第2話
「俺は別に外食じゃなくてもいいで」って言うけど「あほか」って一蹴されて。でも母さんの「滑り止めの受験料で貯金切り崩したんや。食費に回し手られる余裕なんかあるわけないやろ」が響いたんだろうな。それでも折れたくなかった父さんは「じゃあ……、コンビニで弁当買うて食うぞ」って言いだして。母さんも面倒くさくなったのかそれで納得するし、そしたら俺もそれに従うしかないからさ。歩いてコンビニに行って牛丼買って家で食べた。
そんな思い出はどうでも良かったんだけど、その日の夜に自分の部屋に戻って常夜灯をつけてもまったく反応がない。停電かなと思ったけどリビングとか他の部屋は明るい。これは蛍光灯の寿命が来たと思って父さんと母さんを呼んでさ。
「ああ、これはもうあかんな。明日土曜やから買いにいこか」
「そやな」
さっき回転寿司の件で大喧嘩していたはずの父さんと母さんが、蛍光灯の件については一瞬で合意して。でも、やっぱりおばあちゃんの言われてたことを思い出したのよ。
「おばあちゃんが真っ暗にして寝んなって、いつも言ってるんやけど……」
「あんなもん迷信や。気にせんと寝ろ」
言い捨てる父のわりには、寝るときにちゃんと常夜灯つけてんねん。本当は父さん母さんの部屋で一緒に寝たかった。でも中三でそんな甘えたことを言えるわけがない。内心、怖かった。おばあちゃんとは同居もしてたし、しょっちゅう迷信を言われ続けてたから。ほんまに出たらどないしようって思っていた。
父さんと母さんの喧嘩があったり蛍光灯がつかなかったりと疲れることが多かったから、案外すぐに寝られた。でもなぜか途中で起きてしまった。暑くもないのに汗だくになり、パジャマも汗を大量に吸っていて気持ち悪かった。寝返りを打ったら背中側に動く気配がした。起きて少し経ったところだったから暗闇でもじゃっかん見えるようになっていた。
五、六人くらいの青白い男女がゆっくり歩いて壁に吸い込まれていく。股間が生温かくなったと思ったら掛布団の間から甘臭いにおいが鼻を突いた。情けない自分と余りの恐怖に声が漏れそうになったけど、もしそうなったら襲われると思って必死に口を抑えた。
おばあちゃんの言う通りだった。一階に降りて助けを呼びたかったけどちょうど、ドアの前が幽霊の列ができていて、逃げることができなかった。「このまま幽霊が俺に気づかんとどっか行ってくれと」祈ってたら行列の真ん中の白目を向いた男の幽霊が向かってきた。これはもう道連れにされると思った。
「おばあちゃん助けて!」って大声で叫んだ。意外と金縛りとかなくて声が出た。そしたらすぐにドアが開いて眩しい光が幽霊と僕を照らした。
「どしてん!」
おばあちゃんはすぐに僕のとこ駆け寄ってくれて、近づいてきた幽霊をずっと睨んでくれてん。光をあてられた幽霊が大気中に溶けるように消えていった。
「真っ暗にして寝たらあかんゆうてたやろ!」ってめっちゃ怒られたんやけど、怖いのと助かったのが入り混じっておばあちゃんに抱きついてた。
「今日はお父さんお母さんの部屋かおばあちゃんの部屋で寝な」って言われたからおばあちゃんの部屋で寝ることにした。中三にもなっておもらししたんかって親にからかわれるのが嫌だった。幽霊に出くわした怖さのわりにはそんなこと考える余裕があったのかと思うと不思議だった。
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