第5話 一つだけのお願い。

その日は、いい天気だった。こんな日は夜景がきれいだろう、とただ呑気に考えた。


職場の最寄り駅から一駅ずらしたところで、時間を合わせて隆司と紗代子は待ち合わせをした。彼女を車で拾い、空港の展望デッキで二人の時間を過ごした。


離陸していく飛行機に


「いってらっしゃ~い!」


着陸する飛行機に


「おかえり~!」


と無邪気に声をかける紗代子はとてもかわいくて、とても愛しかった。


30分ほど、飛行機を眺めて、帰途についた。彼女の最寄り駅に向かう途中、いくつものファッションホテルの横を過ぎた。隆司はハンドルを切りたい思いを何とか抑え込み、彼女の最寄り駅に彼女を送り届けた。


「ねぇ、隆司さん。一つお願いがあるの」


いつもは苗字で呼んでくる彼女が、初めて彼を名前で呼んだ。


「もちろん。どうしたの?」

「あのね、一度だけ私を名前で呼んで。そして抱きしめてほしいの。それだけ。車から出てくれる?」


そして彼らは車の外に出た。そして、一生に一度の抱擁と、熱いキスを交わした。

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