第5話
こんなに食べたら、誰だって胃もたれになる。
呆れたが、らら子さんは大真面目だ。
「みなとみらいの駅に着いてから、スーツケースを転がしつつ買ったもんですから、それだけしか持てなくて」
これだけ買えばじゅうぶんだろう。
かをりのレーズンサンドに、えの木ていのクッキー、モンテローザの三塔物語スティックケーキと、隆之介も食べたことのあるありあけの横浜ハーバーのマロンケーキ。
横浜土産として有名どころだ。
らら子さんがあらかじめ作成したスイーツリストとほぼ同じ。
「で、決まりましたか、ののかさんへのお土産は」
うらめしそうな目で、らら子さんは首を振った。
「どれもおいしかったんですけど」
「だったら、この中で、らら子さんのいちばんのおすすめを持って帰れば」
「だめです。どれがしあわせになれるか、よくわからないんです」
「おいしいと思ったなら、それがしあわせってことですよ」
「そんな。だって、どれをよりおいしく感じるかは、わたしの好みの問題じゃありませんか」
それはそうだが。
「かをりのレーズンサンドは、クリームが滑らかだし、ブランデーに漬け込まれたレーズンがあっさりしてて食べやすくて。反対に、えの木ていのクッキーは濃厚なんだけど上品な味。三塔物語スティックケーキは、ちょうどいい大きさで、もうちょっと食べたくなる楽しさがあるし、ありあけのハーバーは、マロンの味がもっちりしてて誰でも好きな味でーー」
「わ、わかりました」
「でも、二個、三個と食べてくうちに、余計わからなくなってしまって。どれが、しあわせになれるのか」
言いながら、両手で胃のあたりを抑えている。
「らら子さん!」
思わず両手をらら子さんの顔の前に出し、ストップをかけた。
「今は、スイーツのことはいいです。それより、横になって、胃を休めてください」
「もしよかったら」
ストンとベッドの上に腰を落とし、らら子さんは隆之介を見上げた。
「先生も食べてみてください」
「いや、僕はいいですよ」
らら子さんの肩に手を添えて、横にならせた。ざっと見た限りでは、胃のほかに具合の悪そうなところはなかった。裾の長いスカートから覗く足首もむくんではいない。
「すみません、ほんとに」
毛布を掛けると、らら子さんはそう言って唇を噛みながら、目を閉じた。
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