第3話 心ちゃんは幼馴染

 ダークさんと出会って一晩が経ち、俺は学校へと来ていた。


 ちなみに、ダークさんは戸籍がないらしく当然学校も行っていないので別行動だ。ダークさん曰く、俺が帰る頃にはダークさんも帰って来るらしい。


 それにしても、昨日は本当に疲れた。ダークさんを家に泊める為に両親を説得したり、寝ようとしたらダークさんがちょっかいかけてきたり……


 ダークさん、初めは警戒心高めだったのに、俺に正体バラした途端元気になるんだからなぁ。両親には借りてきた猫みたいになってたけど。


「昨日は大変だったようだな」


「ホント、ホームレスがいきなりうちに住み着くものだからって心ちゃん⁉」


 事情を知っているみたいに話しかけてきたものだから、つい話してしまいそうになった。


 顔を上げてそちらを向くと、心ちゃんはおもちゃを見つけたかのようにニヤニヤとしている。


「ほう……朝から机に突っ伏している故、なにかあったのかと思っただけなのだが……ホームレスとはな」


「ち、違うよ! これはその……ゲームの話!」


「なんだ、そんなに否定せんでもよかろう。それとも、人に聞かれるとマズい話なのか?」


「それは……」


 マズいに決まっている。巷を騒がせている怪盗ダークがうちに住んでいるなんて、バレたら俺もダークさんも刑務所行きだ。


 そして、心ちゃんは人の心を見透かせるくらい頭が良いので、いつダークさんのことがバレるか分かったものではない。


「なあひかりよ。私がおぬしにとって不利益なことしたことがあるか? 私にくらい話しても良かろう」


「いや、ホントに、困るようなことは何も無かったから。またなにかあったら、その時は相談するよ」


「そうか……分かった。深くは詮索するまい」


 そう言って引き下がる心ちゃんの表情は、ちょっと暗い気がした。なんだか悪いことをしたな……


 ……いや、それだけじゃないように見える。


 なんだろう……暗いのは確かなのだが……


「心ちゃん」


「どうした?」


「もしかして、心ちゃんもなにかあった?」


 そう聞くと、心ちゃんは意外そうな表情をしながら黙り込んで……笑った。


 え、なんで? そんなに面白いこと言ったかな。


「お前は人のことになると本当に……そうだな。ちょっとミスをしたというだけだ」


「ミスって、前に言ってた仕事のこと?」


「そうだ。まあ、このミスもいつものことなのだがな」


「その仕事がなにか未だに教えてもらってないけど……そんなに大変なの?」


「それはもう。特に批判が面倒だ。私とて全力を尽くしたのだ。それダメならどうしようもなかろう。それなのに失敗しただの責務を果たせだの……なにもせんクセに騒ぎおって、耳障りと言ったらありゃしない」


 ……そういうことなら、俺の方こそ心ちゃんの力になりたいところなんだが……


「その仕事、なにか教えてくれたりしない?」


「しない。教えたら、このままの関係では居られないような気がする」


「このまま……?」


「いや、なんでもない。それはそうと、今日の放課後は暇か? どうせならどこか遊びに行こう。私はちょうど気分転換をしたかったのだ」


「いいね。……って、そういえばダメだった」


「なんでだ?」


「家の事情でしばらくは早く帰らないといけないからさ」


 ダークさんをほったらかして遊びに行くのは少々気が引けるし、なにするか分からないからちゃんと見ていないと。


「そうか。それは残念だったな……ならせめて、世間話くらいには付き合ってもらおう」


「世間話?」


「ああ。……おぬし、怪盗ダークは知っておるか?」


 知ってます。一緒に住んでます。


「……知らないけど、その人って誰?」


 これはアカデミー賞ものだな。心ちゃんの方を見ても、なにかに気づいた様子はまったく見られないし。


「最近有名なコソ泥だ。昨日もあやつのせいで仕事に影響出まくってな」


「あっ、ふーん……」


 てことはアレか。俺は友達に迷惑かけた人を助けてしまったわけか……バレたら殺されそう。


「私は昨日、美術館で仕事をしておってな」


「美術館?」


「ここから一番近いところのアレだ。そして、その美術館に予告状が来たという。私が仕事の日にちょうど重なってだ」


「ダークさんって予告状とか出すんだ」


「ダークさんとは、随分フランクじゃの。ファンですらそんな呼び方せんだろ」


「そ、そんなことないよー……ほら、探偵さんのこともハートさんって呼んでるし」


 ホントは名前すら出したこと無いけど。


「……! そ、そうか……というか知っておったのか」


「え? うん。たまたまテレビで見た」


「その時に顔とかは見たか……?」


「あー……そういえば見てなかったかも。どんな人なの?」


「し、知らんでいい! おぬしはこの先、探偵ハートについて一切調べるな!」


「え、なんで?」


「なんでもだ!」


 ふむ。確か昨日の事件ではダークさんに加えてハートさんも来ていたとのことだ。それでダークさんと争っただろうハートさんのことも苦手なのかもしれないな。

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