包み紙と空き缶(後編)


 看守は、元死刑囚の居なくなった部屋での清掃を担当することになった。部屋は静かで、元死刑囚の存在がまるで幻だったかのように感じられた。

 

 彼は静かに部屋の中を見回し、元死刑囚が最後に過ごした痕跡を探した。

 机の上には、残されたハンバーガーの包み紙と珈琲の空き缶があった。彼はそれを片付けながら、元死刑囚の最後の晩餐を思い出した。

 彼女は何故、どこでも手に入るようなものを所望したのだろう。


 看守は、床に落ちているハンバーガーの包み紙の切れ端に気づき、拾い上げた。

 その包み紙には、歪な文字でこう書いてあった。

 

 ──『I am a human clone』。


 看守は、手元にある元死刑囚の資料を閲覧する。

 本人の写真には首元に黒子ほくろがあった。

 看守は、あることに気づいて息を呑んだ。


 最も身近でどこにでもあるはずのハンバーガーと珈琲を見た時、彼女は幸せそうに微笑んだ。

 その微笑みは、のようであった。


 

 ──彼女は、誰が何のために? 


 看守は、その包み紙を手にしながら、彼女の最期の言葉と姿を思い出し、記憶に刻み込むことしかできなかった。

 彼女の死刑は執行されている。

 ──助けることは出来ない。


 看守は、包み紙の切れ端をぐしゃりと握りしめ、その部屋を静かに後にした。

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