女神の加護の秘密



 朝食の際、気だるそうに後からダイニングにやって来たヴィラが、少し申し訳ない感じで昨晩の報告をしようと翔哉に話しかける。


「ショウヤ様、お話したい事が有るのですが」


「うん、昨晩の事だよね? アスともその事について話してたんだけど、魔王と戦っていたよね?ヴィラ」


 昨晩の行動についてバレていた事に、目を丸くして驚くヴィラ。黙って出たはずなのに何故わかってしまったのか、について二人に質問をする。


「どうしてそうだとわかったのですか? ショウヤ様に止められていたので、黙って出たのですが......」


「アスは僕に暗殺する事を止められたのに、行かないと思うって言ってたんだけど、その後すぐに強烈な魔力同士のぶつかり合いを感じて、たぶんそうなんだと思ったんだよね」


 翔哉の話に驚き、慌てて聞き返すベガール。


「その話は本当ですか?ヴィラさん! まさか東大陸の魔王を暗殺してしまったのですか?」


「大丈夫ですわよ。少し力試しをしただけですので」


「昨晩、遠くの方で響いていた謎の爆発音は、それが原因だったのですね......それで魔王の力はいかばかりだったのでしょうか?」


「私よりはずっと弱いですわね。本人もそれは認めましたわよ」


 ヴィラからそう語られ、お給仕をしていた者達も含め、その場に居たもの全員が、驚愕のあまり固まってしまった。事情を知らない者達からしてみれば、幼女にしか見えない彼女から語られる言葉とは、とても思えなかったからだ。


「では、ショウヤ殿の勝算は十分あると言う事ですね?」


「ショウヤ様からは私の旦那様と同じ力を感じます。ショウヤ様がどこまでの実力をお持ちなのかはわかりませんが、旦那様の持つ力に比肩しているのであれば、全く問題なく倒せる相手のはずですわよ」


 ヴィラの話が少し引っ掛かった翔哉は、確認の為、彼女に自身のステータス情報を開示して意見を求める。


「これが今の僕のステータスだけど、これってヴィラの目から見てどうなのかな?」


 翔哉のステータスを見て、彼女は一瞬固まった後で自身の見解を述べる。


「ショウヤ様は力に目覚められてから、どれくらい経つのでしょう? こちらの世界での表示が、私が元いた世界の表示と違うのかも知れませんが、もし同じような算出方法なのだとしたら正直その......私よりもかなり弱いと言う事になります......」


「力に目覚めてから、まだ二ヶ月は経っていないかな? これでも周りからは十分バグってるなんて言われてたけど、上には上がいるって事なんだね! 因みにヴィラもステータスって見る事ができるのかな?」


「ええ、アンドロイドのメイドさんに自己鑑定チップを埋め込んでもらいましたから、私もステータスを見たり、表示させたりする事はできますわよ」


 そう言って、ヴィラは自身のステータスを開示する。


 以下、ヴィラのステータス情報。


名前 ヴィラドリア・ツェペシュ  年齢 1,023歳


称号 元アヒュカルの眷属  ヴァンパイア  ロキの眷属


亜神レベル28


腕力 8(28,995)


敏捷 5(28,992)


体力 13(29,000)


魔力 28,987


魔力操作 2,873


アクティブスキル


狼女化レベル20 魔力光弾レベル20 魔力波斬レベル20


防御結界レベル8 次元結界レベル12 空間結界レベル3


空間転移レベル2 牙狼雷轟撃レベル20 魅了レベル8


魔力変換レベル20


パッシブスキル


全常態異常耐性レベル14 全属性耐性レベル20 


自動再生レベル8



 このとんでもない能力値と亜神レベルと言う表示に、ベガールは今まで彼女に対して行っていた接し方に自らを恐怖し、元から物腰の柔らかい感じだったものが、更にへりくだった態度に変わってしまう。


「ヴィラさん...いや、ヴィラドリア様は女神様でいらっしゃったのですね! 今までに致しました数々のご無礼、平に御容赦ください」


「別にそのような事、気にしておりませんですわよ。これでも旦那様の周りにおります方々に比べれば、私など底辺の方になりますので」


 翔哉の能力ですらバグっていると思っていた関係者達は、そんな彼の能力を遥かに凌駕するヴィラですら底辺と聞いて、改めて神の域が遠いものだと言う事を感じていた。


 そんな彼女が旦那様と慕う従兄弟の事を、以前マリーザよりも強いと言っていた話を思い出した翔哉は、その能力値に興味を抱き彼女に質問してみる事にした。


「翔太さんのステータスは、やっぱり更に凄い数値なんだろうね? 一体どれくらいなのか、凄く興味があるなぁ」


「残念ながら旦那様の能力値についてはわからないのです。神気が強すぎて測定不能になってしまうらしく、数値の表示が全てアンフィニになってしまっているのです」


 ヴィラが語る途方もない話に、すっかり最初の主旨を忘れていた翔哉達だったが、先に進めるようメルは脱線した話を元に戻す為に、もう一度ベガールと同じ質問をする。


「それで、ショウヤは魔大陸の魔王に勝てるのか? どうなんだ?ヴィラ」


「どうでしょう...何とも言いがたいですわね。魔王のステータスを見たわけでは有りませんが、戦ってみた感覚からして今のショウヤ様と魔王は、ほぼ互角の実力なのではないでしょうか」


「と言う事は一度死ぬくらいで確実に勝てるな! ヴィラ、悪いけど今からショウヤの事を殺してやってくれないか? 即死するような攻撃で」


「はい?? 何をおっしゃっておられますの?メルさん!」


 彼女にとっては意味不明な話だっただけに、当然、困惑してしまうヴィラ。旦那様にそっくりな彼を殺すなど、彼女に出来ようもはずも無い。


 困惑する彼女に、翔哉は自身のレベルアップ方法について説明をする。


「パッシブスキルのところに表示されている、女神の加護レベル9,984って有るよね? 僕の場合そのレベルが下がると、天恵レベルが上がって神気も上昇するみたいなんだよね。それで加護レベルが下がる条件が、その時点での強さに対しての即死攻撃や即死するような目に遭う事、みたいなんだよね」


 翔哉の話に関してベガールが補足を入れる。


「他の使徒達にとって加護レベルは、啓示を受けた時から変わる事は一切なく、一般的にそのレベルが高い者ほど天恵レベルが上がった際の成長率も高いとされております。勿論、加護レベルが即死に対する身代わりになるような事も有りません。因みに私の加護レベルは4です」


 二人の説明を聞いたヴィラは、自分の中で瞬間的に仮説を立て納得したようだ。


 それに基づいて、自身の考えについて語り出すヴィラ。


「恐らくですがショウヤ様の加護レベルは、強力な防御結界の役割を果たすと同時に、元々ショウヤ様がお持ちの力を段階的に抑える為の役割も果たしているのでしょうね。要するにマリーザからある種の呪いを受けたと言う事なのでしょう」


「えっ? やっぱり呪いだったの?これ!」


「やっぱり? 何かそう思わせる根拠でもおありなのですか?」


「うん、こっちの世界に来た当初は、いろいろと表示内容が違っていて、女神の加護のところなんて邪神の呪いレベル9,999だったんだよ。マリーザ様に会った時に本人から聞いた話だと、神気持ちだってバレたら始末されちゃうから、隠蔽する為だったなんて言ってたけど......」


「なるほど、段々とわかってきましたわね。では私が100回くらい殺害してさしあげましょうか? それなら確実に魔王を倒せると思いますわ」


 そんなとんでもない事を言い出すヴィラに、その場の全員が呆れ返ると思いきや、意外にもベガールとメルは乗り気のようである。


「それは名案かもしれません! では早速、練兵場に移動いたしましょう!」


「ヴィラの強さがどれくらいの物か興味が有るし、私も是非、見てみたいものだな!」


 二人の意見に、微妙な反応をするアスが苦言を呈する。


「いくら後9,984回分は死なないかも知れないって言っても、仲間にわざと殺されるなんて話、あまり気分の良いものじゃないよ。そうだよね?ショウヤ」


 アスの意見には翔哉も同感であり、彼はその必要が無い事を淡々と述べる。


「一度、大型のサイクロプスと戦った時に実際わざと攻撃を受けた事が有って、それがやっぱり即死判定だったみたいで、レベルも上がったんだけど、確かにあまり良い気分では無かったよね。それに万が一、魔王が僕よりも強かったとしても、それならそれで試合の中で同じ状態になるわけだから、わざわざそんな事する必要は無いと思うんだよね......」


 翔哉の話もご尤もだと思ったベガールは、あっさり前言を撤回する。


「確かに、そう言われてみればそうですよね。よくよく考えれば、最初から心配する必要も無かったと言う事ですね!」


「なんだよ、ヴィラの力を見てみたかったのに残念だな~」


 メルは面白そうな戦いが見れるチャンスが流れてしまい、非常に残念そうな顔をしてそう言ちた。

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