第2話 アイドルになる方法
瀬名あまいは男である──だが、かわいい。
例えるならトドの中にアザラシが1匹混じっているような。
そもそもの種別が違うんじゃないかと思う。
俺とあまいが同じ性別は愚か、同じ生き物だとすら思えない。
それほどまでにあまいは"特別にかわいい"のである。
これはあまいが"男の子"だからかわいいという訳ではなく、女の子の中に混ぜても圧倒的にかわいい。
それはもうピノの星なんて言葉じゃあまいのレアリティの高さを表すには不十分すぎる。
アイドルには何百年に一度、何千年に一度なんてかわいさを表す言葉がある。
これだけは言い切れる──
──あまいは地球が生まれて史上"46億年に1度"のアイドルにならなくてはならない。
「……その素質があまいにはある、けど……」
スマホの画面を見ながら俺は頭を抱えていた。
女性募集、女性募集、女性募集──あまいが言っていた"アイドルになれない"ってのはこういう事だったのか……。
てっきりかわいければ良し……ってものだと思っていた。
そもそもアイドルってオーディションとか受けないのなれないのか?
そもそもあまいは歌とかダンスとかできんのかな……あまいが歌下手とか想像できないな。
まあそれはそれでかわいいけど……応援したくなるし。
アイドルになるには、で検索。
やはり有名どころのグループなんかはオーディションらしい。
やっぱりか、とため息をついた。
「……俺がアイドルにしてやる……か」
思い出しただけでも恥ずかしくなりベットでバタバタしてしまった。
それに連絡先も交換してしまった。プロフィールが自撮りでめっちゃかわいい。
これでもしあまいがアイドルになってしまったら完全に繋がりか?
アイドルになる前だからセーフなのか?
……ええい、今はあまいをアイドルにすることだけ考えよう。
そんなこんなで俺──旭夜斗は怒涛の一日を終えた。
○
翌朝、目が覚めると昨日のことが夢のように感じた。別にあまいと話せて嬉しかった、とかではない。
特に誰とも話すことなく日常をやり過ごす俺にとって、クラスの中心人物であるあまいとあれだけ話したことが信じられなかった、という感情に近い。
だから教室にあまいが入ってきたとき、何故か少し緊張してしまった。
一瞬目が合ったと思ったら、すぐに目をそらされた。分かりきってたことだがやっぱりなんかちょっと傷つく。
あまいはおはよー、と声を掛けられ、おはよーと返しながらそそくさと席に向かう。
俺の席を通り過ぎると同時に──
「……おはよ、夜斗」
小声だったけど小さく手を振ってくれた。
かわいい。
あと名前呼びになってる。認知されたオタク感あってちょっと嬉しい。
あまいが席に着くと、俺のスマホがブルっと震えた。
『あまい──あまいのこと見すぎでしょ笑』
びっくりしてあまいの方を見るとスマホで口を隠しながらふふっ、と笑った。
あまいのやつ、完全に俺で遊んでやがる。
『あまい──今日の放課後時間あるかな? 昨日の話の続きしたいな』
文章だけだけどこれはオタク特有の想像力故、あまいの声が聞こえてくる気がする。
なにこれ幸せかもしれない。
『夜斗──おう、わかった』
『あまい──じゃあ放課後ね! 昨日の喫茶店で!』
文字打つの早過ぎないか……さすが女の子より女の子なことはある。
あまいをアイドルにすると約束をした以上やれることは全てやろうと思っている。
俺は間違いなく、国民的アイドルの原石を見つけたのだ。
例え磨くのは俺ではなくてもあまいがステージに立つ為の手伝いをしなければいけないのである(オタク特有の使命感)。
○
昨日の喫茶店に着くとあまいの姿はなかった。スマホを見ると『ちょっと遅れます……ごめんね(><)』と連絡があった。
とりあえず席に着いて、時間潰す。
なんとなくSNSでアイドルと検索した。
アイドルたちの自撮りが流れてくる。
たしかに全員もれなくかわいいが、あまいと比べてしまったら正直どうってことない。
告白されたら付き合っちゃう程度のかわいさである。
意味わからんだろう? 正直俺もわからん。
自撮りねえ……自撮り……ん、自撮り?
自撮り+SNS
=かわいいの証明(?)
かわいい=アイドル
かわいいの証明=アイドルになれる証明
……ん? …………ん? ……んん!?
俺の考えた作戦はこうだ。
まず自撮りを投稿する。
あまいはかわいいから人気が出てフォロワーが増える。
人気になればアイドルの誘いもあるかも! というものだった。
「はぁはぁ……お待た……どうしたの?」
走ってきたであろうあまいはちょっと髪が乱れていた。しかしかわいい。
あまいは不敵な笑みを浮かべる俺に疑問符を浮かべていた。だが俺は確信した。
やはりあまいには持ってこいの作戦である。
「見つけたぞ、あまいがアイドルになる方法……!」
「えっ……ほんとに!? こんなに早く!?」
びっくりして早く教えて、と言わんばかりにあまいはぴょんぴょんしていた。
まてまて落ち着け、と言わんばかりにドヤ顔を決めたあと、あまいが落ち着いたのを確認してから──
「──作戦名は『顔だけで勝負作戦』だ」
「…………………」
うわー、みたいな顔された。
なんかちょっとかっこいいの考えたけど出てこなかったんだもん。しかたないよね。
「ゴホン……つまり、自撮りをSNSにアップして人気になり、アイドルになる作戦だ!」
「…………それだ」
うわー、みたいな顔から一瞬であまいはキラキラした表情を浮かべた。
「………………それだよ!! どうして今まで気づかなかったんだろう!!!!」
あまいは可能性の欠片を感じた。
見落としていたことに気づいたように、嬉しそうにぴょんぴょんしている。
「ずっとオーディションとかアイドル募集ばっかり見ちゃってた!」
あまいはよし、と気合い入れて
「そうと決まれば、写真撮るのももちろん手伝っけくれるよね?」
「ああ、もちろんだ!」
やれやれ俺がいないと、と言わんばかりにため息をついてから俺は答えた。
あまいは本当はうれしいくせに、とつんつんしてきたけど本当に口元がニヤついてしまわないように俺は我慢していた。
あまあまアイドル育成計画〜クラスメイトが可愛すぎるから世界一のアイドルにしようと思う〜 あのきき @uzu12key
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