「それで、仲間にして俺を自分と同じ特別な存在にしようって?」
「そうだ。幸い、おぬしは頭が良い。助手としては悪くない」
助手と言ってもできることなんてなにもないけど……
それに、どちらかというと俺ってダークさん寄りになってそうだし、ハートさんに協力しているところ見られたらめちゃ気まずい。
「ざっと今日の仕事を説明するぞ」
「あっはい」
「今日はこの屋敷の中心で公開されている『ルルイエのカギ』を守るのが一つ、怪盗ダークを捕まえるのが一つという、二つの目標を達成するのが仕事だ」
「難しいね」
「そうでもない。結局は怪盗ダークを捕まえればルルイエのカギも守れるわけだからな」
「そういえば、ルルイエのカギってなんなの?」
「宝石だ。名前の由来やらなんやらは知らんがな」
ということは、ダークさんは宝石を盗むのか。初めはどんなマニアックな物かと思ったけど、案外王道だな。
……って、いけない。ダークさんが目標を達成する前提で居た。いろいろ後で怒られるにしても、俺がやるべきことは本来、ダークさんを止めることだ。そう考えると、今のハートさんに協力しようという状態の方が正しい。
そんなことを考えている内に、屋敷の中心。つまりルルイエのカギがあるところまでやってきた。
「これがルルイエのカギだな」
「……凄いね」
それはまるで、ダイヤモンドのようだった。
「形はダイヤモンドのようだが、実際は別物。ただどれだけ調べてもなんの鉱石か分からんと言う。質屋に持って行っても金にはならんが、それでも貴重には変わりあるまい。ああだが、マニア向けのオークションに出せば高く売れるかもな」
「そんなのめんどくさいよ。表には出せないんでしょ?」
「同感だ。裏オークションなんて行ったところで反吐が出るだけだ。そんな気分が悪くなる場所に行かせないよう、我々でなんとかせねばな。……さて」
ハートさんはなぜかこの部屋から出ようとした。
「時間まで猶予がある。飯にしよう」
「分かった。どこに行こうか。ファミレス?」
「飯自体は警察が用意している。ただの弁当だが、構わんか?」
「全然大丈夫」
「それじゃあ、飯を食いながら作戦会議だ」
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