3.人間は決意する

 私の言葉にこの場の全員が息を飲む。少しの間の後、一番最初に言葉を発したのは白の天使の片割れ。


「な、四織!考え直しなさい。私とリクが守るって言ったでしょう」


 怒るかなとは思ったけど、想像以上の怒り具合だった。私は冷静に、自分の考えを伝えようと口を開く。


「私の魔力量……って多いってことは、魔法を使えるんでしょ。それなら私は、自分のことぐらい自分で守りたい。それに四六時中、ルナねぇたちに側にいてもらう訳にはいかないよ」

「私は四織と、ずっと一緒にいても困らないわよ」

「授業中とかは無理だよ」

「同じクラスになれば、問題ないかしら」


 冗談のように聞こえる言葉だが、声が本気だ。一体どうやって……魔法で?そんなことできるのかな。できるから言ってるんだろうな。


「過保護が過ぎるぞ」


 助け舟を出したのは思わぬ悪魔。吐き捨てるような冷たい言葉に、ルナねぇは睨みで返す。


「ルナ、彼は正論」

「リクまで……」


 初弥ユキは二人のやり取りが耳に入っていないかのように、真剣な氷の瞳を私に向ける。


「どうして俺に頼んだ」

「何となく。頼まれてくれるかなって」


 ルナねぇは反対するだろうし、リク先輩は受けてくれない気がした。 でもその考えを口にするのははばかられて、何となくと誤魔化す。


「タダで教えると思っているのか」

「もちろん、思ってないよ。初弥先輩が欲しいのは私だろうけど、私はあげられない。……それでも一緒にいるうちに、初弥先輩と魔界に行きたいって私が思うかもしれない」


 余裕を感じさせるように、口元には笑みを。視線は真っ直ぐ、そらさない。堂々と言って見せる。


 初弥ユキの表情は読み取れないが、おそらく機嫌は悪くないと思う。ゆっくりと口元が動き、それは弧を描く。


「いいだろう。ただし条件がひとつある」

「無理難題でなければ」

「悪魔には性がない。だから名前で呼べ。……先輩もいらない」


 意外な条件に事実だった。でも難しくない。いつも通りの私でいいってことだ。


「ありがとう、ユキ」


 ユキは少し悲しそうに瞳を揺らす。どうしてかは分からない。その姿を見て、記憶の奥の何かがコトンと音を立てた気がした。


「……わかったわ」

 成り行きを見守っていたルナねぇが、ため息混じりに呟く。説得は不可能だと悟ってくれたみたいだ。


「でも私は悪魔を信用してない。だから同席させてもらうし、一緒に指導もする。……魔法はあれだけど、魔力の使い方なら教えられるもの。リクもそれでいいでしょう」


 リク先輩は視線をさ迷わせてから「わかった」と頷く。その動作と、ルナねぇの言葉に違和感のようなものを覚えたが、気のせいだと首を振った。


「四織。最初に言っておく」

「なに?」

「指導を引き受けたからには、手は抜かない。よく覚えておくがいい」


 その言葉と表情。真冬の冷たい風を思い起こさせるそれに、私は身震いした。

 もう少し、考えてから頼めばよかったかもしれない。そんな弱音を心の奥底に押し込めて、さっきと同じように自信満々に笑って見せた。

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