第4話 ソウルメイト?
いつだったか、紗代子がひどく怒って、傷ついていたことがあった。他会社とのやり取りで相手方の手違いがあり、しかもその対応がずいぶんひどかったらしかった。
「伊藤さん、お茶でも飲んで帰らない?ボヤキなら僕が聞くよ」
と隆司は彼女に声をかけた。彼らは、彼女の帰宅途中のミスドで彼女の愚痴を聞きながら、二人でドーナツを食べた。アラフォーの二人だが、まるで高校生みたいだ。でもそれで十分に彼らの心は満たされた。
紗代子はその時、思わせぶりに語った。
「私ね、近藤さんと会って、それまでこんな気持ちになったことがないの。でもね、私がこれまで男の人と付き合っていた時、私は我慢する方なの。でね、その我慢が積み重なって、限度を越えたら、私はすっと消えてしまうの。別れるときに揉めるのは嫌でしょ。私、揉め事は嫌いなの。だから、私はいなくなるの」
サラッと言った彼女の言葉を、隆司はしっかり心に焼き付けた。少しでも彼女といる時間が長くなるように。
「ソウルメイト?」
ネット検索をしていた隆司は、たまたま「ソウルメイト」という言葉に目が留まった。少し調べてみる。
「出会ったときに懐かしく感じる」
お互いに、初対面であったはずなのに、二人ともが「どこかで会ったことがある」と感じた。
「一緒にいると心が落ち着く」
紗代子がどう感じているかはわからないが、隆司は、紗代子とおしゃべりしていると、まるで旧知の友人と会話をしているような感じを受けていた。ただそれは、誰とでも仲良くなれる紗代子の性格がそうさせているのかもしれない、と隆司は思った。
「共通点が多い」
紗代子が生まれ育った街は、隆司が生まれ、小さいころに暮らしていた街であり、その街には祖父母も、叔母夫婦、同い年のいとこもいて、彼にとって身近な街であった。彼女が自分の生まれ育った街を好きなのと同じくらい、彼もその街が好きであった。
ただ、そのサイトには一言、気になることが書いてあった。
「ソウルメイトが出会ったとき、片方が既婚者であることは少なくない」と。
紗代子は独身だったが、隆司には妻子がいたのだ。思いは募っても、越えてはならない一線を常に意識しなければならない、と隆司は固く心に誓っていた。
それでも、隆司と紗代子が2人で会う機会は増えていった。ただ何をするでもなく、車で二人、走り続けたり、カフェでコーヒーを飲んだり、その程度であったが。
紗代子は隆司への恋心をあまり隠すことなく公言していた。周りの人がそれを暖かく、さらりと聞き流していたのは、おそらく紗代子のキャラクターならではのことだ。しかし、それに対して隆司が何らかの反応を示すわけにはいかない。ただただ、
「そういってもらえて、ありがたいことです」
と流すことしかできなかった。
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