Ep.9 vs破壊者
「アルケーシステム、アクティベート!!
――ディスト……ラクショオオオオオオオオオン!!」
それはおそらく、今まで聞いた中で一番やかましい【
いや、もっと言えば、チーターのおっさんである。
「無駄にテンション高ぇ……」
俺は相手に気圧され……いや呆れながら、そのDプレイヤーが自身の《
「
隣で浮遊する朔夜の問いに、俺は「ああ」と短く返した。
彼女は既に《霊魂》を展開しており、臨戦態勢に入っている。
「ならば早く終わらせるぞ! わらわの今日の飯のためにも!!」
「……だな」
俺も《戦闘体》に換装し、大型拳銃を右肩に担いた。
朔夜にとってのPvPデュエルデビュー戦が、始まる。
遡ること、およそ一時間前。
俺のスマホの《UB Chat》に届いたのは、一件の依頼だった。
『 〈Dプレイヤー討伐依頼〉
対象者PN:Dr.シナガワ(PvP Wランク33位)
アバターの特徴:サングラス、顎髭、赤の長髪
武装の特徴:パワードスーツ型で規格外
討伐報酬:10万
Dプレイヤーの討伐依頼。
それも、かなり報酬が高めに設定されているものだ。
俺は喫茶ENZIANにの店長に頼み込んで、《
依頼者は大抵、そのDプレイヤーのチート被害を受けている場合が多い。運営側が出す公式の討伐依頼とは違って、非公式のこっちは完全に「頼むからなんとかしてくれ」案件を取り扱っているのだ。
それで、今回の依頼だが。
内容がDプレイヤーの討伐ということで受けたのは勿論だが、朔夜との連携がどの程度取れるかの実践も兼ねていた。相手が俺一人では手こずりやすいパワードスーツ型というのもあり、ちょうどよかったというわけなんだが――
「腹が……腹が減った……」
朔夜には、個人的に悪いことをしたと思っている。
この手の依頼では討伐対象のプレイヤーの足取りを逃すことのないよう、一秒でも早く現場に向かわなくてはならない。ENZIANに寄っている暇さえ惜しいのだ。彼女には、持ち合わせの携帯食で我慢してもらう他なかった。
……と、まあそんなコンディションなわけだ。
「あれが……わらわの戦う敵……」
真面目モードに入った朔夜は、砂塵に顔をしかめる。
表情だけはいつになく真剣なようだ。頼もしい限りである。
「ああ……奴はパワードスーツ型、手強いぞ」
「ふむ、そうか……にしては――」
俺と朔夜は、並んで敵と対峙する。《ディスオーダー》の展開・構築の過程を終えた、強大で威圧的なシルエットを、ともに見上げた。
そう、
((……デカくね?))
率直な感想を言うと、それはとにかくデカかった。
全高10mはあろうかというほどの巨体の「ロボット」に、ガトリング砲やミサイルポッド、レールガン等これでもかというほどのありったけの重火器を積んでいる。《ディスオーダー》での武装てんこ盛りだとしても、明らかにやりすぎだ。
『フハハハハハハハハハハハハハハハ!!
とくと見よ、これが私、Dr.シナガワの《ディスオーダー》にして最強最高の愛機……【
機体から、スピーカー越しに奴の声が届く。
それは武装というより、もはや兵器だった。
一昔前のロボットアニメを彷彿とさせながらも、明確な殺意を感じさせるデザインである。俺もこれほど清々しいレギュレーション違反は見たことがない。
(合計
敵の秘める《アルケー》を示す数値は、『1064』。
純正プレイヤーであるの俺の数値は271、普通の《ディスオーダー》使いでも300~500だ。この間戦ったブレード使いとは格もスケールも違う相手と見ていいだろう。
「いくらチーターだからってやりすぎだろ……」
「そうだそうだ! 降りてこいヒゲ男!! 卑怯だぞ!」
朔夜も珍しく真っ当な怒りを覚えたようだ。
しかし相手は彼女の反駁を気にも留めず、なぜか逆に熱く語り始めた。
『卑怯? ハハ……そうだとも、卑怯だとも! 私だってこんな力に手を出したくなかったがね、それでもッ……手にしてしまったのだよ!! 私の思い描いた理想を、ロマンを、具現化する力を!! 私は
聞くに堪えない熱弁だった。
最後まで聞いた俺が馬鹿だったようだ。
(コイツ……オタクに見せかけたガチクズじゃねぇか)
ここまで悪として吹っ切れていては、もう救いようがない。
俺たちが、討たねばならない。
[PvPデュエル成立。デュエルフィールドを展開します]
AI音声が、決闘の成立を告げる。
形式的には、2vs1のフリーマッチだ。
[戦闘開始]
バトルスタートの合図が下りる。
先制したのは、シナガワの繰る機体だった。
『くたば、れェェェッ!!』
右腕のガトリング砲が高速回転し、即座に無数の銃弾を撃ち込んできた。朔夜は上空に、俺は右手に移動を開始しつつ回避行動をとる。敵の小回りが利かない分、攻撃を避けるのだけは容易と見ていい。
しかしだ。
(通らねぇ……この距離でも!!)
こちらの放つ弾丸は、敵の堅牢な装甲を前に弾かれる。これでも片手銃カテゴリの中では一番威力だけはあるはずだが、ここまでArc値に差があると豆鉄砲同然だ。
『ぬるいな! これが……火力の違いだァ!!』
今度は敵の機体後方、ミサイルポッドが開く。
発射された九基のミサイルを見て、俺は咄嗟に朔夜に指示を出す。
「朔夜! 迎撃いけるか!」
「いけるも何も――今やっておるわ!」
朔夜の周囲に《霊魂》が連なって円を成す。
彼女の意志に呼応するように、それらは赤く色を変え、
「霊魂――
より攻撃的な火の玉となり、ミサイルに立ち向かっていく。
敵のミサイルが空中で爆発を起こす。霊魂が討ち漏らした二基を俺がすかさず狙撃し、迎撃は完了した。視界前方に張られた煙幕が気がかりだが、今は致し方ない。
「おい、奴は……まだそこか?」
「多分な……でも、一応警戒――」
言い終える前に、奴の機体は正面から現れた。
脚部の無限軌道により、煙幕の中を突進してきたのだ。
『――
機体の左手、高速回転する巨大なドリルが目の前に迫る。
(マジかッ――!?)
攻撃範囲が大きすぎる。避けきれない。
シールドを張るにしても、この巨体の前では――
「全神全霊――霊魂、
そこに隙かさず躍り出たのは、朔夜だった。
前面に壁として展開された蒼の霊魂が、俺たちを
「悪い、朔夜――」
「謝るな! まだお主に死なれるわけには……っ」
『泣かせる絆だな! まだいけるか? ガキ共ォッ!!』
敵の突進とこちらの霊魂が激しくせめぎ合う。押され気味なのはこちらかと思いきや、朔夜は不敵に微笑んでなおも果敢に絶叫してみせる。
「なめるな! わらわは……神の子だぁああああああああっ!!」
瞬間、ドリルの勢いが弱まる。
その隙をつき、朔夜は展開した蒼の霊魂を一斉に
『バカっ……な!? どこにそんな力が!?』
奴が驚愕するのも無理はない。
シナガワの乗り込む機体に計測されたArc値は1064。前情報通り、まさに「規格外」だ。通常ならば、真正面から火力で奴に勝負を仕掛けるのは無謀と言っていい。
だが、この場にいる「規格外」は奴だけではなかった。
俺と並び立つ、霊魂を操る巫女服の少女。
その小柄な身体に秘められた《アルケー》を示す数値は――
『馬鹿な……貴様、Arc値1566だと!?』
奴の機体を上回る、Arc値『1566』。
「神の子」を名乗るに相応しい、異端な値であった。
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