9.人間は相談する
どうやって、風斗を誤魔化すか。
そもそも風斗は何を疑っているのだろう。悪魔に狙われているとか、常人の思考なら思い当たらない。だとするならそれ以外……。といっても隠し事は全てその事実に繋がる。そこが起点だから。
人間らしい考え方をしてみよう。あの事件以降変わったことといえば、家に帰るのが遅くなった。
帰りが遅くなった姉。放課後に何かしているのは確定だ。それが危ないことかもしれない。だから心配して尋ねた。という流れが妥当かもだ。
つまり放課後に後をつけられる可能性がある。それはダメだ。放課後に行っているのは、森の奥の洋館で男女四人で魔法の練習。至って普通……ではないが、何も恥たりすることはない。しかし森の奥の洋館の時点で、もう普通に考えて怖い。誰も知らない森の奥の洋館は、どう考えてもホラー小説か何かの舞台だ。
頭もよく冷静で、一般常識的な人間である弟の行動は簡単にわかる。地図で場所を検索。きっと引っかからないから通報の流れだ。
そうはならずに、魔法の練習をしている所がバレたとしよう。なぜそんなことをしているかを説明しなくてはいけなくなる。
……これはユキに相談しよう。今すぐに。
連絡するにしても、手段はどうしよう。魔法の練習を兼ねて使ってみるか。普通にスマホで連絡するか。
魔法は緊急時用だと言っていた。余計な心配をかけるかもしれない。スマホで連絡しよう。
会話形式の連絡アプリの、電話機能のボタンをタップする。数回のコールの後に繋がった。
「どうかしたのか」
「えーと、いろいろあって……」
私は先程の風斗との会話。そこからの私の推測を話す。
「……わかった。明日以降は対策を講じるか」
「うん。お願い」
「あぁ、任せろ」
というユキの言葉を信じ、迎えた放課後。
私のクラスに来たのはルナねぇ一人だった。
「行きましょう、四織」
「二人は来てないの?」
「……風斗くんのこと、悪魔に相談したわよね。普段は目立たないように、魔法をかけているけれど。風斗くんもそれなりの魔力を持っているから、魔法を見破られる可能性があるの。その時に男二人がそばに居るのは怪しいだろうって」
私のこと真剣に考えてくれていたみたいだ。
たしかに同級生ならともかく先輩二人、しかもかなりの美形。これは怪しい匂いがする。ユキは多分家にいるのだろう。
ユキの家の方角に拝んでおく。ありがとうユキ。
どこか不機嫌そうというか、拗ねている様子のルナねぇとユキの家への道を歩く。
時々後ろを確認するが、人の気配はない。魔法を使っているのだろうか。森に入り、ルナねぇと他愛もない話をしながら、ただ前へ進む。
すんなりと見慣れた屋敷にたどり着く。後ろを確認。弟がいる様子はない。
「上手くいったか」
門の前で待っていたらしいユキ。ルナねぇは余裕そうな頬笑みを浮かべた。
「えぇ。私と四織は仲がいい。だから違和感を感じにくかったでしょうね。この森にかけられた魔法は強力、彼には破れないでしょうし」
「しばらくは、何とかなるか。その間に最低限――毎日練習する必要がない程度には、魔法を扱えるようにするぞ」
そのレベルに達するのはどのくらい先だろう。少なくとも私は攻撃魔法などは現在全く知らない。これはやっぱり先が長いな。
でも頑張らなくては、自分の命のために。そして弟を危険に巻き込まないために。
「今日もよろしくね!」
元気なあいさつに、目の前の二人は同時に笑う。どうして笑ったのかわから無い。けど楽しそうだしいいか。
私は先に家に入っていくのだった。
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