第2話 はなし
メモ書きについて調べることにした私ではあったが、この手の調べごとについて専門的な事はさっぱりわからなかった。
そこで、顔が広そうな知人に相談をした。
そのうちの一人である、そこそこ有名な占い師がある古物商を紹介してくれた。
『回天堂』と言う屋号を持つグループ企業であり、その筋ではそこそこ有名な会社であるという。
若干の胡散臭さを感じていたが、彼は占い師であっても嘘は言わない。
その信頼をチップに私はこの会社へ賭けてみることにした。
連絡を入れて数日。
回天堂のスタッフから打合せの依頼が来た。
場所は私の自宅近くの喫茶店。時間も休日の昼と特に問題にないため、私は了承した。
打合せ当日、私は指定された店へと向かう。
そこはビジネス向けの店で、必要に応じて個室も用意してくれる様だった。
私は待ち合わせであることを告げると、思ったとおり奥の個室へ案内された。
少人数での商談をそうてしていると思われるその個室の中には背の低いテーブルが1つとそれを囲むように4つの個人掛けソファが備え付けられていた。
そのうち手前の2つには既に座っている人物がいた。
その二人はウエイターが扉を開くと同時にこちらを向き立ち上がる。
二人とも女性のようだ。
一人は私より少し年下の30代半ばくらいであろうか。
タイトスカートのスーツを隙なく着こなしており、端正な顔立ちと相まってモデルのようである。
そしてもう一人は更に若い女性。20歳くらいの新人のようだ。
こちらはパンツスタイルのスーツを着ているが顔立ちの幼さからまだスーツに切られているかのようだった。
「葛巻さんですね。私達はこの度ご依頼を頂きました回天堂の者です。」
年長の女性が1歩前に出て名刺を手渡してくる。
両手で受け取り確認すると、そこには「
「お噂には聞いていました、本当にお名前は記載されていないのですね。」
占い師から聞いていたが実際に見てみると驚きが隠せなかった。
「はい。占堂さんからのご紹介との事でしたので、詳細はご存知かと思いますが、弊社は、ご依頼いただいた案件に対し全社一丸となり取り組むため、特定の担当をつけない方針でして。」
微笑みながら話す彼女はこの手の話が慣れていることを感じさせる。
「ただ、今回は少々込み入っているようでしたので窓口担当を立てさせて頂く事にいたします。」
少し真剣な表情で続けられた言葉に驚いた。
窓口担当をたてることではなく、少々込み入っていると言われたことに。
ただのメモ書きの解読作業がである。
「ですので、わたしの事は『綺世』、そして彼女は『九堂』とお呼びください。」
そう言いながら2枚目の名刺を手渡してくるそこには、「課長 綺世賢人」と書かれている。
そしてそれにあわせて、若い女性も名刺をわたしてくる、そちらの名前は「九堂勇気」。
どちらもどこかで聞いたことがある名前だ。確か何処かのニュースだったか。
ともかく二人とも偽名であると暗に言っているのであるが、この際そのことはさして問題はない。
何が込み入っているのかが気になる私は、さっそく話しを始めるため席へと座った。
それを合図に綺世さんと九堂さんも座り、手元にあった封筒から資料を取り出す。
紙に出力された資料なんてものは久しぶりだが、私はそれを手に取り軽く目を通す。
そして最初に目にはいるったのが資料提供先に記載された『先史研究博物館』の文字だった。
その1点だけでも私の思考が混乱するには十分であった。
先史研究博物館。
世間では先史研もしくは先史博物館と言われる機関は、かつて人類全体が大混乱に陥った
大災厄で失伝してしまった物の多くを復元してきた実績のある機関であるが、同時に技術や文化について検閲を行っている疑惑もある。
現に『特殊情報取り扱い法』と言う、大災厄以前の情報を取り扱う法律があり、そこには、情報の公開には先史博物館の許可を必要とすると明記されている。
その上、故意に違反した場合はそれなりに重い刑罰が課せられるという。
そんな機関が関わる資料が必要になるとは一体、あのメモは何だっただろうか。
「さてお話をする前に再確認させていただきたいことがあります。」
九堂さんが私に声を掛けてくる。
私は彼女は新人で綺世さんのアシスタントとしてこの場にいると思っていたので、少し驚いた。
「今回、ご依頼いただいたメモですが、亡くなられたお母様のアルバムに挟まれていたと言うことで間違いないでしょうか。」
と彼女はメモ発見時の状況を念押しで確認してくる。
「はい。 それは間違いありません。 母の遺品整理を行っている時に見つけました。」
「ではそのアルバムですが、他にどの様な写真が収められていました?」
そこまで聞かれて私は気がついた。
メモの方に気が行っていたが、アルバムには若い頃の母の写真が収められていた事を思い出した。
しかし、その写真に違和感があった。
生前、母は一般的な大学を卒業しとある会社の経理課へ就職。そこで父と知り合ったと言っていたが、その写真に映る母は白い白衣を身にまといどこかの研究室にいる様だった。
私はその事を彼女たちに告げると、二人は互いにうなずきあう。
「葛巻さん。 今回ご用意いたしました資料を見ていただいて気がついたかと思いますが今回の件、場合によっては『特殊情報取り扱い法』に抵触する可能性があります。」
九堂さんが重い口調で話しを進める。
「事前に先史研には、我々があなたに話す限りは問題ない許可を受けていますが、もしあなたが許可なく第三者に話しをしたら処罰の対象になります。」
話を続ける九堂さんは若い新人とは思えない迫力がある。
その時、私が彼女から感じたのは困難な仕事をこなしてきた歴戦の営業と同じモノであった。
私も若い頃はそこそこ大きな会社の営業として働いていたが、彼女はその頃の私などは遠く及ばない修羅場をくぐってきた様な凄みがある。
「そ、そんな大きな問題があったのですか?」
絞り出すように疑問を口にする私に、今度は綺世さんが答える。
「まだ確定ではありません。 ですが我々の予想が正しいとした場合、相当大きな問題があります。」
静かに断言する綺世さんを私は凝視することしか出来なかった。
そのまま、誰も発言することなくしばらく時間が流れる。
少なくとも私にはどう判断すればいいか分からなかった。
「このままではどうしようもありませんので、続きは次回とい事でいかがでしょうか。 わたし達もまだ結論は出ておりませんので。」
しびれを切らしたのか九堂さんがそう告げる。
私は心の底から安堵した。
得体のしれない恐怖から一時的にでも逃げることができるのだから。
「はい。 では続きは次回ということで。」
そこまで言って私は思わず、一言付け加えていた。
「もし、お二人の予測が正しかった場合、私に重大な何かがあるのでしょうか?」
その瞬間、二人は鋭い視線を私に向けてきた。
それは暗に聞くなと言っているようであったが、どんな予測が立っているのかわからない以上は調査を続ける判断も出来ない。
私はある種の決意を込めて再度問いかけた。
「何か私に関わる重大な問題があることは理解しました。 その上でお願いする以上、一番の懸念点を答えてください。」
もう後戻りは出来ない。 私が放った言葉に二人は諦めたようだった。
「分かりました。 お答えいたしますがあくまで現状での予測であることをご理解ください。」
九堂さんが念を押した。
私も無言で首を縦にふる。
大きく深呼吸をした後、彼女は答えた。
「葛巻さんはお母様に育てられていない可能性があります。 それ以前にお二人に血縁関係は無いと考えるほうが自然です。」
一瞬、放たれた言葉の意味が理解出来なかった。
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