新たなスキルの真価



「僕の名前は涼森翔哉です。一応、女神の使徒をしてます。よろしくお願いします」


「スズモリショウヤ? 変わった名前ねー。それとあなた亜人じゃないわよね? 今時、人間なのにマリーザの使徒なんて凄く珍しいわね!」


 翔哉の自己紹介に対して、魔王ディアナは興味津々にいろいろ質問を始めた。


「僕はこちらの世界の人間じゃないんです」


「召喚者って事ね? マリーザも異世界人を召喚なんてするのね?」


「いえ元々、外界の帝国に召喚されたんですけど、僕だけ何故か女神の使徒だったみたいなんですよね?」


「僕だけ? 先日、街中で聞いたけど、エルサルーム帝国が大量に異世界人を召喚したって話は本当だったのね!」


「ええ、向こうの世界で高校ってところに通っていたんですけど、そのクラスメイトごと召喚されたみたいなんです」


「いよいよハーベも本気でこの世界を滅ぼす気なのね!」


 世界を滅ぼすと聞いてアトラが反応する。


「やっぱりこの世界もそうなっちゃうのね? ショウヤ様に頑張ってもらわないと、真剣にまた移転先を考えなければいけなくなっちゃうわね!」


 移転の言葉にニケが反応する。


「移転って、一度した事があるにゃか?」


「そうよ! 一度どころか何度もね。毎回世界が滅ぼされる度に、ハーベの意思なら仕方がないって思って諦めてたけど、正直な話、もういい加減にしてよねって思うのよねー」


「何だ、お姉さんドリュアスと融合してるのか?」


 ディアナはその事に気づいたようだ。


「あっ、私はアストレイアって言います。成り行きでそう言う事になってしまいました」


 アスの自己紹介にはあまり関心が無かったようで、ディアナはそれを軽く無視して話題を変える。


「ところでショウヤは普通の使徒じゃないわね? 何か魔力とか人間の持っている生命力とかとは違う種類の力を感じるんだけど」


「さあ、どうなんでしょうね? 実は自分にもよくわからないんです。ただ、一つ言える事が有るとすれば、マリー...マリーザ様は僕の事を以前から知っていたような口ぶりだったって事ですかね?」


「口ぶり? まさか直接会った事が有るとでも言うのかしら?」


「実体では無かったみたいですけど、会いに行ってその姿は見ましたね。勿論、話もしましたよ」


「それはかなり凄い事よショウヤ! 私だってサタン様の声がたまに何となく聞こえる時が有るくらいで、実体じゃないとしても、その姿を見た事なんて一度もないんだからね!」


 ディアナの驚愕する表情を見る限り、彼女の言っている事は本当のようだ。


 魔王というポジションであっても、その主に会うなんて事は無いと言う話に、翔哉達も驚きを隠せないようであった。


 それだけ使徒と言われる存在でも、指令元のボスに会えるという事は、かなり希な事だと言う事を物語っていた。


「でも、過去にも何人か会った使徒がいるって伝承には有るから、マリーザ様って比較的、会いやすい感じの女神様なんじゃないかな?」


 アスはそう言ったのだが、ディアナはその意見に対し否定的な事を言う。


「私の先代も千年以上、魔王をやってたらしいけど、一度もサタン様に会った事なんて無いって言ってたぞ? 私だって魔王になってから、かれこれ500年近く経つけど、さっき言ったように一度も会った事なんて無いしな。神や悪魔王なんて本来そんな身近な存在じゃないはずだ!」


 ディアナの意見に対し、翔哉がマリーザに会った時の事を思い出して、彼女に同調するような事を言う。


「そう言えばマリーザ様も転移陣に鍵が必要な理由を、頻繁に使徒に来られたりしたら困るみたいに言ってたね......」


「マリーザ様がそんな事を言ってたのか? まぁ確かに頻繁に会いに行けるわけでも無いけどな。とにかく、樹海の民に伝わる話では、過去に何人かは会いに行った者がいるて言うのだけは事実だ!」


 メルはとりあえずそう言って、その話を一旦締める。


「まぁ、それは良いとして、ショウヤ! あなた結婚はしているの? 良かったら私の夫にならない?」


 ディアナがそんなとんでもない事をさらりと言い出す。


 一瞬、驚きのあまり固まる翔哉だったが、すぐに我に返ってキッパリと断りを入れる。


「あっ、ごめんなさい。結婚はしていないけど、僕はアスと付き合っているのでディアナさんとは結婚できません!」


「何だそうなの...それは残念ね......まぁ、とりあえず良いわ! それならサクッと優勝して、賞品としてもらうことにするからね!」


 その発言にアスは当然、過敏に反応する。


「賞品って、まさかショウヤの事を言っているんですか!?」


「ああ、その通りだ! マリーザからの招待状に、中央大陸の大樹海で開かれる武闘大会に参加して優勝すれば、欲しい物を何でもくれると有ったからな」


「だとしても、ショウヤの事を勝手に賞品扱いしないでください!」


「何でも良いなら、私が何を望んだって自由だろ?」


 そう言って二人は互いに目線を合わせ、激しく火花を散らす。


「マリーザ様がそんな事、認めるはずが有りません!」


「さあ、それはどうかな? とにかく私は優勝して、ショウヤを西の大陸に連れ帰ると決めたのだ! お前には悪いけど、そうさせてもらうぞ!」


 話は終わったとばかりに、ディアナはそう宣言した後、何処かへ向かって去って行ってしまった。


 リュークやシグルス、この間の魔王とのやり取りを思い出したアスは気づく。ショウヤは自分と似た者同士なのではないかと言う事を。



 そして、Cグループの試合も4番まで終わり、いよいよ翔哉の出番となる。


「じゃあ皆、行ってくるね!」


 翔哉は軽く手を上げて四人に挨拶し、入場口の方へ向かい歩き出す。


「頑張ってね!ショウヤ。怪我したりしないでね!」


「相手は使徒や樹海の民が多いんだ。やり過ぎて殺したりするなよ! 適当に手を抜いてやれよな!」


「いよいよショウヤの出番にゃね! あたいも緊張するのにゃ!」


「ショウヤ様! くれぐれもお怪我などなさらぬよう。私、ショウヤ様のご活躍をお祈りしておりますわ」


 アス、メル、ニケ、ヴィラの順に言葉がかけられ、翔哉は後ろ向きのまま手だけ上げて彼女達のエールに答えた。


 D1に属する選手達は誰もが皆、屈強そうであったが、その中でも特に気を引いたのは、体長が10メートル以上は有りそうな巨人族の戦士であった。


 その大きさ故に、選手達が集まる広間に入る事が出来なかった巨人族達には、一般観覧席の一画に居場所が設けられており、自分の出番となった一人の戦士が、そのまま勢い良く闘技場内に飛び込んできたので余計にそう感じたのかも知れない。


 全員が入場を終えたところで、狐の獣人女性の進行役が試合開始の合図をかける。


「それでは試合開始してください!」


 試合開始の合図と共に、優勝候補と目される翔哉の周りに多くの選手が集まってくる。お互い潰し会うよりも共闘して、まずは優勝に近い存在を先に倒してしまおうと言う事なのだろう。


「まずは、お手並み拝見といこうか」


 巨人族の戦士が独りそう言ちる。


 翔哉に対し攻撃をかけるタイミングを見計らっていた選手達だったが、一人の戦士が堪らす動き出したのを皮切りに全員が一斉に動き出す。


「能力制御!」


 そう言葉を発した翔哉の姿は一瞬で消えてしまう。


 突然、消失してしまった彼に、戸惑う選手達。


「うっ!」


「ぎゃっ!」


 短い呻き声を上げて、彼らは次々と倒れていく。


 僅か数秒で翔哉の周りに集まっていた選手達は、全員が闘技場の床に倒れ伏していた。


「マリーからもらったスキル、思ったよりも使えるね!」


 そう独り言ちる翔哉。


『能力制御』とは各ステータスの能力値を自在に調整するスキルだったらしく、翔哉は今回、敏捷を上げて腕力を極端に下げていたのだ。


 メルに言われた事もあり、殺害してしまっては寝覚めが悪いと思った翔哉は、当然の事ながら剣を抜くなどしてはいなかった。


 即ち翔哉にかかろうとしていた全員を、彼は拳なり手刀なりで倒してしまったわけである。


「サシで勝負がしたいな!」


 巨人族の戦士はそう言ちると、巨大な棍棒を振り回し残った選手達を次々と倒していく。


 気付けばDグループ1番の選手は、翔哉と巨人族の戦士の二人だけになっていたのだ。

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