ヴィラドリアの事情
首長の屋敷に到着した翔哉達は、ベガールから、改めて与えられた神託の内容についての説明を受けると同時に、ヴィラの事情についての話しも行っていた。
「大会が行われる場所は、かつて統一国家が有ったとされる廃都と言う指定を受けておりますね。ですので参加者が全員この国に集まり次第、一斉にそこへ向け移動すると言う事になります」
「せっかく帰って来たのに、またあそこに戻るのかよ~」
メルは思わずそう愚痴を溢す。
「今回の大会には使徒だけでなく、多数のゲスト参加が決まっているので、参加者が集まりきるまでしばらくは時間が空くと思いますよメル」
ゲスト参加の文言にアスが質問をする。
「何となくそうなんじゃないかとは思ってましたけど、使徒以外の民も参加するって事なんですよね? ここに来る途中で、大会に参加するって言う、使徒ではない知り合いに会ったもので」
「勿論それもそうなんですが、実は別の大陸からやって来るゲストも大勢いるようですよ」
ベガールの話にニケは疑問を投げかける。
「使徒じゃない樹海の民だけならまだしも、別の大陸から来た完全な部外者に、統一国家の王になられたりしたら洒落にならないにゃね?」
「その心配がいらない事は、ニケが一番よくわかっている事なのではないですか? 実はこの国限定で、ショウヤ殿の優勝が決まっていると言う神託は受けているのですよ」
「そうにゃったにゃか! マリーザ様も粋な事をするにゃね!」
「ん? でもニケの論法だと、それこそ異世界人で、しかも人間の僕なんかが王様になっちゃっても良いのかな?って、どうしても思ってしまうけど、獣人族の皆はそれで納得しているんですか?」
翔哉の質問に対してベガールは言う。
「勿論、全員と言うわけには行かないでしょうから、その件についてだけは伏せてあります。しかし、何よりマリーザ様のご意志ですし、ショウヤ殿の力を目の当たりにした者達からしてみれば、全員が賛成するのは間違いないでしょう。私もショウヤ殿が王と言う事には当然の事ながら納得していますよ」
「伝統的に獣人族の者は、強い者に従うのが習わしにゃ!」
「ははは、いつものニケらしい答えですね!」
「ショウヤが王様になったら、あたいは第二婦人にゃね? 一番は仕方がないから、アスに譲るにゃよ」
ニケの言い様に対し、アトラが口を出す。
「第二は私なんですけどー! 何しろアスちゃんと私は一心同体なんだからね! あっでも、一心同体って事は私も第一婦人って事になるのかー! やったねー嬉しーい☆」
聞き慣れない声がアスの方からして、驚いた表情のベガールに対し彼女は続けて自己紹介する。
「あっ、首長さんはじめまして~! 私はアスちゃんと軽~く魂を融合させてもらってます、ドリュアスのアトラティエって言いますぅ。よろしくねー☆」
「ショウヤ殿はあの気難しいドリュアスまで仲間に加えられたのですね? 流石です! ところでそちらのお嬢さんは?」
翔哉が説明する前に、ヴィラも彼に先んじて自己紹介を始める。
「私はヴィラドリアと申します。わけあってショウヤ様に保護していただきましたので、その件についてこれから説明させていただきたく存じます」
「これはまた小さいのに、ずいぶんとしっかりしたお嬢さんですね?」
「私こう見えても1,023歳でございますのよ?」
ヴィラから自身の年齢を聞いて、その場の全員が驚愕する。翔哉達もまだ彼女の年齢を聞いてはいなかったのだ。
「その見た目でその年齢とは、俄には信じられませんね」
「私ヴァンパイアですの。ショウヤ様? またこの場で血を頂いてもよろしいかしら?」
どさくさに紛れてまた翔哉に血を要求するヴィラ。論より証拠と言う事なのだろう。
翔哉がえっ? また? と言うような表情をしているのを見て取ったベガールは「ここで直に見せて頂かなくてもヴィラドリアさんの言う事を信じますよ」と言って、この場で実演してもらう事については遠慮した。
「そうですか......それは残念ですわ」
また吸血できる機会を逸して、ヴィラは非常に残念そうである。
「て言うかヴィラって、食事の度に血を吸わないといけないのかな?」
翔哉の質問を受けたヴィラは、悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「そうなんですのよ。ですので皆さんがお食事の際には、私にはショウヤ様、よろしくお願い致しますね☆」
「やっぱりこの女、危険だにゃ! 拘束して地下牢にでも閉じ込めておくにゃよ!」
ヴィラの話を本気にしたニケがそう叫んだ。
「ニケさん酷いですわ......私に餓死をしろとでもおっしゃるのかしら?」
「でもその話が本当なら、ヴィラの食事をどうするのか真剣に考えないとだな。アス、お前が血を吸わせてやったらどうだ?」
メルも本気にしているような感じで、そんな冗談を言う。
「えっ!? 私が?」
アスはあからさまに嫌そうである。
「冗談ですわよ。皆さん本気にしないで下さい。ちゃんと普通のお食事もできますわよ」
ヴィラからそう聞いて、ひとまず安心する翔哉達。
「この女、あわよくばショウヤの血を食事の度に吸わせてもらうつもりだったのにゃね!」
ニケの一言にヴィラは明後日の方を向いて誤魔化していた。
「それで、どう言った事情でヴィラドリアさんはショウヤ殿に保護される事になったのですかな?」
「私どうも、こちらの世界の者ではないようなのです。事情が有ってこちらの世界で女神として信仰されているマリーザに会いに行く途中で、彼女の張っていた転移トラップにかかってしまったようで、レムリア大陸と言う場所からこちらの世界の樹海に飛ばされてしまったようなのです」
「何とも、これまた俄には信じられない話ですね? それで、樹海を彷徨っていたところをショウヤ殿達に保護された、と言うわけですな?」
「ええ、その通りでございますわ」
「マリーザ様に会いに行かなければならなかった、その事情についても是非知りたいものだな」
実際まだ完全にこちらの世界の者に対して、害意が無いとハッキリしているわけではないと思っていたメルは、その辺りについてもしっかり説明を求めたいと考えていたのだ。
「相当に複雑な話なのでかなり長くなってしまいますが、それでもよろしければお話致しますが?」
「ああ、勿論構わないさ」
「ショウヤ様の従兄弟であるロキと言う方は、私の旦那様なのですが、その方の第一婦人でいらっしゃるミコトと言う女性が、彼女にとっての本当の旦那様と一緒に、永久牢獄(コキュートス)の中に閉じ込められてしまったのです」
「何だか本当に複雑そうだな! で本当の旦那って、どう言う事なんだ?」
「そこも説明を求めますか? 相当長くなってしまいますが、それでもよろしければそういたしますが」
「いや、そう言う事なら構わない。先を進めてくれ」
「マリーザがミコトさんの本当の旦那様であるアーシェスと言うお方の魂の欠片を囲っておりまして、彼女達を救い出す為には、その魂の欠片をこちらに取り戻す必要が有るのです」
「でもヴィラに呪いをかけたのは、そのミコトって言う女なんだろ? 何でそんな奴を助け出そうなんてしてるんだよ!」
「何より旦那様の意思だからです。それにミコトさんが私に呪いをかけたのも不可抗力みたいなものでしたし、彼女にしか私にかけられた呪いを解く事が出来ないのですわ」
何度も出てくる呪いの文言が気になって、ベガールは質問をする。
「先程から出てくるその呪いとは、一体どのような物なのでしょうか?」
「私にかけられた呪いは、体が幼体化してしまう物でして、本当の私の姿は大人なんですのよ。旦那様の血を吸う事で一時的に解呪されるのですが、どうやらショウヤ様の血液でも同様の効果が得られるようなのです」
「なるほど、大体の事情はわかりました。それでヴィラドリアさんは、これからどうなさるおつもりなんですか?」
「当然、仲間達の所に帰りたいとは思っておりますが、この世界の事もまだよくわかりませんし、とりあえずは状況を正確に把握した上で、今後どうして行くのか考えたいと思いますわ」
概ねヴィラの事情もわかり、それほど危険は無いと判断したメルは、一旦その場を締めようと思い首長に向かってお願いをする。
「そう言う事なんでベガール首長、しばらくの間、首長の屋敷で彼女の面倒を見てやってもらえませんか?」
「わかりました。それではヴィラドリアさんにはしばらくの間、私の屋敷に滞在してもらう事にしましょう」
話が纏まったところで、メルとニケの二人は兵舎へと帰り、翔哉とアスはヴィラと共に大会が始まるまでの間、首長の屋敷で食客として世話になる事になったのである。
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