三章

謎の幼女



 宝物庫に入っていた物の中には、弓や槍、爪付きのグローブなどの武器も置いてあり、どれも荘厳なデザインの装備だったが、翔哉達はアイテム等も含めそれらを夢中で物色していた。


「この中の物、何でも持って行って良いのかな? ご丁寧に説明書きのプレートまで置いてあるね!」


 翔哉がそう言うと、アスは自身の考えを述べる。


「特に数の制限とかはしていなかったみたいだし、確か好きな物を持って行って良いって言ってたと思うから、好きなだけ持って行って良いって事なんじゃないかな?」


「じゃあこれ全部いただいちゃおうか!」


 翔哉の意見に対しメルは突っ込みを入れる。


「全部って、こんなにたくさん持ちきれないだろ?」


「うん、でも持って行ける手段が有るっぽいよ!」


「持って行ける手段? それって本当か?」


 メルにそう聞かれて翔哉が指差した方向には、腰に下げるタイプのバッグが置いてあり、メルはその説明書きを読み上げる。


「四次元ウェストバッグ。大きさが3メートルまでのアイテムを無限に収納できる!? ってなんだよそれ! 凄いじゃないか! で、出す時は出したい物の名前を言えば良い。万が一名前を忘れてしまった時の為に、メモを残す事を推奨する。だってさ」


 そう聞いたニケはプレートだけを次々と自分のバッグの中に入れ始めた。薄いプレートなので、それほど嵩張る事も無いようだ。


「ニケちゃんやっぱり天才だね!」


 つい二人だけの時にする口調でそう叫んでしまうメル。


 彼女の行動に呼応するように、今度は翔哉が四次元ウェストバッグを腰に装着し、片っ端からアイテムをその中に入れ始めた。


 ヘヴィメタチックなそのバッグは、なかなかカッコいいデザインで、今の翔哉の服装によく似合っている感じだ。


 全部バッグに入れ終わると、ニケがプレートに書かれているアイテムの名前を読み上げ、翔哉が一つ一つ取り出して、一個ずつ現物合わせを行う。


「アキュムレイトボウ。未使用時に霊気を少しずつ溜めておく事ができる弓。にゃってショウヤ」


「アキュムレイトボウ!」


 ニケの説明を受け、ショウヤが四次元バッグに手を入れながらアイテム名を叫ぶ。


 取り出した荘厳なデザインの弓をアスに渡し翔哉は言う。


「説明書きからして、これは普段から持っていた方が良さそうだね」


「うん、凄くちょうど良いタイミングで手に入った感じの弓だね!」


 そう聞いたメルも「私達も武器くらいは新しい物に変えたいな」と言って翔哉に出すよう催促したので、ニケが槍と爪のプレートを探しだして再び読み上げる。


「ニルヴァーナ。対象の魂ごと貫く事ができる槍。ドラゴンクロウ。成龍の爪を素材にして作られた肉弾戦用の武器」


 ニケの説明を受けたメルは、その内容に驚愕して叫ぶ。


「何か凄そうな説明文だな! 魂ごとって一体どう言う事だよ!」


「あたいの方はなんか普通にゃね」


 ニケは普通な感じの説明文に少々、落胆気味である。


 いずれも荘厳なデザインの如何にも強力そうな武器を二人に手渡し、その後、残りのアイテム確認を終えた翔哉達は、宝物庫を出て意気揚々と獣人族の国に向け歩き出すのだった。



「能力制御って何の意味が有るんだろうね?」


 新しく付与されたスキルを確認した翔哉がそう言ちる。


「ハーピークイーンが言ってたやつと同じような物なんじゃないかな?」


 アスは翔哉の独り言に対しそう答えた。


 とりあえずよくわからない物について考えていても仕方がないので、その件についてあまり気にしないようにして先を急ぐ事にした翔哉達。


 途中、トレントの支配範囲を通る際に、また彼らの妨害を受けそうになったのだが、アトラが出てきて彼らを一喝してくれたおかげで、そこについては難なく通り抜ける事ができた。


 そして、獣人族の国まであと残り1日、と言った場所まで差し掛かった所で、事件は起きたのである。


「旦那様!」


 そう叫んで茂みの中から突然飛び出して来て、翔哉に勢い良く抱きつく一人の幼い少女。


 ペールブロンドの髪に真紅の瞳を持つその少女は、翔哉に抱きつきながら言う。


「旦那様ーっ! 一人で心細かったですわよ~。もう私を一人ぼっちにさせないで下さいませ~!」


 旦那様と言う彼女の言い様に、アトラが過敏に反応する。


「ショウヤ様の事を旦那様って呼んで良いのは、私だけって事に決まっているんですけど!」


 突然の事態に驚きはしたものの、翔哉は少女の背中をさすりながら優しい口調で問う。


「君みたいな小さい子がこんな所に一人でいるなんて、一体どうしたんだい? お父さんとお母さんは?」


「たった一日、離れ離れになっていただけで、そんなおっしゃり様するなんて、あんまりですわ旦那様! ふざけるのも大概にして下さいませ!」


「僕の名前は涼森翔哉。誰かと人違いでもしてるのかな? 君の名前は?」


「ですから、ロキ様ですわよね!? 私ヴィラドリアでございますわよ! ん? ショウヤ??」


「ロキ? 誰なんだい?その人は」


 翔哉の反応に何かを思った少女は、ニケの方を見ながら彼女に向かって聞く。


「クロミちゃん、その二人の女性はどなたですの?」


「クロミ? あたいの事を言ってるにゃか? あたいの名前はニケって言うにゃよ?」


「そう言われてみると、見た目と声と口調は似ているけど、瞳の色は違いますわね......」


 やっと人違いである事をわかってもらえたらしく、彼女はそれ以降、何かを考え込んでいるように口をつぐんでしまう。


「この子もかなり疲れているみたいだし、ここで少し休憩を入れようか?」


 翔哉の提案により、四人はその場所でしばらく休憩をする事にした。


「ヴィラドリアちゃんは、どうしてこんな所に一人でいたのかしら?」


 アスがヴィラドリアと名乗った少女から何か聞き出そうとして、少し落ち着いた様子の彼女に対して質問を始める。


「その前に一つ質問よろしいかしら?」


「良いよ! 質問って何かな?」


「ここは俗に魔女の森と言われている、マリーザの住む森で間違いございませんわよね?」


 その質問に対してメルが口を挟む。


「魔女の森っていう言い方は聞いた事ないけど、マリーザ様が住むと言われている樹海なのは間違いないな」


「マリーザ様? あなた達はマリーザを信仰でもしているのですか?」


 今度はニケが答える。


「当たり前にゃ! 樹海の民は皆、女神であるマリーザ様を信仰しているにゃよ!」


「樹海の民? マリーザが女神? やはりここは私が居たはずの魔女の森とは違う所らしいですわね......ついでにお聞きしますが、ここはレムリア大陸ではありませんのかしら?」


「レムリア大陸にゃんて名前の大陸は、聞いた事が無いにゃ! ここは中央大陸にゃよ?」


「やはりそうなのですね......」


 そう言って再び考え込む様子の彼女に、翔哉は優しく事情を聞き出そうと話しかける。


「何か事情が有りそうだね。僕達で何か助けになってあげられる事が有るかも知れないし、良かっら詳しい話を聞かせてくれないかな?」


「その前にもう一つ確認したい事がございますので、私のお願いを聞いていただけないでしょうか?」


「うん、できる事なら......」


「ショウヤ様とおっしゃいましたよね? よろしければ、あなた様の血液を少し飲ませていただいても構いませんでしょうか?」


 幼い少女の口から血液を飲ませて欲しいと言われ、四人は驚きのあまり固まってしまう。


 メルは言う。


「ひょっとしてこの子、ヴァンパイアなのか?」


「ええ、私ヴァンパイアですのよ。ちょうどお腹もペコペコでございますし、出来れば血液を飲ませていただけると大変助かるのですが......」


 翔哉は了承するつもりで一応、確認をする。


「ちょっと噛む程度だよね?」


「ええ。勿論ですとも」


 アスは叫ぶ。


「ちょっ、ちょっとショウヤー!」


 止めなさいよと言わんばかりの反応を示すアスを他所に、翔哉は無言で頷き少女にその身を委ねた。


「まぁ! 了承して下さいますのね? 私、嬉しいですわ♡」


 そう言ってヴィラドリアと言う少女は、再び翔哉に抱きついて彼の首筋にゆっくりと顔を近付けていく。


「カプッ! ん! う、う~ん♡」


 少しだと言っていたわりには、かなりコクコクと喉を鳴らしてガッツリ吸血しているようである。


 その様子を固唾を飲んで見守っていた三人は、翔哉に抱きつく彼女の身体的な変化に目を見開いて叫び出す。


「ええーーーっ!?『はぁーーー?』どうなってるにゃ~ーーっ!?」


「お、重い!」


「あらまぁ! 私が止血する前に、傷口が塞がってしまいましたわね」


 翔哉の上に乗っかっていた彼女は、美しい大人の女性の姿に変わっていたのだ。

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