第3話 ははなし

 その日、私がどうやって自宅へ戻ったか記憶に無かった。

 気がつくとリビングのソファの上で着の身着のまま眠っていたのだ。

 母と私に血縁関係がない。

 父を知らない私にとって幼い頃は母との絆こそが全てであった。

 その母と血縁関係がなく、更には私は母に育てられていない可能性があると言う。

 あくまで仮定の話とは言え、クライアントである私にそう語る以上、彼女たち回天堂側にはそれなりの検証が進められているのであろう。

「全社ワンチームでの迅速解決」

 回天堂の企業ホームにはそう書かれていた。

 それを見た時は頼もしいと感じていたが今は恐ろしい。

 私のプライベートを全社総力を上げて丸裸にしようとしていると感じたからだ。

 もう依頼はキャンセルしたほうが良いのでは? そんな思いが私の中に渦巻いていた。

 あのアルバムにある写真がそれを裏付けるものであるのなら、それも廃棄してしまえば深層は闇の中、私は今までどおりに暮ら、たまに母を偲べばそれで良いではないかとも考えていた。

 だが、同時に本当にそれで良いのかと言う疑問もある。

 もし本当に母との血縁も無ければ、母に育てられてもいないのであれば私の記憶は一体何なのか。

 そもそも私は何者なのか。

 それを知るためにも回天堂の二人とは合う必要がある。

 私は覚悟を決めて九堂さんに連絡を入れた。

 それは二人と分かれてから半月後のことであった。

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