四章
決勝トーナメント開始
「まさかいきなり一回戦で、お前と戦うチャンスが訪れるとは正直思ってなかったぜ」
「これは試合だからね!? 個人の決闘じゃないんだから、殺し合いは無しだよ!?」
「ああ、わかっているさ! あれから一人で武者修行して来たからな! レベルも二つ上がったし、どれだけ強くなったのかをお前に見せてやるよ!」
現在、Dグループ一位の翔哉とHグループ二位のヴァンが、決勝トーナメントの一回戦で対峙しているところだった。
ヴァンはレベルが二つ上がり強くなったと言いはしたものの、翔哉のステータスを一度見ていたわけであり、彼自身それで勝てるなどと言う事は露程も思っていなかった。
しかし、やりようによっては、善戦くらいは出来るのではないか? くらいには思っていたので、思い人であるニケに対しても恥ずかしい試合は見せられないと言う事もあり、彼の戦意はけして低いものではなかったのだ。
当然、あれから翔哉も大きくレベルアップしていて、その時点に比べ何倍も強くなっていたわけだが、そんな事はヴァンにしてみれば知る由もない事だった。
試合開始の合図が為され、ヴァンは瞬足のスキルを使って一気に間合いを詰め、無数の槍による突きを高速で繰り出す。
そんな彼の攻撃を、翔哉は必要最小限の動きにて紙一重で躱していた。
全く当たる気配が無いと見たヴァンは、一旦距離を取ってから独り言ちる。
「チッ! やっぱり当たらないみたいだな! どんだけ敏捷が高いんだよ」
ヴァンは連続的な突きをいくら繰り出しても当てる事は出来ないと悟り、広範囲にダメージを与えられる攻撃に切り替えようと槍の中心部を両手で持って、それを自身の頭上で回転させ始める。
彼の周囲には気流が生まれ、次第にそれは竜巻となっていき僅かな土埃を巻き上げながら大きな渦を巻き始めた。
「食らえ! 竜巣風刃撃!」
掛け声をかけると同時に渦の中心となったヴァンは、翔哉に向かって突進して行く。
「なっ!?」
ヴァンは驚きの声を上げると同時に全く動かなくなってしまう。
彼の周りで渦巻いていた竜巻も、既に消え失せていた。
会場の観客達も、その光景を目撃し息を呑む。
翔哉は彼が回転させていた槍の刃先を指先だけで掴み取り、その攻撃を竜巻ごと止めてしまっていたのだ。
「くっ! 全く動けねーっ! お前やっぱりとんだ化物だな!」
「どうする? まだ戦いを続けるつもり?」
「へっ! お前に勝てっこねーってのは十分わかったけどよー。降参するのは癪だから、死なない程度に止めを刺してくれや~」
「うん、わかったよヴァン! お疲れ様!」
そう言って翔哉は一瞬で彼の懐に入り、鳩尾に腹パンをかます。
「うっ!」
ヴァンは短い悲鳴を上げ、槍を落としてその場に踞ってしまった。
悠然と闘技場の入場口に向かって歩き出す翔哉を見て、彼の勝利を確信した進行役の女性が宣言する。
「決勝トーナメント一回戦、第四試合の勝者は、女神の使徒ショウヤ選手です!」
選手専用の屋内観覧広間に戻った翔哉に、アス達が次々と労いの言葉をかけていく。
そして、最後に言葉をかけたニケは、少し残念そうな感じで冗談を言う。
「ショウヤお疲れ様にゃ! どうせにゃら、あんな奴、殺してしまっても構わなかったにゃのに、ショウヤはやっぱり優しいのにゃね♡」
「ありがとうニケ! でも頑張った彼に対してずいぶんと辛辣すぎない?」
「良いのにゃよ! 好みじゃないってハッキリ言ってるのに、あいつ何時まで経ってもしつこいのにゃ!」
「そう言えば、ニケは彼と決闘した事あるの?」
「数えきれないほど有るにゃよ! 何度も挑んで来て、本当にしつこいにゃよ」
「数えきれない? 何度も? 個人の決闘って殺し合いなんじゃなかったっけ?」
その疑問に対してはメルが答える。
「一応、幼馴染みだからな。殺したくはないんだよニケは。だから実はニケの方が強いんだけど、毎回わざと決着をつけないようにして結婚しなきゃいけなくなる事態を回避してるわけだな」
「他人に決闘とかで殺されるにゃら仕方がないとも思えるにゃけど、流石に幼馴染みを自分の手で殺すのは寝覚めが悪いのにゃ」
「まぁ、正直な話、首長が言ってた通りで、昔の風習なんかに拘っているのは、ニケとヴァンくらいなものなんだけどな」
「それだから、あたいはショウヤに二番目でも良いから嫁にするって宣言して欲しいのにゃよ......」
最後にニケが言った理由に対し、アスは少し腹を立てた感じで彼女に質問をする。
「ニケはそんな理由でショウヤに対して、責任を取れだなんて言ってたわけ? そこまで好きじゃないけど、自分が好きではないヴァンにつき纏わられるくらいなら、ショウヤの方がマシくらいに思ってるって事なの?」
「ち、違うのにゃ! あたいはショウヤの事が真剣に好きなのにゃ!」
興奮しすぎて目に涙を浮かべ始めるニケ。感情的になった彼女は、ついにハッキリと本音をぶちまけてしまう。
「本音を言うにゃら今だって、アスの事を殺してでもショウヤを自分のモノにしたいと思ってるにゃよ! でも、それをするとショウヤが悲しむって事がわかったにゃから、ぐっと我慢をして堪えているにゃよ! あたいだってアスみたいに、ショウヤともっと仲良くしたいのにゃ!」
急に叫び出したニケに驚いた観覧広間の選手や関係者達は、瞬間的に沈黙してから、またすぐにざわつき出す。
とんだ恥をまた晒してしまったと感じた彼女は、ついに大粒の涙を流し、居たたまれなくなったのか踵を返して何処かへ行ってしまう。
そんな彼女を姉貴分のメルは追いかける。
アスはニケの反応を見て複雑な心境になっていたのだが、翔哉が他の女も愛するなんて事は、とても堪えられそうもないとも思っていた。その為、この状況下で彼女達を追いかけてまで、かける言葉が見付からなかったのだ。
翔哉は翔哉でアスの手前、追いかけるわけにもいかず、どうして良いのかわからずにオロオロするばかりだった。
もし、アスがその場に居なければ、翔哉はニケを追いかけて行き彼女の事を抱き締めてしまっていたかも知れない。
「ねぇショウヤ。彼女のところに行ってあげてくれないかな?」
あまり納得はしていない感じではあったが、せっかく仲間になれたニケとの間に亀裂が入るのを良しとしないアスは、彼女の事を翔哉に任せる事にしたのだ。
「う、うん、わかったよアス! じゃ、ちょっと行って来るね!」
そう言って、すぐに二人を追いかける翔哉。彼女達は広間を出てすぐの所の通路で話をしていた。
「良かった! 遠くまでは行かなかったんだね」
アスが居ないと見て取ったニケは「アスとヴィラばかりずるいのにゃ!」と叫びながら勢い良く翔哉の胸の中に飛び込んだ。
突き飛ばすわけにもいかないので、翔哉は仕方なく彼女を抱き返して背中をさすってやる。
その頃、ヴィラとアトラは、ああは言ったもののやはり翔哉の事が心配でそわそわしているアスの事を窘めていた。
「前にも言いましたが、アスさんも自分が一番なら良いと決められていたでしょ? それですので、ここは落ち着いて三人が戻るのを待ちましょう」
「まぁ、最悪キスするくらいは有るかも知れないけど、それくらいなら許容してあげても良いんじゃないかなー?」
「キ、キス!? そんなのダメに決まってるでしょ?」
アトラの意見に対しては、流石に否定的な言葉を返すアス。
結局、その後、翔哉達三人は何事もなかったかのように、すぐに戻って来た為に一先ず安心するアスなのだった。
そして、決勝トーナメント一回戦の第六試合は始まったのである。
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