第2話 初めての出会い

隆司がこの営業所に転属してきたのは、5月のGW明けだった。本社ほどの規模はなくても、この営業所には40人ほどの職員がいた。この営業所には、彼が高校生時代にアルバイトで働いていたことがある。そのころはもっとこじんまりして、人も少なかった。あれから10年以上経つが、ずいぶん人が入れ替わってしまった。彼のことを覚えている人も、所長や古株のスタッフ数人しかいなかった。


「やぁ、近藤君、久しぶりだねぇ。アルバイトで走り回っていた君が、本社からこちらに転属、なんて俺も年を取ったよなぁ」


と、あの頃からの所長、竹尾さんがあいさつの時に声をかけてくれた。


「また、週明けの朝礼でみんなに紹介するけど、君が来ることは全部署に通知が行ってるので、君自身でも挨拶をしておいてくれないか。なんせ、本社から来た「期待の星」だからね」


と所長は言葉を重ねる。そんなに持ち上げられると、却ってやりにくいなぁ、と隆司は思った。


「所長、依頼されていた所内清掃について、業者から日程表をおくってきたので、確認しておいてください」


と、彼らの会話に割って入ったのが、総務部の伊藤 紗代子だった。


「伊藤さん、ありがとう。そうそう、先日通知していた、今日からこの営業所に転属となった近藤君だよ。近藤君。彼女は総務部の伊藤さん。いろいろお世話になることも多いから、覚えておいて」


と所長が紹介してくれた。


「あっ、初めまして。この度お世話になります、営業課の近藤と申します。よろしくお願いいたします」

「初めまして。総務の伊藤です。よろしくお願いいたします」


とお互いに頭を下げてあいさつを交わした。挨拶を交わしながら、隆司は彼女に既視感を感じていた。


「あれ、俺、彼女にどこかで会ったような気がするのだが…。どこだろう?」


そう思いながら、自分の記憶を辿っていったのだが、「ここだ」と思い当たるところはなかった。高校時代の同級生だったのだろうか?などと考えながら少し言葉を交わし、彼女は退室。隆司も、各部署へあいさつに回った。


もともとアルバイトをしていたこともあり、何となく各部署の位置はわかっている。アルバイトをしていた時にはなかった部署も新設されているが、あの頃から続いている部署には、誰かが隆司のことを覚えてくれていて、


「今度は正社員で戻ってきたんだね。よろしく」


と声をかけてくれた。知る人のいない部署も、所長が前もって伝えてくれていたので、どの部署でも隆司は、ありがたい歓迎の声で迎えられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る