魔王同士の密談
「これで邪魔者は消えたな!」
翔哉と対峙する巨人族の戦士がそう言ちる。
「我はティターン族のダイダラス。スズモリショウヤ、サシで勝負だ!」
そう名乗りを上げた巨人族の戦士に対し、翔哉は神剣であるアンチマテルブリンガーを鞘から引き抜いて答える。
剣を抜く必要など全く無かったのだが、ダイダラスと言う巨人族の戦士が並みの使徒達より強いという事を、翔哉は気配感知を使ってわかっていた。
それに加え作戦など労さずサシで勝負しようとする相手の、戦士としての矜持に対し、応えなければいけないと彼自身が思ったという事もあったのだ。
勿論、抜いただけで使う気など無いのだが。
「速さだけなら神がかっているようだが、強靭な我が肉体に傷一つ付ける事など出来まい!」
ダイダラスは、翔哉が動き回って疲労したところを仕留めようと考えているようだ。
彼がそう言った直後、翔哉の姿は消える。
それと同時にダイダラスの足元に疾風が走り、彼は闘技場の床に膝と手をついて崩れ伏す。
翔哉が目にも止まらぬ速さで、彼の両脚に蹴りを入れていたのだ。
「ぐぬぬっ! 何が起きたと言うのだ」
どうやらダイダラスはそのまま動けなくなってしまったようで、一向に立ち上がろうとしない彼に翔哉は問う。
「勝負はついたみたいですけど、まだ戦うつもりですか?」
翔哉の問いに対して、ダイダラスは敵わぬと悟り言う。
「降参するのは戦士の恥! 止めを刺すがよい......」
メルに言われたというのも有るが、翔哉自身、試合において相手を殺害する事はあまりしたくはなかったので、進行役の方に向かって一瞬で移動し、彼女にどうすれば良いかを質問する。
「巨人族の戦士は止めを刺すように言っていますが、そうしなければ勝敗はつきませんか? もう彼は戦闘不能みたいですけど......」
突然、目の前に現れた翔哉にそう言われた進行役は、一瞬だけ驚いた表情を見せるも、すぐに闘技場内に降りていきダイダラスの状態について確認をする。
「ダイダラスさん! 立ち上がれますか?」
「両脚とも骨が折れているようだ。立ち上がる事はできん!」
彼はそう言って突っ伏した状態から反転し、両脚を前方に投げ出す。
「ダイダラス選手は行動不能のようなので、勝者はショウヤ選手となります!」
進行役の獣人女性から翔哉の勝利宣言がなされた。
「ぐっ、無念だ!」
降参する事は戦士の恥と言ったダイダラスだが、進行役に敗北宣言をされては仕方がない。上手く逃げ口を作ってもらった事で、彼はあっさりと負けを認めたのだった。
観客席の一画で観戦していた仲間の巨人2名が降りてきて、二人がかりで彼を正面の大扉から場外に運び出す。
「予選でこうもあっさりと負けてしまうとは、族長に合わせる顔がない」
仲間の二人に対しそう述べるダイダラス。彼は次の族長候補と言われており、ティターン族の中では現族長であるガイラフに次ぐ実力者だったのだ。
それだけに仲間内では、予選での敗北など絶対にあり得ないと言う雰囲気だったのだろう。
彼が場外で応急処置を受けている間に、D2以降の試合は進行していく。
「お疲れ様ショウヤ! 予選突破おめでとう! とっても凄かったね」
アスは控えの間に入って来た翔哉に真っ先に駆け寄り、彼に労いの言葉をかけた。
「ありがとうアス。何とか予選は突破する事ができたね」
「一瞬で終わらせといて何を言ってるにゃか! ブッチギリだったのにゃ!」
「巨人族の戦士まで殺さず倒せるなんて、むしろ圧倒的な実力の差でもないと無理だからな」
「カッコ良かったですわ!ショウヤ様♡」
後からゆっくりと近付いてきたニケ、メル、ヴィラの三人も其々が労いの言葉を順にかけた。
そして、ディアナは遠くの方から、その様子を羨ましそうに見ていた。
Hグループ1番を自ら選んだバルバトスは、翔哉の方を見ながら思案顔をしていたが、すぐにディアナの方へ近付いていき彼女に声をかける。
「我は東の魔大陸で魔王をしているバルバトスだ。お前は西の大陸の魔王なのであろう?」
「あら、あなたもやっぱり魔王だったのね! 私はディアナよ。それであなた、この私に何かご用なのかしら?」
「お前、あのショウヤと言うマリーザの使徒に興味が有るのではないか?」
「その通りね! この大会に優勝して彼を賞品としてもらうつもりよ」
「どうやら考えている事は、我と一緒のようだな?」
「はぁ? あなた男色趣味なの?」
「馬鹿を言うな! 我は男色趣味などではない! 我の目当てはあのアスと言うハイエルフの少女だ!」
「なるほどね~。理解したわ! お互い協力しようって事ね?」
「そう言う事だ。順調に勝ち進めば、お前は準決勝でかの者と当たるであろう?」
「何? そこで私が彼に勝ったら、あなた決勝でわざと負けてくれるとでも言うのかしら?」
「その逆だ。決勝では我に勝ちを譲って欲しい」
「お話にならないわね! それじゃ私が彼を賞品としてもらう計画が成り立たないじゃない!」
「上手くやればその心配は無い。この二つの魔道具をお前に託そう」
そう言ってバルバトスは、妖しげなデザインの細工が施された鉄の砲と、紫色に光る宝石のような弾10発分を渡し、彼女に耳打ちしたのだ。
「ふ~ん、まぁ確かに面白そうな感じはするわね~。良いわ! その話、乗りましょ!」
どうやら二人の間で話が纏まったようである。
一方、翔哉達は後の試合を観戦する事に集中していたのだが、結局1番以外のDグループは、これと言って彼のライバルになりそうな選手もおらず、全ての試合が消化されE1の試合が始まったのである。
Eグループ1番から3番までは、やはりこれと言って強い選手はいないようだったが、最後の4番にはあのリュークの名前が有った為、翔哉達にとってそのグループが注目の対象になっていた事は言うまでもなかった。
「リュークって元々、強力な魔法使いだったの?」
翔哉はリュークと一言二言、話をしただけなので彼の事はよくわからなかった。その為、翔哉はアスに彼の事について質問してみたのである。
「ううん、そんな事ないわ! 彼は剣や弓も全然才能が無くて、魔法だって初級が少し扱えた程度だったはずだよ?」
「でも、シグルスって言う人を圧倒してたよね?」
「そうなんだよね......まぐれなんかであんな事できるわけ無いし、いつの間にあんな強力な魔法を使えるようになったのか、本当に不思議なの」
「何だか凄い厳ついデザインの大きな弓も持ってたね?」
「そうだね......部族の宝物庫にもあんな武器なんて置いて無かったはずなんだけど、一体どこで手に入れたのかさえわからないわ......」
二人の会話に割り込むように、ニケもリュークについて質問する。
「リュークって奴も使徒なのにゃか?」
「ううん、違うわよ」
「使徒でもないのに、あの戦闘力なのにゃか!? あたいちょっと自信を無くしたにゃよ~」
うん、ドンマイ、と言うしかない感じだったが、それもそれでニケを怒らせてしまいそうだったので、翔哉達は皆なんと言って良いかわからずに黙っていた。
微妙な雰囲気の中、アスはリュークについて気になった事を言ちる。
「そう言えばバルハーラ族は、どうやって武闘大会の事を知ったんだろう......オババ様、無事かな~?」
バルハーラ族は女神であるマリーザを裏切ったのである。即ち自分同様、マリーザの巫女であるオババも何らかの危害を加えられている可能性は高い。
しかし、彼らが大会の事を把握していたと言う事は、少なくとも命までは取られていないとも考えられた。
初めて聞く名前に翔哉は質問する。
「オババ様って?」
「女神の巫女だよ! 私の育ての親みたいな人でも有るの......」
「それじゃ余計に心配だね? オババ様、無事だと良いね!」
「うん、リュークが大会について知っていたって事は、オババ様がまだ殺されてしまってはいないって事だって考えたいよね!」
翔哉達がそんな会話をしている間にも、Eグループの1~3番の試合はどんどん消化され、ついにリュークが属するグループの、試合開始の合図はかかったのであった。
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