第4話

 品川へ出て東海道線に乗ろうとも思ったが、泉岳寺から京浜急行で向かうのがいちばん早いという乗換アプリに従う。


 予測通りに横浜駅に到着し、みなとみらい線に乗り換えて、石川町駅に向かった。   

 そこからはホテルまで歩く。


 横浜の街も、東京に負けないほどクリスマスの飾りで溢れていた。いや、東京よりも、季節の色が濃いかもしれない。

 道行く人誰もが、観光客に見えた。実際、ほとんどの人が観光客なのだろう。外国人の顔も多い。地元の麻布十番でも外国人をよく見かけるが、ここのほうがどの顔ものんびりとして見える。

 

 中華街を背に港側へ向かうと、大きな船が見えてきた。山下公園に停泊している氷川丸だ。

 ビルの先、街路樹の合間に見えた船を見た途端、懐かしい思い出が蘇った。山下公園へは、大人になってから何度も訪れている。いちばん近いところでは、四年ほど前、スタッフみんなでやって来た。


 今、隆之介の胸に蘇ってきたのは、子供の頃、両親と訪れたときのことだった。自分の後ろをゆったりと歩く父と母。あの頃、二人はまだ仲がよかった。

 ちょっと切ない気持ちに浸っていると、ホテルに着いた。


「あ」


 隆之介は思わず立ち止まって、優雅なたたずまいの建物を見上げる。

「やべ。何号室か聞いてないや」

 スマホを取り出し、らら子さんを呼んだ。

 何回目かのコール音のあと、スマホ越しにくぐもった声が届く。

 どうやら、隆之介の指図どおり、眠っていたようだ。



 女性が一人で過ごしているホテルの部屋を訪ねること。それがどんな意味があるのか、隆之介は部屋のドアを前に初めて思い至った。

 急激に心拍数が上がってくる。といって、目の前まで来て引き返すわけにはいかない。何より、らら子さんの具合が心配だ。

 思い切ってノックすると、ドアはゆっくりと開いた。

「……ごめんなさい」

「だいじょうぶですか」

 顔色は悪くなかった。思っていたよりは、ずっと具合は良さそうだ。

「薬は飲みましたか」

「ええ。胃薬を」

 隆之介も、診療室の救急箱から、適当な胃薬を持ってきていた。

「もし、飲んでるやつで効かなかったら、これを」

 差し出すと、らら子さんは頭を下げてから、ぶるっと震えた。

「寒いから、中へ」

 らら子さんに警戒心はなさそうだった。それがちょっと悔しい。

 

 部屋は海に面していた。窓からは山下公園の木立と海が見える。

 部屋の中は片付いていた。

 チェックインしたばかりだろうから当然だろうが、らら子さんだからとも言える。 

 横になっていたはずなのに、ベッドも乱れていなかった。窓際の椅子の横に、定規で測ったかのように壁に直角に小型のスーツケースが置かれている。

 ただ、椅子の前にあるテーブルの上には、封をとかれたばかりらしきスイーツの箱は積まれていた。四箱はあるだろうか。

 包装紙が畳まれて、結ばれていたリボンも丁寧に丸められているのがらら子さんらしい。


「これ、全種類、食べてみたんですか」


 一種類につき、二、三個食べたみたいだ。


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