勝手に交わされる約束
「遅かったにゃね?ショウヤ。魔王の試合どころかバトルロイヤル自体、全部終わってしまったにゃよ」
闘技場の外で翔哉達を待っていたメルとニケだったが、その姿が見えるなりニケが駆け寄って来てそう伝えた。
「えっ? それじゃやっぱり、この人の流れは皆帰るところって事?」
「そうにゃね。予選リーグは明日から行われるにゃよ」
「そうなんだね。それで魔王の試合はどんなだったの?」
「呆気なかったのにゃ。わざわざ見る物でも無かったにゃね」
「やっぱり魔王がブッチギリで勝ったって事?」
「ブッチギリと言うよりか、何もしなかったのにゃ」
「ん? どういう事?」
どういう事? の言葉に反応したニケは言う。
「それはむしろこっちが聞きたい事にゃ! ショウヤはにゃんで、その女を抱っこして歩いてるにゃか?」
ニケの質問に対して、すぐにヴィラ自身が返答をする。
「これは、アスさんの事を守ったご褒美なのですわ」
「どういう事にゃ? アスだってかなり強いはずにゃよ?」
今度はアスが代わりにその答えを言う。
「リュークに襲われたのよ。ヴィラが居なかったら私、今頃は拐われてしまっているところだったよ!」
「そう言う事にゃか。それは残念だったにゃね?」
「ざ、残念ってどういう意味よ!?」
「そのままの意味にゃね!」
久しぶりに出たニケ節に、翔哉は彼女を叱りつける。
「ニケ! いい加減にしないと後でお仕置きだからね?」
「じゃあ、大人しくお仕置きを受けるから、今夜あたいの部屋に来るのにゃ! 待ってるにゃからね♡」
下心丸見えである。毎度の事だけに、もはや冗談で言ってるのだとしか思えない。そして、気を回したヴィラがニケにとっては余計な事を言う。
「では、私がお仕置きを代行いたしますので、今晩ニケさんの部屋にお伺いしましょう。痛い事がお好きですか? それとも精神的に来る方?」
「お前、本当にムカつくにゃね? あたいは女とやる趣味なんて無いのにゃ!」
もはや隠す事すらせず、露骨にそう言い放つニケ。
「やはり下心がお有りだったのですね? そんなにしたいのでしたら、別の殿方と致せばよろしいでしょう?」
「あたいこう見えても処女にゃよ! 初めての時くらい相手を選ばせてもらいたいものにゃね!」
衝撃のカミングアウトだった。あれだけ毎度のように下品な事ばかり言う事を考えたら、流石に嘘だろうと思った翔哉達は、メルの方に向かって視線を送り無言で問いかける。
そんな視線を一身に受けたメルは「ああ、それは事実だぞ」と端的に答えた。
恥ずかしい事を自ら暴露したニケは、目に涙を浮かべながら肩を震わせている。
恐らくその事を言えば、翔哉に少しは相手をしてもらえると思った彼女の、渾身のカミングアウトだったのだろう。
顔を真っ赤にしながら、ついに涙が頬をつたうニケ。そんな彼女の様子を見て、自分はかなり罪つくりな男なのではないかと、どうしても思ってしまう翔哉なのだった。
「なんかごめんねニケ。もうお仕置きするなんて言わないから泣かないでよ......」
翔哉は、わざと話の論点をずらした謝罪をして誤魔化す。
「むしろ、お仕置きをして欲しいのにゃ! そしたらもう泣かないと約束するのにゃ! 今晩ズブリといって欲しいにゃよ!」
涙を流しなからも、しっかり下品な事は付け加えてくるニケ。それはお仕置きではなく、もはやご褒美なのでは? と思う翔哉達を他所に、アスはそんな彼女に少し同情したのか、釣られてつい思ってもいない事を言ってしまう。
「良いわよ! 二番目ならね! その代わり一番は私! まだ私がしてないんだから、今晩はダメ! それでOK?」
「ほ、本当にゃか? あたいそれなら二番目でも良いのにゃ! 約束にゃよアス! 本当に約束にゃからね!」
本人を目の前にしながら彼の意思とは全く関係無しに、勝手に二人の間で公然と約束が交わされてしまい、流石に困惑してしまう翔哉。
そして、アスは言ってしまった直後に後悔する。
何故そんな事を言ってしまったのか、自分でも理解に苦しむ。当然、翔哉が自分以外の女とするなんて許せない。かと言ってニケとは約束したみたいな感じになってしまったのだ。
二番目とは言え他の女にやらせたくなければ、自分が我慢をするしかない。
「今晩、二人の部屋に行くのにゃ! あたい、二人がするところを見届けるにゃよ! そしたら次はあたいの番にゃね♡」
「どのタイミングでするのかまでニケが決めないでよ! 何時するのかは、私とショウヤの気持ち次第でしょ?」
「確かにそうにゃね......でも、それにゃと本当はやっているのに、いくらでもやって無いって言って誤魔化せるのにゃ!」
全くもってニケのご指摘の通りである。正直なところそんな考えもアスの頭の中には少しだけ過っていた。
しかし、基本的にフェアでない事は嫌いなアス。そうでも無ければとっくの昔に、ニケやメルの事を翔哉から遠ざけているはずだ。
「一応、それなりに付き合い有るわけだけど、ニケは私がそんな卑怯者だと思ってるの?」
「う~! 確かにそう言われると、アスはフェアな性格にゃ! それならもししたのにゃら、ちゃんとあたいに報告して欲しいにゃよ? そう約束するにゃか?」
本当はそんな約束などしたくはなかったアスだが、この流れになってしまった以上は仕方の無い事である。そう思い彼女は渋々ニケの提案を受け入れる事にしたのだ。
「わかったよ約束する!」
結局ハッキリとそう約束をしてしまったアスだったが、そもそも翔哉の気持ちを置き去りにして話を進めていたのは、半分わざとであった。
ニケのハーレム入りを許容したのは、あくまで二番目でも構わない彼女と、多少なりとも彼女に同情してしまった自分の意思に過ぎない。
即ちそれは、二人の間で勝手に交わした約束であり、翔哉の意思など全く関係の無い話である。
ニケとしては、翔哉がそんな事は出来ないと言ってしまえば、彼が約束した話では無い以上、拒絶されても文句は言えない事なのだ。
意外と強かな一面も見せるアスであったが、彼女はその反面、彼がもしニケの事を受け入れるので有れば、それはそれで自分も受け入れるしかない。そう思うのであった。
帰り道。いくら愛しているアスの事とは言え、あまりに自分の気持ちを無視して話を進められた事に少し腹を立て、無言で歩いていく翔哉。街の中に入りメルとニケの二人と別れた後で、彼はようやく話し出す。
「アス! どうしてニケとあんな約束をしたりしたの?」
「ごめんねショウヤ......あなたの気持ちを無視していた事はわかっていたの......」
「じゃあどうして?」
アスにはその理由を言う事ができなかった。そんな彼女の代わりにヴィラは話し始める。
「例えアスさんがニケさんを許容したとしても、ショウヤ様がニケさんの事を抱くとは思わなかったからですわよね? でも彼女の一途さにも多少、心を動かされてしまったのでしょ? だからアスさんの事を怒らないであげてください、ショウヤ様」
ヴィラの説明によって何となくアスの気持ちを理解した翔哉だったが、要は勝手に他者間で約束された上に、抱く抱かないの判断を丸投げされたと言う事なのだ。
これでは翔哉も、迂闊にアスの事を抱くわけにはいかなくなってしまった。彼女の性格からして、二人の初体験を致せば、約束通りニケに報告をするであろう。
そうなった時に、ニケから約束を守れと迫られて、約束したのは自分ではないとハッキリ言う自信が、今回ばかりは全く無いと思う翔哉。彼女の怒りよう、ショックの受けようが想像を絶するからだ。
悩む様子の翔哉に、ヴィラは再び言う。
「ショウヤ様の好きになさいまし。今回ばかりは、勝手な約束をしたアスさんが悪いのですわ。ハーレムは男の甲斐性なのです。アスさんも気持ちはわかりますが、自分が一番なだけ良かったと思ってそれを許容なさい!」
流石にそれは地球の現代社会では、時代錯誤もいいところな考え方だと翔哉は思ったのだが、アスは真っ直ぐに彼の目を見つめて短い言葉でハッキリと言う。
「私が一番なら良いよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます