武闘大会の参加者達



「やはりどうしても旦那様としか思えませんわね......」


 そう言ちるヴィラドリアは、元々だいぶゆとりの有る感じのワンピースを着ていたとは言え、胸が異常にくっきりと目立ち、丈も短くなった為に大腿部が殆ど露出していて、目のやり場に困るあられもない姿となっていた。


「えっ!? ど、どうなってるの!?」


「私には旦那様の正妻であるミコトと言う女性から受けた、幼体化の呪いがかかっておりますの。ミコト、ミコトですわよ?旦那様?」


「はぁ...そう言われても、そんな女性は知らないです......」


「そうですわよね......一応、念のため聞いてみただけですわ。それにしても、この呪いは旦那様の血液で一時的に解けるのですが、旦那様以外の血液では今まで解けた事など一度もありませんでしたのよ?」


 彼女の張りの有る形の良い胸が、翔哉の胸部に当たっている。その為これはアレがまずい! と感じた翔哉は、彼女に退いてもらうよう促す。


「あ、あのー、ヴィラドリアさん? そろそろ退いていただけないでしょうか?」


「ショウヤ様? 私の事はこれから、ヴィラとお呼び下さいませ」


 そう言ってようやく翔哉の上から降りるヴィラ。彼女は目の前に立つので、見えそうになっているあの際どい処がモロ彼の目線になっていた。


 とりあえず詳しい事情については、国に帰ってからと言う事になり、すぐに元の幼女の姿に戻ってしまったヴィラを保護した翔哉達は、ついに獣人国の集落が見える丘までたどり着く。


 丘の上から見える国の様子は、いつもよりもかなり賑わっているように見えた。


 遠巻きに見える街の中の様子は、明らかに獣人族以外の種族が多く闊歩しており、既に武闘大会開催の啓示が各部族にも下されていたであろう事が伺えた。


「そう言えば武闘大会って獣人族の国で行われるのかな?」


 翔哉の独り言にメルが反応して逆に質問する。


「それについて、マリーザ様に直接聞いてはいないのか?」


 直接の文言に今度はヴィラが反応する。


「直接聞く? この世界ではマリーザに直接会う事ができるのですか?」


 ヴィラの再三に渡る女神様に対する言い様に、メルはまた逆に二つばかり質問を返す。


「この世界? ヴィラは違う世界から来たって事なのか? それとその言い様からしてヴィラの世界でマリーザ様は、やっぱり邪神扱いでもされているのか?」


「ええ、どうやらそのようですわね。マリーザについては、特に邪神扱いされていると言うわけではなく、私達の目的を単に妨害している相手と言うだけですわ」


「そうか。とにかく落ち着いたら、詳しく話を聞きたいものだな」


 そう言って一応、納得した様子のメル。


 ヴィラは先程の質問に対する答えを催促するように、翔哉に対し視線を送って催促する。


「あー、さっきの質問に対する答えだよね? どうも実体じゃないみたいだったけど、その姿を見る事と、話をする事は出来るみたいだったよ。だから僕はまだドウテ...いや、何でもない」


「まだドウテ? 何ですの?それは」


 ヴィラから執拗にそこを突っ込まれ、翔哉はしどろもどろになりながらも何とかはぐらかす。


「僕はまだ、ドウシテももう一度、女神様に会って、彼女と自分の事について、いろいろと知りたいと思ってるんだよ......」


「ショウヤ様は、自分の事がわからないとおっしゃるのかしら?」


「うん、何だかいろいろと有りそうな事だけは、何となくわかってきてはいるんだけどね。どうも僕のこの力についても、元々持っている力みたいな口ぶりで女神様は話していたみたいだったし」


「その話を聞くと、ますます旦那様に似通っている点が多いと感じますわね! 因みにショウヤ様はスズモリショウタと言う名に聞き覚えはございませんでしょうか?」


「う~ん、僕の名前と殆ど同じだね......あっ、そう言えば僕がまだ生まれるちょっと前に、川で溺れて死んじゃったって言う従兄弟の名前が確かそうだったと思うよ! 確か二年くらい前にいきなり行方不明になっちゃった、メロちゃんのお兄ちゃん」


「なるほど、そう言う事でしたのね! メロさんは今、私達の仲間ですわよ!」


「えっ!? じゃあ、メロちゃんも別の世界に召喚されてたって事?」


「そのようですわね」


 二人だけにしかわからない意味不明な会話に、アスは少し嫉妬し、無理やり話を切ろうとする。


「とにかくここではなんだし、早く首長さんの屋敷に戻って、少し落ち着いてからまた話しましょ!」


 彼女の提案により、翔哉達は再び黙々と歩き出す。


 途中、初めてニケ達に出会った所を少し過ぎた辺りの開けた場所で、巨人族が勝手に野営を張っているのを目撃し、ニケは彼らに対し文句を言いに行く。


「ここの責任者は誰にゃ!?」


 体長が10メートルは有りそうな巨人の一人が、彼女の問いに対応する。


「我らが巨人族の長、ガイラフ様だ! ちびっこいの、長に何か用でも有るのか?」


「あたいはそんなにチビな方ではないのにゃ! ここは獣人族国の支配範囲なのに、何でここに野営を張っているのにゃか!」


「我らも大会参加者だからだ。お前、聞いてはいないのか?」


「たった今、国の外から帰って来たところだったにゃから、聞いてなかったにゃよ」


「まぁそう言う事だ。街中で我らが滞在する場所など無いのでな」


 理由を聞いて納得したニケは「聞いてなかったとは言え、済まなかったにゃ」と謝罪をして、翔哉達に先に進むように促す。


 それから30分ほど歩き、ようやく街中に入ったところで再び事件は起きた。


「アス!」


 翔哉達の後ろからアスの名を呼ぶ男の声がする。四人が振り返ると、そこには長いプラチナブロンドをオールバックにした、透き通るような碧眼の、一人の若い男が立っていたのだ。


 アスは彼の名を叫ぶ。


「シグルス!」


「久しぶりだなアス! まさかお前も大会に参加するのか?」


「私はまだ参加するかどうかわからないわ」


「そうか。まぁどっちにしろこの俺が、ブッチギリで優勝するに決まってるからな! お前がわざわざ参加しなくても、俺が統一国家の王になって、お前を妃に迎えてやるから期待して待ってれば良いさ!」


 リュークもそうだが、シグルスと呼ばれたこの男も、どうやら勝手にアスを自分の女扱いしているようである。


「何度も言っているけど、私あなたと結婚する気なんてないわよ!」


「はは、いつもの事だが照れ隠しが相変わらず下手な女だな、アスは」


 当然の事だが、翔哉はアスに彼が誰なのかを尋ねる。


「アス、彼とはどういう関係なのかな?」


「ショ、ショウヤ...大丈夫よ! 彼とは何でも無いから! 彼は隣のデーン族って言う部族の使徒でシグルスって言うの」


「そう言う事だ! 俺はアスの婚約者なんだ!」


 勝手にそう宣言するシグルスに対し、アスはキレ気味に言葉を返す。


「ふざけないでよ! 何時あなたと私が婚約したって言うの!」


「ずっと前からそう決まっていただろ?」


 そう言いながら、ゆっくりとこちらに向かって歩き出すシグルス。しかし、突然、彼の周囲に激しい気流が発生しその行く手を阻む。


「その辺にしとけ!シグルス」


 翔哉達がその声の方向を見ると、そこに立っていた人物はシグルス同様アスを自分の女扱いしている、あのリュークだったのである。


「くっ! リュークか! 何なんだこれは! 体が全く動かん! まさか精霊魔法なのか?」


「その通りだ!シグルス。俺のアスに手を出そうなんて万死に値するぞ! 大会を待つまでもない! この場で殺してやろうか?」


「くっ! いつの間にこんな力を! あの軟弱リュークがこの俺を殺す? 笑わせるなよ!」


 シグルスはそう言って強がってみせたが、どんなに頑張っても一向に気流の中から抜け出せそうな気配はしない。


 必死でもがく彼に対し、荘厳なデザインをした大弓を構えるリューク。


「お願い止めてリューク! 人殺しなんてしないで!」


 アスにそう請われて、リュークは弓を下ろし魔法を解く。


 自由になったシグルスは、剣を抜きリュークに襲いかかろうとするが、彼もまたアスに一喝されてしまう。


「止めて!シグルス! そんなに殺し合いがしたいなら、大会で決着をつければ良いでしょ!」


「ふん! 命拾いしたなリューク! アスがそう言うから、今日のところは引き下がってやる! 大会で必ず殺してやるから、くれぐれも予選落ちなんてするんじゃねーぞ! 首を洗ってまっとけ!」


 そう言って踵を返し去っていくシグルスに向かって、リュークは不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。


「命拾いしたのはどっちだろうな」


 更に彼は翔哉に視線を向け宣言する。


「確かショウヤと言ったな? 俺のアスに手を出したりしてないだろうな? 大会できっちりお前との決着もつけてやるから、楽しみに待っているがいいさ!」


 最後にリュークはアスに対して下卑た笑みを向けると、彼もまた何処へと去っていくのだった。


「ハイエルフにも血の気の多い奴がけっこういるのにゃね」


 ニケは独りそう言ちていた。

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